「失敗は成功のもと」とは限らない
私は以前、発電所工事の安全専任者として関わっていた。従来の建築の施工管理や建築図面・施工図面の作成などとは違い、いささか畑違いではあったが、これまでとは違う視点でたくさん学ばせてもらった。
一般的に、どんな世界でも「失敗は成功のもとだ!」と言われることが多い。失敗しても、それを良い教訓として先々に活かしていけば良い!とされている。失敗して恥をかき、情けない思いをして、その悔しい経験を繰り返さないようにするのが成長の証というのは、一部正しいと思う。
建設業の仕事でも、図面の失敗や施工の間違いなどは何とか取り返しがつく場合が多い。だが、現場での施工に従事する作業員の失敗はどうだろうか。現場で働く私たちにとっては、たった一度の失敗が、取り返しのつかない事態になってしまうことがある。
高所での安全帯フックのたった1回の掛け忘れが、即死に繋がることもある。いつもは慎重な人が、チョットだけ気が緩み、普段だったら絶対やらないミスをして、その1回のミスで一生を棒に振ってしまう場合や、高さ1メートルの脚立から降りる際に、バランスを崩して頭を足場にぶつけて死亡した例だってある。
「これくらい大丈夫!」と甘く見て油断したり、あるいはボーッとして普段なら絶対やらないような失敗をしてしまう。人間だからこそ、そんな失敗が起こり得る。
これまでの現場でそういった事故が起こったわけではないが、安全専任の仕事をした時に、他業者の安全だけを長年やって来た人たちから、そんな話をたくさん聞いた。
そんなベテラン安全専任者が口を揃えて言うのは、”言い続けることの大切さ”だ。同じことでも、毎日新たな気持ちで何度も言い続けることが大切だと、皆が口を揃えて言っていた。
人間は、機械ではない。一度インプットしたから大丈夫!と、そう簡単にはいかない。毎日違う感情で仕事をするからこそ、注意力も同じではない。