本当にあった建設現場の「怖い話」
建設業界に勤めていると、よく「怖い話」を聞かされることがあります。有史以来、様々な因縁を背負った建築物や土地に立ち入って工事を行い、時には深夜まで常駐することのある仕事ですから、建設業界の人は誰でも一度は、怖い経験をしたことがあるのではないでしょうか?
今回は、私が直接聞いたり、経験したりした建設現場の怖い話の一部をお伝えします。
が、談合やデータ改ざんなどといった類の怖い話ではありませんので、「怪談」が苦手な方はくれぐれもご注意ください。
内装リフォームの現場で「開く扉」
その日、Kさんは青い顔をして、いつもより早く事務所に引き上げてきました。当時入社5年目、おしゃべりで、小太りな男性の現場代理人のKさん。
同僚たちが、いつもと違うKさんの様子に気付き、その訳を尋ねると、話好きなKさんは「待っていました!」と言わんばかりの表情で、噛み締めるように話し始めました。さながら、建築界の稲川淳二といったところです。
「S邸で出たんだよ・・・怖かったぜ・・・」
その日は、S邸の内装リフォームの現場が着工日でした。KさんはS邸に家具の移動と部屋の養生をしに行ったそうです。S邸は築30年ほどの2階建ての一軒家で、60代の夫婦が暮らしています。工事内容は、家全体の壁紙の張替えと、水廻りのリフォームでした。
壁紙を張替えるためには、家具を部屋の中央に寄せる必要があるのですが、工事費を安くするために雑工は雇わず、Kさんは内装屋と2人でその作業にあたったそうです。
施主は留守で、鍵を預かっての作業でした。Kさんと内装屋は、午前中は2階の養生と家具移動を行い、階段を上がってすぐの部屋である納戸の作業を終えたところで、昼食を食べに出かけました。
昼休みを終え、2人が現場に戻ると、Kさんは締めて出たはずの納戸の扉が開いていることに気がつきました。その時は「施主さんが様子でも見に来て開けたのかな?」としか思わなかったそうです。
午後、1階の作業を行っていると、突然2階から
バタバタバタ・・・
という子どもの走るような足音が聞こえてきました。Kさんと内装屋は顔を見合わせましたが、お互いに「ネズミでもいるのかな」とあまり気に留めなかったそうです。
しかし、しばらくすると再び2階から、
バタバタバタ・・・
という足音と、
ドンッ!
という叩きつけるような強い音が聞こえてきました。
相次いで聞こえた、普通ではない物音にKさんと内装屋は再び顔を見合わせ、手を繋いで2階へ行ってみることにしたそうです。
するとまた、締めたはずの納戸の扉が開いていました。
「さっき締めたはずなのに・・・」
「とりあえず1階だけぱーっと終わらせちゃって、今日は切り上げようよ」
2人は納戸の点検を後回しにして、作業が残っている1階に戻り、仕事を終わらせることにしました。
1階の作業を終えたところで、施主夫婦が帰宅しました。施主の帰宅にほっとした2人は、1階から順番に養生と家具移動の報告と、様子を見てもらうことにしました。
養生の丁寧さを褒められながら、和やかな雰囲気で各部屋を回っていた4人でしたが、Kさんと内装屋が言葉を失ったのは、2階に上がり、問題の納戸に入った時でした。
家具に施されていた一部の養生がべろんと剥がれ落ちていたのです。
剥がれ落ちた場所には、ガラスケースに入った膝丈ほどの大きさの日本人形が一体、正面を見据えて立っていました。不思議なことに、このガラスケースの扉は大きく開いていました。
「あら、ここはやり直してもらわないとね」
施主に言われた2人は、冷や汗をかきながら養生を直して現場から引き上げたそうです。
「いやだな。あの現場、明日から何もないといいけど・・・」
Kさんは憂鬱そうにこぼしていました。
工事は順調に進んだのですが、工事中も人形のある2階の納戸からの不審な物音は続き、いないはずの小さな子どもを目撃した作業員もいて、1ヶ月ほどの工事でしたが、「S邸は出る」と有名な現場になっていました。
ホラーが苦手で意外と繊細なKさんは、工事期間中、寝不足に悩まされ、みるみるやつれて行きましたが、元々小太りだったためにそこまでの大事には至りませんでした。そして、S邸は無事に工事を終えたのでした。
それ以来Kさんは人形全般が苦手になりました。もう何年も前の出来事ですが、S邸を思い出すと今でも眠れなくなるそうです。
骨壺や人骨は経験あります。その度に地元の自治会に相談したり改葬したり大変ですが、そのまま埋めちゃったことはないです。土建屋さんてそのあたりすごい繊細じゃないですか?もし事故があったらみんなソレのせいだと思うし。
建築業そこそこ長いけど幽霊的なものは遭ったことないなぁ。夜中に外国人の窃盗団が現場に侵入してえらい騒ぎになったリアルで怖かった話ならあるけど。