島根県と神奈川県で約30倍の地域格差
東北大学インフラマネジメント研究センター長の久田真教授(東北大学大学院工学研究科土木工学専攻教授)が「1橋を支える人口は、島根県と神奈川県で約30倍の格差がある」という研究内容を明らかにした。これは島根県など過疎化が進む地域では、1人あたりの橋梁の管理負担が増加していることを意味する。
以下が、久田真教授が発表した研究データだ。
このデータは、総務省の国勢調査による都道府県人口(2015年速報値)を、道路統計年報2015年の各都道府県内の管理橋梁数で割った数値から算出したもの。ちなみに、道路統計年報でまとめている各都道府県の橋梁数は、国、高速道路会社、市町村などの各地方公共団体が管理し、かつ長さ15mの橋梁と定義されている。
さっそく、久田教授にインタビューし、全国のインフラマネジメントおよび、インフラ維持管理対策を進める「東北インフラ・マネジメント・プラットフォーム」についてお話を伺った。
進展する首都圏一極集中と過疎化
施工の神様(以下、施工):まず今回、この研究データを公表した狙いをお教えください。
久田真教授(以下、久田):老朽化した橋梁など社会インフラの維持管理が本格的に進む中、1つの橋梁を支える人口について、都道府県別で地域間格差が拡大しています。その実態を明らかにすることで、みなさんに実状を知って頂きたいというのが狙いです。東京都や神奈川県などの首都圏一極集中が進む一方で、高齢化や人口減少が懸念される地域では、1人あたりの管理負担がますます増加しています。1橋を支える人口が、島根県と神奈川県で約30倍の格差があるのは看過することはできません。
過疎化した地方公共団体および地域建設企業は、高齢化が進展すると、1橋を支える人口がより少なくなり、首都圏との地域間格差はさらに拡大します。これは橋梁だけでなく、すべての社会インフラにあてはまると思います。
さらに一部の地方では、1級・2級を問わず、土木施工管理技士の給料が上昇している都市部や被災地に人材流出している現象も起こっており、地方における社会インフラ維持がより困難になりつつあります。
地域建設企業は、「地域の守り手」と言われ、ひとたび災害が起きれば、応災力を発揮するとともに、地域の社会インフラの維持管理を担う役割を持ちますが、このまま人口と建設技術者が地方から都市部へと流出し続ければ、社会インフラの維持と技術的なメンテナンスが困難になる可能性を示したデータといえます。
道路統計年報の橋梁は、必ずしも全て各都道府県の地方公共団体が管理しているわけでなく、国や高速道路会社が管理している橋梁も含まれています。しかし、橋梁の維持管理はその地域の気象条件などを良く知っている建設企業が行うことが多く、土木施工管理技士を一定数確保していくことが求められている中で、このような状況になっていることは深く憂慮すべきことです。
この研究内容の詳細については今年9月11日から13日にかけて九州大学で開催する土木学会年次学術講演会で発表する予定です。
インフラのリストラも視野に入れる
施工:インフラの維持管理の地域格差について、国や地方公共団体はどう対応すべきでしょうか?
久田:社会インフラを維持していくためには、このままの状態では過疎化している地域の人々による負担が増すことは必死です。インフラのリストラも視野に入れる方向で進めることも選択肢として考える必要があると思います。
国土交通省は、インフラ老朽化対策の進捗状況について「見える化」を行い、点検や修繕については、基準等の見直しを概ね完了しました。現在、順次点検し、点検の結果を踏まえた上で、修繕も行っています。
一方、各地方公共団体では、道路メンテナンス会議を開催し、道路の点検・診断を実施するなど、今後の維持管理に備えていますが、大胆な社会インフラのリストラに踏み切った事例はまだ数少ないです。
各自治体の将来ビジョンは、各自治体にしか描けませんから、国の補助金が出てから対応するのではなく、まず、しっかりと、自らの自治体がどのような状況に置かれているかを自覚し、その上で、どのような政策を出すべきかを考えるだと思います。
高齢化により増加するインフラ維持管理の負担
施工:「インフラ維持格差」と高齢化との相関関係があると伺っていますが、いかがでしょう?
久田:その通りだと思います。2016年発行の内閣府の『高齢社会白書』によると、「1橋を支える人口が少ない都道府県BEST10」の高齢化率は、島根県が31.8%、高知県が32.2%、鳥取県が29.1 %、秋田県が32.6%、大分県が29.6%、岩手県が29.6%、和歌山県が30.5%、徳島県が30.1%、宮崎県が28.6%、山梨県が27.5%となっています。このまま過疎地域の高齢化が進展していけば、インフラ維持管理の負担は、ますます増すことになります。
橋梁を始めとしたインフラも、できるものであれば、身ぎれいになった方が良いです。ただ、どの橋梁が不要かどうかは、老朽化の程度だけでなく、その自治体のステータス(例えば、町のシンボルとしての橋梁など)に関わる事項もあるでしょうから、住民の意見なども反映して、決める必要があります。
橋梁会社は自治体のニーズに合わせた提案を
施工:維持管理はビジネスチャンスですが、具体的に橋梁関係会社はどう動くべきでしょうか。
久田:ニーズに応えられない技術シーズを提示しても、なかなかうまくいかないことが多いようですので、自治体等のニーズをしっかり把握して、それに見合った技術提案をしていく必要があろうかと思います。
注目が集まる「東北インフラ・マネジメント・プラットフォーム」
施工:久田教授は「東北インフラ・マネジメント・プラットフォーム」を構築・展開しています。同プラットフォームの参加者はどのような方で、どのようなことを検討していますか?
久田:インフラの老朽化が懸念される昨今、東北地方のみならず各地方でもその対策が進んでいないのが現状です。そうした状況を鑑みて、2017年1月30日に「東北インフラ・マネジメント・プラットフォーム」を設置しました。
インフラ維持管理に関するきめ細かい情報発信と情報共有、地域で活動を推進している各グループとの連携強化、インフラ維持管理に関する情報基盤の整備、最新技術の社会実装の支援、人材育成の枠組みの構築など、円滑なインフラの維持管理と技術の伝承に貢献するための取り組みです。
同プラットフォームは東北大学が中心となり、東北地域の各大学と連携しながら、社会資本であるインフラの維持管理技術・長寿命化を発展させるため、研究・技術開発を進めています。今後も進展するとみられるインフラ維持管理に関する地域格差を防ぐ役割も果たしたいと思っています。
施工:久田教授の研究は、橋梁を始めとするインフラ維持管理の問題に一石を投じるものだと思います。東北インフラ・マネジメント・プラットフォームに注目していきたいと思います。ありがとうございました。
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