自称「法面工事のスペシャリスト」が自信喪失した現場
私は今、法面工事の現場で元請けの現場管理者として従事していますが、実は法面工事に関わるのは約14年ぶりです。この仕事から13年近くも離れていたのです。
とはいえ、新卒で入社した専門工事会社では、岩盤工事部法面工事課で在籍10年のうち8割近く、法面工事に従事してきた自負と自信があります。
しかし、13年のブランクは大きく、そんな自負が一発で吹っ飛ぶ出来事がありました。
平成27年8月5日に「ロープ高所作業」の新規定が公布。その内容とは?
法面整形が終わった後のことでした。
境界のポイントを出すために、プリズムを持ってロリップを親綱に取り付けて、いざ、ぶら下がろうとしたところ、「あれっ?ロープ高所作業の特別教育の資格持ってたっけ?」と同僚に質問されました。
「えっ、なにそれ?」
私の認識では、法面作業時は「親綱にロリップを取り付けて、ロリップを腰バンドの両側に付けてぶら下がる」だけでしたが、平成27年8月5日に「ロープ高所作業」についての新しい労働安全衛生規定が公布されていたのです。
特別教育を必要とする業務の規定については、平成28年7月1日に施行されており、結局、私は特別教育を受講していなかったので、昔とった「法面工事のスペシャリスト」という杵柄を披露することはできませんでした。
法面作業などロープ高所作業に従事するためには、特別教育の受講が必要になっており、受講時間は次の通り、学科講習4時間、実技講習3時間もあります。
特別教育を必要とする業務の追加(平成28年7月1日施行) 出典:厚生労働省「ロープ高所作業」での危険防止のため労働安全衛生規則を改正します
教育科目 | 内容 | 時間 | |
---|---|---|---|
学科教育 | 1 ロープ高所作業に関する知識 | ロープ高所作業の方法 | 1時間 |
2 メインロープなどに関する知識 | ・メインロープなどの種類、構造、強度、取り扱い方法
・メインロープなどの点検と整備の方法 |
1時間 | |
3 労働災害の防止に関する知識 | ・墜落による労働災害の防止のための措置
・安全帯、保護某の使用方法と保守点検の方法 |
1時間 | |
4 法令関係 | 法、令、安衛則内の関係条項 | 1時間 | |
実技教育 | 1 ロープ高所作業の方法
墜落による労働災害防止のための措置 安全帯と保護帽の取り扱い |
・ロープ高所作業の方法
・墜落による労働災害の防止のための措置 ・安全帯と保護帽の取り扱い |
2時間 |
2 メインロープ等の点検 | メインロープ等の点検と整備の方法 | 1時間 |
※編集部注
ロープ高所作業について、労働安全衛生規則と安全衛生特別教育規程の改正があり、平成27年8月5日に公布。改正労働安全衛生規則は平成28年1月1日(一部平成28年7月1日)に施行、改正安全衛生特別教育規程は平成28年7月1日に施行。
さらに、ロープ高所作業における危険の防止のための規定(安衛則第539条の2)が平成28年1月1日に施行され、ロープは1本だけではなく、2本でぶら下がらなければなりません。
具体的にはメインロープとライフラインの2本を使う必要があります。ライフラインはセーフティブロックを使用できれば作業性はそれほど落ちないと思いますが、当現場は災害復旧の現場で法長が40m以上あるのでライフラインも親綱を使います。
ロープ高所作業の死亡事故は、平成21〜26年の6年間で合計24件(ビルメンテナンス業13件、建設業11件)もあったため、労働安全衛生規則が改正されたようです。自分が10年間従事していた時には、こういう改正はあまりなかったと記憶していますので、本当にびっくりしました。
法面にぶら下がる時は「現場管理の職員も2本でぶら下がらなければならないのか?」と疑問に思い、労働基準監督署に問い合わせたところ、点検や管理、測量等の場合は、これまで通り1本でぶら下がって良いそうでした。
法面工事でいうところの、2点取りをしっかりしていれば良いということ?と思い、Google先生に聞いてみたところ、次のように厚生労働省のページに出てました。管轄しているところでキッチリ調べる癖をつけなければダメだなと思いましたね。
経過措置(安衛則 附則) 出典:厚生労働省「ロープ高所作業」での危険防止のため労働安全衛生規則を改正します
ロープ高所作業のうち、ビルクリーニングの業務に係る作業やのり面保護工事に係る作業以外の作業(橋梁、ダム、風力発電などの調査、点検、検査等を行う作業など)については、①及び②の措置を講じた場合に限り、当分の間、安衛則第539条の2の「ライフラインの設置」の規定は適用しないこととしています。
①メインロープを異なる2つ以上の強固な支持物に緊結すること。②メインロープが切断するおそれのある箇所との接触を避けるための措置を講じること(ディビエーション)。それが困難な場合は①の他に当該箇所の下方にある堅固な支持物にメインロープを再緊結すること(リビレイ)。
余談ですが、ある時、法面工事を施工している専門業者の現場代理人の方に、「施工の歩掛りが間違いなく落ちると思いますが、 法面工事の市場単価は上がったのですか?」と質問したところ、「所属する協会団体で市場単価の変更について陳情した」ということでした。
それは、そうですよね。より安全に仕事を行ってモノを作ってこれまでと同じ単価でというわけには絶対に行かないと個人的には強く思います。
平成27年7月1日から足場からの墜落防止対策を強化。その内容とは?
続いて足場です。足場のことでも、浦島太郎のような経験をしました。
足場の組立解体に関わる資格といえば、「足場の組立て等作業主任者技能講習」の修了者が作業主任者で、他の作業員の方々は、特に資格等は必要ないという認識でした。
先日、足場屋さんがいない時に、ちょっとした足場をバラしたほうが、明日足場屋さんが来てバラすよりも、現場がスムーズに進むと思って、同僚に「法面屋さんで足場ばらして作業進めましょうよ」と提案したところ、「えっ、今なんて言いました?足場の組立は特別教育の受講修了者しかできないんですよ」と。
足場の組立解体に従事する人は、経験者で3時間、未経験者で6時間の特別教育の教育が必要だということをつい先日知りました。
「マジ?」
速攻で足場屋さんの安全書類の有資格者を確認したところ、当然ですが、皆さん特別教育を受講済みでした。
2月に枠組足場を現場で組んだ時に、法改正があったことを知っていたにもかかわらず、今回のことを全くスルーしていたのは、当事者意識がなかったと激しく反省しております。
ブランクがある現場技術者としての心構えとは?
昨年の6月に土木施工管理の技術者として復帰して1年が経ちました。復帰して最初の半年は、換気所の設備工事で、土木屋は所長と私のみ。他の方は職種が電気、機械で、とても貴重な経験をさせていただきました。
私が社会人になったのは平成6年。土木用語辞典を常に持ち歩き、先輩や元請け職員、協力業者の方々に仕事を教えてもらいました。今はネットで検索すれば、ある程度の情報は収集できます。本当に便利な時代になりました。その一方で、自分が得意とする工種であっても、当時当たり前のことが、法改定などでNGになっていることには驚きました。
これからも土木技術者として恥ずかしくないよう、常に学ぶ気持ちを持って、現場の安全を第一に考え、そしてネットを駆使して、13年のブランクで職場に迷惑がかからないように日々の業務に励みたいと強く思っています。