名古屋高速の土木屋が語る「構造愛」とは?

森下 宣明さん(名古屋高速道路公社 経営企画部企画課 都心アクセス関連事業 室長)

“名高速一筋30年” ベテラン土木屋が語る「構造愛」とは?

都市高速のやりがい、魅力はどう映っているのか

名古屋高速道路公社(本社:名古屋市北区)は、名古屋都市圏の高速道路などと接続する都市高速を建設、管理運営する全国初の地方道路公社だ。1970年に愛知県と名古屋市の共同出資により設立され、今年で設立50周年の節目を迎えた。

地元では「名高速(めいこうそく)」と呼ばれる。名高速は、9つの路線(総延長81.2km)から成り、1日平均約34.4万台の車両の移動を支えている。

公社では現在、リニア中央新幹線の開業に併せ、名古屋駅周辺や栄地区へのアクセス性向上を図るため、2箇所のJCT(新洲崎JCT、丸太町JCT)に新たな「渡り線」を追加し、3箇所に新たな出入口(新洲崎、栄、黄金)を設置する名高速初の大改造事業を進めている。

この事業をとりまとめるのが、都心アクセス関連事業室長の森下宣明さんだ。名高速一筋30年のベテラン土木屋にとって、都市高速のやりがい、魅力はどう映っているのか。話を聞いてきた。

非常に難易度の高い「都心アクセス事業」

――今はどのようなお仕事を担当しているのですか。

森下さん 都心アクセス関連事業として、名古屋駅周辺などの都市高速の出入り口や渡り線の改築を担当しています。2013年の全線開通により、新規事業を専属で担当する部署がなくなっていたため、都心アクセスのプロジェクトに特化した部署として、2019年4月に立ち上がりました。

いきなり14名体制の室が誕生し、当初は誰に何を担当してもらうか、何から手を着ければ良いのか、全く白紙でした。設立団体からの出向組と公社プロパーの混在チームで、ほとんどが都市高速の新規事業の経験がないという状況でしたが、何とかチーム一丸となり、事業を進めることが出来ています。

都心アクセス関連事業の平面イメージ図

室には、計画と工事、設計それぞれのチームがあって、工事計画の協議、特殊設計の検討、ECI発注などを行っています。今年度からは用地担当のチームも加わりました。この7月に先行する新洲崎・黄金が国土交通大臣の整備計画許可がおりたところで、室ができて1年少しで許可をいただけるところまで進捗しました。

非常に難易度の高い事業であり、室が立ち上がる前は、色んな面で全く目途が立っていなかったことを考えると、設立団体や関係機関の方々の理解、協力と室員の苦労と努力により、一歩前進することができて、ホッとしています。

そもそも難しい事業ですが、建設全盛期のころから見れば、公社の技術力、組織力も低下しており、それをカバーするために、難事業の経験豊富な首都高速道路や地元大学などと連携することで、技術的なパフォーマンスを高めながら、今後、詳細設計、施工といった事業を進めようとしているところです。

パズルを組み合わせ、絡まった糸を解く感覚

――そんなに難しい工事なんですか。

森下さん そうですね。首都高道路の方からも「こんな難しい事業、よくやりますね」と言われましたから(笑)。それを聞いて、ショックでしたね。それでもやるのがミッションですので、あらゆる工夫と方策を挑戦的に考えるようにしています。

新洲崎JCT周辺の渡り線イメージ

供用中の高速道路を大規模に改築するわけですが、そもそも、供用中の道路には今回の計画は全く考慮していないため、計画的な仕込みがない状態です。既存の高速道路だけでも、併設する平面街路、交差点、地下構造物や埋設物をお互いに考慮し、微妙なバランスのもと成立しているわけで、それが都市高速の難しいところですが、その状態のところに、さらにあちこちで渡り線、ランプを接続させる必要があります。

線形成立だけでも非常に難しいところ、地下には移設不可能な建築物、洞道、地下埋設物が沢山埋まっていて、構造的にそれを回避しなければいけないのも問題です。

新洲崎のJCT周辺の現状

極端に言うと、地上と地下の構造物がちぐはぐな位置にあるところをいかに施工し、安全な設計ができるか。パズルを組み合わせる、絡まった糸を解く、そんな感覚の箇所もあります。どうやって設計するか、どうやって施工するか皆で議論し、答えが見つからないと、見つかるまで、頭から離れないことも多いです。

2027年まで時間があるようで、実はあまりありません。難事業への対応策として、大胆な発想と緻密な計算が必要で、例えば、先行する新洲崎は、全国的にも例の少ない技術提案交渉方式の設計施工タイプにより、従来だと複数の工区・工種に分割発注するところを、一括発注し施工者技術力を設計にも反映させていただく、いわゆるECI方式として発注しました。発注や設計に関しては、何度か国総研・土研にも相談させてもらっています。

都市部で規模の大きな公共事業の仕事をしたい

――公社に入る前は、どのような勉強をしていたのですか?

森下さん 三重大学で農業土木を学んでいました。農業土木を選んだ理由はとくになかったのですが、三重出身で地元の大学だったし、三重の大学にある唯一の土木学科がそこの農業土木学科で、なんとなく「公共事業や土木事業をやりたい」ということで、そこにしました。

研究室は土質関係でした。研究室の先生に「お前、どうだ?」と言われたので、公社に就職しました。就職した1990年ごろの名高速は、全体計画の3/8程度の完成で、どんどん新設の事業化や工事を進めていましたから。

――公社で具体的になにをやりたいという考えがあったのですか。

森下さん いや、そもそも公社がなにをするところかすらも、あまりわかっていませんでした(笑)。ただ、「都市部で規模の大きな公共事業の仕事をしたい」という思いがあったのと、技術的に難しい工事に興味もありました。

就職した当時は、あちこちで建設事業が進む一方、いろんな問題で都市計画にすら組み込めない路線もあったりで、「建設工事が永遠に続くんじゃないか」、「全線開通を迎える日が来るのだろうか」といった感覚でしたが、その分、仕事への期待感はありましたね。2013年に81.2kmの全線開通を迎えたのですが、公社設立後40年以上が経過してのことです。その間、先輩達は相当苦労されたことだと思います。

――公社ではこれまでどのようなお仕事を?

森下さん 採用の何かの折に希望を聞かれ、生意気にも「都市高速の企画の仕事がしたい」と答えたら、最初の配属先が企画課でした。「何をやるのかな」と思ったら、償還計画の仕事で、技術屋採用ですが、金利予測や利息計算、収入計算などの仕事でした。4年間。

イメージした企画とは違ったのですが、新規事業の採算がとれるか、どの順番に建設すべきか、料金をいくらにすべきかなどの長期的な事業の要づくりの仕事で、後々考えると、若いころから広く長期的な視点が身につくなどその後の役に立ちました。まだまだ道路を延長する時期で新規候補路線も多く、やりがいがありました。

入社5年目に、ようやく技術屋の仕事につけました。都心環状線、東山線、小牧線の現場工事を3年ほど担当しました。土木本来の仕事だし、描いたモノがどんどんカタチになっていくわけですから、楽しかったです。

工事最盛期のころで、トンネル、橋梁下部、鋼橋架設など、3路線の異なる現場や工種を同時に担当させてもらいました。いまの公社からは考えられないことで、濃縮した経験が積めました。現場の次は、設計課で、実施設計のほか、耐震実験や基準づくりなど6年担当しました。課の名称がそのまま「設計」という課は珍しく、当時、全国でも当社だけだったと思います。

技術力の集約のイメージもあって、そのことが職員の誇りでもありました。全線開通が近づいた頃には残念ながら設計課は消滅しましたが。その後、保全部門に移り、耐震補強の設計、アセットマネジメント、アル骨対策など5年行いました。

現場工事担当から通算して14年間、構造主体の仕事を担当していたので、このまま、構造分野に従事させてもらえるのかと思っていたところ、また償還担当に戻されました。当時、「名高速の料金が日本一高い」と揶揄されていて、知事・市長の100円値下げ公約を契機に、料金値下げを検討する日々が続きました。なんとか社会実験で特定の時間帯に限って値下げが実現しましたが、私は6年間異動できませんでした。

その後、維持担当に異動した途端、10年に一度の大雪があり長期の除雪対応に苦慮したりもしましたが、その後は管理者職として大規模修繕工事や防災、環境など短いサイクルで異動し、2019年4月から今の職場に来ています。

「構造愛」がないと仕事をやっていけない

――これまでで楽しかった仕事は?

森下さん きついことも多いですが、どの仕事も楽しかったです。自分が手掛けた仕事がお客様に実際に使用され役立つことがなによりの喜びですかね。とくに安全に関することですね。今は亡き偉大な先輩の口癖が「名高速の構造物を愛せ!」で、それを若いころたたきこまれました。新設、補修問わず設計する際には、強く言われていました。そのことがいつの間にか体に染みつきそれを心がけてやってきました。

――「愛」ですか。

森下さん そうです。「愛」です。他の都市高速の人も同じだと思いますけど。とくに、名高速は首都高速、阪神高速より設立の最初のスタートが10年ほど遅く、第一期供用はそれ以上に遅くなったこともあり、先輩達は、「技術力だけは東京、大阪に負けない」という気概で取り組んでこられました。

実際、鋼構造にはこだわりが強く、鋼桁や鋼製橋脚の疲労損傷は、交通量の差もあるかもしれませんが、首都高速、阪神高速に比べてかなり少ないです。逆に、「愛」がないと、仕事をやっていけないと思います。技術屋として、いい加減にやっちゃうと面白くなくなると思います。都市高速以外、仕事がないわけですから。他の構造物をやりたくてもやれないわけで。

先輩が「愛せ」と言ったのは、その後続くのですが、「例えば自分の大切な家族が住む家を自ら設計施工しようとした時に、安全や耐久には絶対に手を抜かないはずだ」と、高速道路の設計施工も同じ気持ちで取り組めと、ようは技術屋として恥ずかしくないように取り組めということだったと思います。

――考えてみると、都市高速ってけっこうレアな事業ですよね。

森下さん そうですね。都市高速の事業者は全国でも5事業者しかいません。人口50万人以上の政令指定都市でなければ、法的に建設することができないわけです。一般的な都市間の高速道路とよく一緒にされるのですが、都市内に特化した事業としては別モノです。全路線中の構造物比率も圧倒的に異なります。

そう言う意味で、都市高速に携わる技術者はレアかもしれません。建設から管理運営までやる、そこまで特化した職場はそうはありません。地域によって都市高速の規模が異なりますが、やることは基本的に同じです。建設・管理延長に応じて、組織に大小はありますが、小さな組織だからといって、技術や安全面に劣って良いということは絶対にないので。

そう考えると、名高速もそうですが、同様の福岡北九州高速や広島高速さんも相当苦労されています。首都高速や阪神高速さんが何人かで対応していることを、極々少人数で対応する必要があるので。でも、色んなことをやらされる分、技術者にとってしっかり取り組めば色んな面で力も着くと考えれば、規模的にも5社の中で中間ですし、名高速は「ちょうど良い都市高速」だとも言えます。

――公社の仕事の魅力は?

森下さん 首都高速道路や阪神高速道路と比べると、公社にはそれほど多くの技術者がいるわけではありません。組織としては小さいです。その分、1人の技術者として、いろいろな仕事を経験することができます。担当者の裁量も大きく、自分の意見やアイデアが大きな組織よりは通りやすいと思うので、やりがいを感じやすいのも魅力です。

ただ、今回の都心アクセス関連事業は、裁量の範囲が大きすぎて、とくに技術面では。色んな制約条件から相当大胆な対応が必要となります。これまでの先輩達がこだわってきた技術的な面にそぐうかどうか、先の先輩が存命だったら、怒られそうで心配ですが…(笑)。難しいことに対して、責任もありますが担当者の裁量次第という点が魅力でしょうか。

机上の話だと、なかなか学生に興味を持ってもらえない

――土木の人材育成についてどうお考えですか。

森下さん 実は私、9年ほど前からある大学で鋼構造に関する非常勤講師をしているんです。先の先輩の後任として、自分が学生時代に習っていないことを教えています(笑)。「土木って面白いんだよ」ということをいかに学生に伝えるかを日頃から考えながら、苦戦しながら教壇に立っています。

計算とか机上の話は小難しいので、なかなか興味を持ってもらえないところがあるので、現場学習として、実際の大きな構造物に触ってもらうといった授業もやってみたりしています。ただ、言葉でインフラの重要性を説明しても、学生はあまりピンときていないようなので、なかなか難しいところですね。

――最近の学生気質をどう見ていますか。

森下さん もちろん昔の学生とは違いますが、頑張る子もいますし、捨てたものではありません。いかに興味をもってもらい、経験してもらうかが問題で、将来の担い手不足が懸念される中、そこは周りの大人がしっかり役割を果たすべき部分だと思っています。

私の場合、講義が下手ということもあり、実際の現場に行って、箱桁や鋼製橋脚の中に入って、実構造物に触れる機会をなるべくつくるようにしています。あらかじめ、学生に図面を確認させてから現場に行くのですが、図面ではあるかどうか分からないようなリブとかが、実物では以外に大きくこれは構造物として効いているなと感じてもらうわけです。

現物を見ると、やはり学生はイキイキとしてその後の私の話を聞く目つきが変わるのを感じます。併せて、現場の厳しさや安全管理の大切さも伝えています。学生にとっては、座学の授業では漠然としていたものが、実際のモノとして目の当たりにするわけですから、土木に対する具体的なイメージがしやすいのだと思います。

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