改修工事における「無理な注文」への対応方法
本館の他に別棟にも実験室や飼育室を持っている研究者たちは、それほど問題なく調整できたが、研究室の中や外のバルコニーで生物を飼育したり生育させたりしている研究者からは、相当細かい指示があった。
研究者いわく、生き物は環境の変化に敏感で、すぐ新たな環境に適応しようとする。工事の騒音・振動、薬品の臭いなどは、本来の変化とは別に、一種の突然変異として表れてしまうので、絶対避けなければならない、と念を押された。
「じゃ止めましょうか?」と言いたい気持ちをグッと堪えて、ここは冷静に話を聞く場面だ。 建設工事、特に改修工事ではしょっちゅう出てくる場面である。ここでしっかり相手の言い分を記録し、どんな無理なことでも全部記録しておくことが、のちのち役に立つ。相手だって自分の言ってる事に無理があるのは分かっていながら言ってくる場合がほとんどだ。
要するに、改修工事の施工管理業務では、相手が想っていることを全部言わせてあげる、空っぽになるまで話を聞いてあげる、という仕事が重要である。ここに費やした時間は決して無駄にはならない。急がば廻れである。
「どうせ納得しないんだから」とか「結果駄目でした」という気持ちで応対していては、相手だって納得しない。見せかけだけの誠意は逆効果と思った方がいい。どんな小さな要求でも、実現可能なことは協力する気持ちを決して忘れてはいけない。
利害関係者の感情をこっちのペースに引き込む方法
どんな工事でも、人間を相手にしてる以上、理屈を超えた「感情」が最後の決め手になる。建築工事といえども、理屈だけで相手を説得するのは難しい。そして強引で一方的な決定は、後々の問題の火種になる事が多い。
しかし、様々な立場の人間が関わってる以上、特定の意見だけを聞き入れることは不可能であり、実際はどこかで線引きをしなければいけないのが現実だ。
そうした説明をする時に、関係者からヒアリングした詳細な記録が役に立つ。相手が忘れているような事柄まで、細かい話を持ち出せば、相手は徐々に心を開く。ほとんどの場合、相手の要望は聞き入れられないが、こちらから小さな提案を用意することも忘れてはいけない。
この研究施設の改修工事でも、ほとんどの研究者達に「NO!」の結論を伝えなければならなかった。せいぜい工事の時間帯や日程の希望ぐらいしか希望は叶えられなかった。激昂した研究者もいたが、それはそれでしょうがない。私に怒ってもどうしようもないが、不満の持って行き場が無いのも良く分かる。「どうせ怒られるなら、手間暇をかけた時間がムダじゃないか!」と言う技術者もいるかも知れないが、それは違う!