「もう辞めるって言ってきたよ」
Hさんが組まされた相手は、その道のベテランだった。どちらかと言えばぶっきらぼうなタイプで、悪意はないのだが口が悪い。でも、それはどんな仕事でもよくあることで、皆が皆、親切に手取り足取り教えてくれるわけではない。
それくらいのことで嫌になっていたのでは、どんな仕事に就いても上手くいかないし、長く続かない。とはいえ、職長が人の組み合わせを一応考えるそうだが、今回の組み合わせは「ちょっとなぁ…」と私は首をひねって見ていた。
それでもHさんはなんとかやっていたようだが、10日ほど経ったある日、職長から連絡がきた。
「Hさんがもう辞めるって言ってきたよ」
そう言われても、辞める!と職長に話をしてから、私がどうこうできるハズもない。本人は、「この仕事は自分には向いていない」と口頭で職長に色々話したらしいが、恐らく本当の理由はもうちょっと別のところにあると思っている。
だが、本人が辞める!と言ってしまった以上、どうしようもない。Hさんに対して、何もしてあげられなかったのが残念でならなかった。
仕事の向き、不向き
どんな仕事でも最低1~2年はやらないと、その仕事の良いところも悪いところも見えてこないだろう。ましてや、自分に向いているか向いていないかなどは、そう簡単には分からないと思う。ほとんどの人がそうじゃないだろうか?
私もそうだ。中学・高校で「あなたは理科系ですね」と言われ、じゃあ先々選ぶとしたら、建築・土木・機械・電気かな?と考え、何かモノを造る仕事のほうがいいなぁと思い、建築を選んだに過ぎない。
なにがなんでも建築!と思ったわけでもないが、それでもなんとなく建築を選んだのは、数字だけで全てが決まる世界ではなく、理屈じゃ割り切れないモノを扱う世界、という認識がおぼろげにあったからかも知れない。
私は、最初から施工畑にいたわけでなく、最初の出発は設計事務所だった。最初に関わったのが小さな木造の住宅だったのが幸いした。
例えどんなに小さくとも、特定の誰かのための家の設計は、大部分が理屈では割り切れない要素で成り立っている。人と接しながら設計を創り上げていく作業は実に楽しかった。最初の4~5年は、寝食を忘れて設計の仕事に打ち込んだ。だが、徐々にこう考えるようになった。
“設計の仕事で図面を描いているが、施工する会社によって図面を読み取る能力は違う。そのための現場管理だが、例え木造と言えども、設計図に基づく施工図がないと、施工者は設計の意図を汲み取った施工ができない。さらに、施工者側の気持ちを把握したうえでの図面でなければ単なる設計者の独りよがりになってしまい、施工者を上手く動かすことさえできない。”
そう考えた私は、施工の世界に足を踏み入れ、今に至るというわけだ。たまたまだったが、順番としては極めて正解だったと思っているし、面白い!と感じてやってきたのは事実だ。
だが、今でも建築の仕事が天職などとは思っていない。どちらかと言えば、向いているとは感じているが、もっと向いている職業がありそうだなと常々思っている。
向いている、向いていないを判断する前に、まずは精一杯やってみることが大切ではないだろうか。もう限界だ!と思えるところまでやってみると、別のモノが見えてくる。そして、この経験は必ず後々活きてくるだろう。
兵法三十六計では「走為上=逃げることが最善の策である」とあります。
「つらいから逃げる弱虫だ、みんなと同じことができない負け犬だ」と自己評価を下げまくって逃げるのと、
「私は、周りの人と条件が違うから、戦略的に離脱する」と自尊心を持って逃げるのでは、
同じ「逃げる」でも違いますネ (≧∀≦)
同じくそう言う現場の人を見てきました。
30代の方は勝手に出張先から自宅へ帰り、後日弁護士を通して、退職の旨を伝えてきました。
50代の方はこれから長く続けますと入社時に言っていたものの、3ヶ月してからやめました。
現在在籍している会社は3年たっても、成長があまり見られず、上層部からは退職を促していますが、本人には仕事ができない向いていないの判断すらできていません。
すぐに辞める行動ができるのはいかにこの業界がヤバいかをすぐに理解できる人ということなので賢いですね。