オフィスの内装工事を手掛ける株式会社エス・ビルド(大阪府大阪市)は、株式会社log build(本社:神奈川県藤沢市)の施工管理ロボット「Log Kun(ログくん)」を導入、遠隔で工事現場を管理する”リモート施工管理”を開始した。
土木の世界では国土交通省は2022年度から遠隔臨場を原則化し、リモートがいち早く進んでいるが、建築でも同様だ。ただし内装工事でのリモートはまだ遅れているのが実情であるが、同社はいち早く取り組んだことは注目に値する。
「Log Kun 」はスマートフォンやiPad、パソコンから管理できるため自宅や移動中でも現場状況を確認でき、音声通話や書き込みを通じてリアルタイムで職人に指示出しすることが可能。さらに遠隔管理により同時進行で複数の現場を確認できるため、生産性の向上、1人あたりの管理物件数の増加などが期待できる。
経営ミッションとして”唯一無二の内装工事会社”を掲げ、建築業界の模範となるような企業を目指す同社の澤口貴一社長に話を聞いた。
国の設計労務単価が反映されない民間工事
――まず内装業界の課題からお願いします。
澤口貴一氏(以下、澤口社長) 当社は日本室内装飾事業協同組合連合会(日装連)の東京と大阪に加盟し、IT、事業承継など内装業界の課題について話し合っているのですが、よくあがる課題は職人不足、資材の高騰で特に人材、担い手不足です。また、一度下落した単価を値戻ししようとしても難しいという話もよく聞きます。たとえばバブル時代には一日、高値を提示してようやく大工職人に来てもらった時代からバブル崩壊後には親方でも1万円台で働き、デフレの脱却ができない状態が続いている話が多いです。
――国も設計労務単価は10年連続で上がっていますが、民間工事では反映されない実情があるということでしょうか。
澤口社長 土木は国主導ですから、賃金も上がりやすい。しかし、民間企業はみんなが足並みそろえて価格をあげなければ難しい。結局、安い価格で受注している内装工事業者に仕事が流れますから、単価はなかなか回復しません。ですから、若者の担い手確保が難しいことは当然の課題だと思います。
――課題の多い内装工事業界の中で、御社は”唯一無二の内装工事会社”が経営ミッションに掲げていますが、その意図するところは。
澤口社長 当社が”日本一の内装業者”になるといっても、働きたい人がどれだけ賛同してくれるのかと言えば疑問ですよね。そうではなく、働きやすさ、高い賃金の確保、プライベートとの両立などをしっかりと実現することに視点を置き、”建築業界の模範的企業”となることを目指したミッションになります。
リモート施工管理で生産性向上がなるか?
――こうした背景から、工事現場での”リモート施工管理”を開始されたのでしょうか。
澤口社長 ええ。当社は現場管理業ですから、現場管理の能力イコール生産能力です。人を採用すれば解決するかもしれませんが、今は施工管理の取り合いでこちらも限界があります。仕事があっても現場管理能力を向上させていかなければ、売上向上にはつながりません。
そこで、株式会社log buildが開発する施工管理ロボット「Log Kun」を導入することになりました。そもそも、現場監督は職人がクロスを貼っているところをただ見るためだけに現場に行く必要はありません。その代わりに現場管理ロボットが現場内を回り、リアルタイムの現場状況を把握してもらうんです。これにより、現場のロボットをスマホやiPad、PCから操作して、進捗確認や安全管理、品質チェックを遠隔で行うことが可能となりますし、音声通話やiPadを通して職人に指示出しを行うこともできます。
今回の導入により、1人あたりの生産性向上や移動時間の削減、コロナ禍での感染対策など新しい働き方の実現に期待しています。現場ロボットは2021年12月から東京と大阪の一部工事現場にて稼働を開始し、計3台のロボットが活躍しています。今後はこの取組みにより、1人あたりの移動時間を最大2~3時間削減、管理物件数を5件ほど増加できるよう目指していきます。
期待される遠隔管理の内装工事業界への浸透
――土木の世界では遠隔臨場が当たり前の世界になっており、内装工事業界にも拡大した意味を持ちますね。
澤口社長 これまでは現場監督が直接工事現場へ行き、進捗確認や職人へ指示を行っていました。多い時は1日2~3現場回るため現場間が遠いと移動時間だけで数時間かかることがあります。まずはロボットを3台導入し、3人分の現場監督をカバーすることを目指しますが、今後は複数の現場を一人の現場監督で管理できる体制を整備できればと考えています。
――実際に運用してみて、ロボットの性能はいかがでしょうか。
澤口社長 まだまだ決して満足いくものではありません。たとえば、段差でこけてしまったら現場にいる誰かがもとに戻さなければなりませんし、電源不良の問題もあります。ロボットを導入すれば、ただそれだけで大幅に生産性が向上するものではありませんが、仕組みは整備されましたので、後はオペレーションとお客様のご理解の問題です。
――お客様の反応は。
澤口社長 「試みとしては面白いよね」「現場がおさまってくれればいいよ」という意見が多いのですが、オフィスビルへの挨拶やカギやテナントの開け閉めの問題もあるので、現場運営がちゃんとできるのかという点は指摘いただいています。
積算業務を大幅に効率化した「建築の電卓」
――ロボット以外での生産性向上の取組みについては。
澤口社長 建築業界向けの積算ソフト「建築の電卓」を開発し、外販しています。建設業界では積算業務があり、図面をもとに必要な材料(床材や壁材など)を計算しなければなりません。従来は手計算で行い、材料を発注すると計算間違いもあり現場では材料の数が不足する課題がありました。
実は工事現場ではITの導入が進んでいますが、工事に取り掛かるまでの工程は効率化されてないのが実情で、積算業務もそのうちの一つです。導入企業は、大手企業も含めて300社で積算業務の効率化に大きな効果を果たしています。
効果として業務時間は75%削減し、材料ロスは50%カットしています。使用者側としては、「積算業務が大幅に軽減でき、現場により集中できるようになりました。もう手計算には戻れない」というありがたい声もいただいています。
職人など担い手の確保・育成に協力
――今後、目指していきたいところは。
澤口社長 長野県の株式会社岩野商会では、「岩野建設専門技能訓練学園」を設立し、職人を育成しています。修了すると就職先も保障されます。同学園を見学しましたが、職人を増やしていかなくてはならないという課題感は一緒ですので、連携していければと思っています。さらに外国人、女性と次々と担い手を増やしつつ、ロボットなどで生産性の向上に努めていきます。今当社では100人で50億円の売上という中期目標がありますので、賃金アップとともに、今後具体化を進める方針です。
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