石積み構造物から学ぶ施工管理技士の課題
コンクリート構造物や鉄筋構造物が増える中で、あまり見ることのなくなった石積み構造物。
しかし、石積み構造物こそ、日本を代表する構造物ではないでしょうか。
構造物を設計・施工する上で、利益率の悪さゆえに、石積みを嫌う施工者は多いのも事実ですが、この歴史的石積み工法の中にこそ、現代の施工管理技士や施工者に足りない大切なものが存在しているのではないでしょうか。
何年経っても劣化を感じさせない石積み構造物の素晴らしさ
以前、指定文化遺産の構造物内において、階段の手すり設置工に携わったときのことです。
その建築物は築100年を超える巨大な石積み構造物でしたが、構造物だけでなく、階段の石積みにも劣化がなく、とても素晴らしい形をとどめていました。
よく近所の神社や公園にも、石積みの階段は設置してありますが、その石積みの階段は、年数が経てば劣化してくるのが一般的です。歩くとグラグラで、今にも落ちそうな石の階段を見たことがある方も多いと思います。石積み階段の設置およびメチ塗といった工事は、県や市の業務委託でも、頻繁に発注されていますよね。
しかし、この建築物は100年を超える月日が経っても劣化が見られませんでした。当時の石積みの施工技術がどれほど素晴らしいものか、実際に工事に関わることで非常に大きな感銘を受けたことを今でも覚えています。
自然や地域の特性に合わせて施工された石積み構造物
この石積み構造物で私が一番感動したのは、自然や地域の特性を活かして施工しているポイントでした。この日本文化遺産指定の石積み構造物に使用されている材料の石は、一般的に使用されるひし形の石ではなく、長方形型の少し黒ずんだ石。しかし暗い雰囲気にはならず、周囲の木々がその構造物の存在感を引き立てて、素晴らしい雰囲気を演出しています。
さらに色合いだけでなく、現在の石積みの勾配では考えられないほど、ほぼ垂直に積み上げられており、どの角度から見ても素晴らしい表情をしています。昔の施工者は、今よりも機械や技術が進展していない中で、どうやってこんなに素晴らしい構造物を建築したのか不思議です。
施工管理者の「良いものを造る」という意識
実際のところ、石積み工法による構造物が減った理由は、儲けや施工期間の問題で、より高い利益を得られる工法が生まれたことが大きな要因でしょう。
しかし、利益の代わりに、「見るだけで感動を与える」という、建築物のもう一つの側面を忘れてしまっているように思われます。昔の建築物に触れると、その地域の特性を理解し、見るだけで感動を与える建築物を施工しようという気概を感じます。
もちろん、歴史的な構造物であるからこそ感動するといった側面もありますが、見るだけで感動する構造物を造ることは、今の施工管理者や施工者に足りていない部分ではないでしょうか。
コンクリート構造物を造る時でも、型枠の化粧部分をゴムハンマーなどで丁寧にたたいて、補修する必要のない綺麗な化粧の構造物を心掛けることだったり、鉄筋構造物の建築の際に強度を強くするためにバッテン型の結束をするといった「良いものを造る」という意識が、先人たちに比べて、私たち現代の施工管理者には足りないのかもしれません。
何年たっても未来の人々に美しいと思ってもらえる石積み構造物を造りだした職人たちの工法から私たち建設業界人は、工事利益率だけでなく、「良いものを造る」という意識を、いまいちど学ぶ必要があるのではないでしょうか。