ナカノフドー建設の現場代理人・今村東洋治氏にインタビュー
「H28扇二丁目河岸再生工事」の現場所長を務めている株式会社ナカノフドー建設の今村東洋治氏(現場代理人・監理技術者)。同現場は現在、国土交通省発注(東京ブロック)で東京建設業協会に加盟するゼネコンでは初めてのICT土工現場だ。今村所長は5月11日、東京都で初めてとなる「ICT土工講座(東京ブロック)」で講師役を担当する。
そんな今村所長に、ご自身が建設技術者を志した理由、これまでに現場で失敗したこと、成功したこと、ICT土工と従来工法との違いなどについて色々とお話を伺った。
大学の勉強と、実際の現場とのギャップ

株式会社ナカノフドー建設 現場代理人・監理技術者 今村東洋治氏
施工の神様(以下、施工):まずは、今村所長が建設技術者を志した理由を教えてください。
今村東洋治(以下、今村):大まかな理由は2つあります。一つ目は私の父が水道・下水道工事関係の仕事をしていたことが大きく影響しています。父は休日も忙しく一緒に遊べない代わりに、よく仕事場に連れて行ってもらいました。父の仕事場で遊ぶうちに、子供心にもなぜ蛇口から水が出るのかと、下水道工事の仕事や社会インフラに興味を抱くようになりました。
もう1つの理由としては、高校時代に東葉高速鉄道線に「船橋日大前」という駅が建設されたことが挙がれられます。駅が建設されるまでは時間をかけて徒歩で通学していたのですが、駅が完成したことで、とても便利になりました。そんな体験から人々に感謝される社会インフラづくりに、自然と関心を持つようになっていきました。そして土木技術者として歩もうと決意し、日本大学理工学部交通土木学科に進学しました。
施工:日本大学理工学部交通土木学科では、どのような勉強をしましたか?
今村:一番興味を持ったのは、土質試験でした。土の性質にも色々な種類があり、締め固めなどについても研究しました。卒業後、ナカノフドー建設に入社した今も、実際に現場でそれを実践している日々です。大学時代の勉強は机上の論理がほとんどでしたが、実際の現場ではコミュニケーションの大切さや、その場での臨機応変のアイディアが求められるため、若い頃は現場でたいへん苦労しました。
施工:若い頃は失敗もあったと思います。若手の施工管理技士を元気づけるためにも、若い頃こんな失敗したという経験を教えていただけませんか?
今村:大学で測量学を勉強しましたが、実地でどのように測量するのか戸惑った経験があります。本当につまらないミスでしたが、私の思い込みで、多い数値を読むと地盤は高く、 少ない数値を読むと地盤は低い、と勘違いしていたことがありました。掘削も終わって構造物に着手すると、鉄筋の長さが不足しており、その原因を調査すると私の測量ミスだということが発覚しました。地盤の高低の数値を読み間違えたという、恥ずかしい失敗談です。
施工:今では多くの現場で、現場代理人、監理技術者として、ご活躍なさっていますが、社会人になって最初の仕事は、どんな現場でしたか?
今村:最初は大阪に配属され、大阪府堺市の80宅地の造成工事からスタートしました。造成工事は測量する場所が多いので、先輩から「何時までに測量機器を持ってこい!測量完了時間はこの時間まで!」と決められ、厳しい指導を受けました。
施工:今、建設現場は若手不足が進み、教育する側とされる側の年齢差が広がっていると聞いていますが、当時はどうでしたか?
今村:私は2~3歳年上の先輩技術者に教育されました。当時は怖かったですが、今となれば、その先輩とも「あんなことがあったよね」という笑い話になっています。
たしかに今の担当現場では、20代前半の技術者を私が教育しているので、年齢差は広がっていますね。
新婚1ヶ月で単身赴任
施工:今村所長はその後、どのような現場を経験してきましたか?
今村:造成工事が中心ですが、河川、高速道路、ゴルフ場など約20現場の工事に従事してきました。勤務地は大阪府、高知県、神奈川県、東京都と、それなりに転勤も経験しています。
施工:その中でも、特に忘れられない工事現場はありますか?
今村:西日本高速道路の高知自動車道下部工工事です。当時はまだ道路公団でしたが、現地の建設企業とJVを組み、約10人の技術者で担当しました。この現場は軟弱地盤で、かなりの難工事だったため、多くの工法を導入しました。地盤の水を一気に抜く真空圧密工法や、道路等の盛土を軽くして地盤に加わる負荷を軽減する軽量盛土工法、補強土壁工法であるテールアルメ工法、ボックスカルバート工法など、施工管理人生の糧となる経験をしました。舗装会社に引き継ぎをした時の安堵感は今でも思い出します。
この現場には個人的な思い出もあります。当時、私は新婚1ヶ月ほどで、会社からは「1週間だけ測量に行ってきて」と言われていたのですが、結局、下部工工事完了まで高知の現場にいることになりました。あの時は、月に一度だけ妻のところに帰れるのが楽しみでしたが、いま振り返ると、とても良い思い出になっています。所長や地元建設会社の皆さんと飲んだお酒もおいしかったですね。
高知自動車道はその後、無事に上部工も完成しましたが、私自身まだ一度もその上を走ったことがないので、自分が担当した高知自動車道にいつか行きたいと、ずっと思っています。ただ、仕事が忙しくて、なかなかその時間もありません(笑)
施工管理は毎日の業務改善が重要
施工:ほかにも、思い出に残っている現場はありますか?
今村:そうですね、臨機応変の対応でどうにか乗り切った現場がありました。あれは道路を掘削して下水道や水道、ガス管などを地中に埋設する推進管工事でした。通常の工事では、立坑から深い方の下管を終えた後、上管を施工するのですが、その現場は下管を先に施工するには問題を抱えていました。そこで、さんざん頭を悩ませた結果、仮設の架台を組み立て、上管から施工する方法をとりました。順序を逆にしたのです。その後、下管を施工できる環境が整ったので、下管の推進管を施工しました。この方法を発想するまで相当時間がかかりましたが、当時、自分ではよく思いついたなと思いました。
施工:現場では臨機応変のアイディアが必要ですね。
今村:建設工事は、ただ単に決められた仕事をすれば良いという単純作業ではなく、日々業務の改善が求められます。そのためには自分だけの経験だけではなく、その道のプロである現場の作業員と相談することも大切です。「このような問題があるが、どう施工すべきだろうか」と周囲に相談することで問題解決が図れることもあります。所長といえども、現場の細部まで全てを見ることはできませんので、コミュニケーション能力を高め、日々現場の作業員と意見を交わすことが大切です。
施工:施工管理で一番大切なことを現場監督に尋ねると、「コミュニケーション」と答える監督さんが多いですが、その他にも監理技術者として、今村所長が大切にしていることはありますか?
今村:ナカノフドー建設には5つの社訓があるのですが、その中の一つに「問題には逃げず 隠さずぶち当たれ」という言葉があります。最近、建設業界では色々な問題が起きていますが、すべての原因は、問題を隠すことにあると思います。私はこの教訓が一番重要だと考えており、何か問題があった時は、会社にも発注者にも必ず報告・連絡・相談するようにしています。
ナカノフドー建設では、すべての現場事務所に、この社訓を掲示しており、社員はみな暗唱できると思います。「常に時代の変化を先取れ」という教訓は、ICT土工にも通じていると思います。

社訓を読む今村所長
第一回「ICT講座(東京ブロック)」の講師を担当
施工:今村所長は5月11日、東京建設業協会と国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所が開催する第一回「ICT講座(東京ブロック)」の講師を担当しますが、実際にICTを活用してみて生産性向上につながっている実感はありますか?
今村:現在、ICT土工を実施している現場は、国土交通省関東地方整備局荒川下流河川事務所が発注した「H28扇二丁目河岸再生工事」です。荒川沿いの高水敷を切り下げることによって、水際部のヨシ原や干潟の保全・再生を行う工事ですが、ICT建機を導入することで確実に生産性は上がっていると思います。
まだ個人的な感覚ですが、掘削に関しては、マシンコントロールバックホウを活用することにより、従来の1.5倍は施工スピードがアップしていると感じています。
施工:具体的には、どのような点で効果を感じていますか?
今村:これまでの建設現場では、設計図面から工事に必要な丁張りを行い、その丁張りを確認しながら建機で施工していました。しかし、ICT建機を利用すると、丁張り無しで工事を行うことができます。計4人(手もと、丁張りなど)を必要としていた作業が、ICT建機の運転手1人で済むようになりました。
また省力化・省人化に威力を発揮するだけでなく、作業員が建機のそばで作業する必要もなくなるため、リスクアセスメントの観点からも安全性が向上します。

H28扇二丁目河岸再生工事で稼働しているマシンコントロールバックホウ
施工:なるほど。今村所長が講師を務める「ICT講座(東京ブロック)」をきっかけに、より多くの方々がICTを活用できるようになれば良いですね。
今村:そうですね、建設業全体の生産性向上に少しでも貢献できれば良いと思っています。ナカノフドー建設としても、昨年からICT土工の試行工事を進めており、今後も国土交通省の「i-Construction」の取り組みの一環として、ICT土工に取り組んでいく予定です。
施工:では最後に、建設業で働くことの魅力について、一言お願いします。
今村:正直、建設現場は竣工を迎えるまで気を抜けないし、苦労もあります。しかし、工事が終わったときの達成感を経験すると、その苦労は吹き飛んでしまいます。不思議なことに達成感はいつまでも覚えていますが、つらいことは忘れてしまいます。人生における高揚感、達成感を感じられる、これが建設業の楽しみだと思います。
建設業は、現場から常に教えられ、発見があり、やりがいの多い仕事です。変化に富んだことが好きな方には大変魅力的な仕事です。若い方々に、ぜひ現場に飛び込んで来て欲しいと思います。若い方が現場に増え、活気溢れる建設業になることを期待しています。
施工:ありがとうございました。
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