市町村間の橋梁で損傷が深刻に
全国に約70万橋あると言われる橋梁のうち、市町村管理の橋梁は約50万橋にも及ぶ。少子高齢化に悩む日本は、すべての市町村の財政が決して健全とはいえず、橋梁をはじめとするインフラメンテナンスは一部後回しになっている実情がある。
土木学会が、道路橋の健康状態について市町村別の評価を行ったところ、北海道、日本海側の東北、北陸、四国、九州東部で損傷度が大きくなる傾向が判明。この結果を踏まえ、土木学会の家田仁インフラメンテナンス総合委員会委員と、中村光インフラメンテナンス総合委員会インフラ健康診断小委員会委員長の両者が記者会見を開いた。
家田委員は「インフラに限らず、物事は実情をできる限り正確に、国民に知っていただいて、国民もファクトに基づいて、正しい評価と判断をしてほしい。その中でも市町村が管理する膨大な数のインフラが重要であり、できる限り正確に知っていただくことが急務と言える」と語った。
ちょうど折しも、和歌山市内を流れる紀の川に架かる「六十谷水管橋」で上水道の管が破損したニュースが衝撃を与えた。土木学会では「まだ詳しくは情報を把握していない」としながらも、関連する委員会や支部と連絡を取り、調整しながら何らかの形でアプローチする方針も示している。
橋梁の損傷は塩害等の複合劣化と相関関係にある?
会見では中村委員長が、「道路橋の健康状態に関する市町村別評価」について説明した。
国土交通省は2014年7月から、トンネルや2m以上の道路橋などを、5年に1回の頻度で点検することを義務付けている。土木学会は、同年から2018年までに1巡目の点検橋梁の合計が50橋以上の市町村1,499(東京23区を含む)を対象に評価した。
土木学会の健康診断評価に用いる損傷度を使用し、損傷度の小さいほうから、1,499市町村のランク付けを行い、上位25%(375自治体)を青色、中位50%(749自治体)を黄色、下位25%(375自治体)を赤色とした。
地域的な特性では、日本コンクリート工学会が「複合劣化コンクリート構造物の評価と維持管理計画研究委員会報告書」で公表した、アルカリ骨材反応と塩害による複合劣化の可能性がある地域と各市町村の橋梁損傷度と比較的一致する傾向が分かった。また、人口減少や予算減も一つの要因であると中村委員長は指摘している。
2021年度中に「発電用のダム」について健康診断結果を公表する予定で、ほかのインフラについても随時発表していく方針も示した。

アルカリ骨材反応と塩害による複合劣化の可能性がある地域と各市町村の橋梁損傷度と一致する部分があると、中村委員長は指摘
橋梁損傷は地方の問題だけにあらず。大都市でも顕在化
ただし、損傷度が大きい市町村と小さい市町村が隣接し、さらに東京、神奈川、大阪府など人口が多い都道府県でも、損傷度が大きい市町村が存在しているため、一概に複合劣化が要因とは言えないようだ。
たとえば、東京では世田谷区、神奈川では横浜市と横須賀市の損傷度が大きいという意外な結果が出ている。
具体的には、横浜市は健全な橋梁はわずか5.6%で、「予防保全段階」の橋梁が83.2%と多数を占め、「早期措置段階」が11.2%となっている。横須賀市は、健全な橋梁が41.9%と多くある一方、「予防保全段階」の橋梁が38.7%、「早期措置段階」の橋梁が19.5%を占める。また、世田谷区は健全な橋梁が11.9%、「予防保全段階」の橋梁が69.3%、「早期措置段階」の橋梁が16.8%だった。
この世田谷区の橋梁の建設年代は、架橋60年以上が36.6%、同50~60年が24.8%、同40~50年が6.9%と、区が管理する橋梁は古い時期に建設されていることが分かった。世田谷区の管理する橋梁は都心に近く、通行車両数も多いことから負荷も掛かる。架橋年が古い場合、都心に近い地方自治体でも、評価が低くなる傾向もあるとの見方が示された。
これらの結果を踏まえ、中村委員長は「橋梁の損傷の問題は大都市、地方を含めた全国的な課題である」とした上で、土木学会として橋梁が劣化しやすい地域の市町村について他地域よりも注意して維持管理を行うことなどと提言している。
データを示すことは重要である一方、政府や行政の意識も変革していくべきではないかという点も気になり、会見中に質問が飛んだ。
インフラメンテナンスはトップの意識が重要
――インフラメンテナンスの整備にあたり政治や行政のトップの意識は重要と思いますが。
家田仁氏(以下、家田) 笹子トンネル天井板落下事故等を契機に、太田昭宏国土交通大臣(当時)が事故の翌年である2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ、国や地方自治体に強く働きかけたことがありました。トップの努力や意識は非常に重要です。土木学会としてもインフラメンテナンスの大切さを強く訴えていきたい。
――そもそも、この問題は地方自治体に技術者が不在という点も課題です。土木学会と地方自治体の連携が必要だと思いますが。
中村光氏(以下、中村) たとえば、愛知県と密接な関係を持つ外郭団体である「公益財団法人 愛知県都市整備協会」と土木学会中部支部が協定を結んで、維持管理の情報共有をはかっており、支部単位では地方自治体との連携は強化されていると思います。
家田 橋梁で言えば、7分の5が市町村管理であるように、地方を大切にしなければなりません。しかし、土木学会の会員のうち、地方自治体の技術者の比率は残念ですが高くありません。そこで土木学会は一昨年から、市町村の技術者を対象にして、インフラメンテナンスのセミナーを開催しております。また、不明な点についても回答する質問箱も設けております。
最近では支部、地方の市町村、大学、建設会社がそれぞれ主体性を持ち、連携を強化している段階でベクトルとしては大いに重視している視点です。
――海外のインフラメンテナンスで参考になる事例は。
家田 民間の企業群をうまく活用した「コンセッション方式」についてもさまざまな場で検討されており、部分的には進みつつあります。このあたりはヨーロッパが進んでおり、他国の事例を参考にしながら、日本も良い制度をつくっていければ望ましい。
――インフラメンテナンスにおける戦略的なICT活用については。
中村 この問題はICT技術をどのように活用するかとともに、三次元データをどのように使って仕事をするかという2つの観点があります。民間がデジタル化を進めても、地方自治体が紙の提出を求めていれば、データ化のメリットが生まれません。そこでICT技術をしっかりと活用する仕組みを考える技術者が地方自治体に必要です。
市町村管理の橋梁に限らず、インフラメンテナンスは日本全体を含めた重要な課題だ。インフラをおろそかにして、国が崩壊した事例は数多くある。
「累卵の危うき」の例えのように、事態は切迫し、解決には極めて緊急を要するものだ。新政権ではこの危機的状況を察知し、一刻も早いインフラメンテナンスへの施策を望む。
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