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【「砂防」という仕事のリアルを探る第3弾】山全(善徳地区地すべり対策工事)編

国土交通省(四国山地砂防事務所)のご協力を得て、四国中央部の山奥、祖谷地区で動いている3つの砂防(地すべり対策)工事の現場を取材する機会を得た。砂防の現場ではなにをしているのかと言うより、砂防の現場ではなにを喜びとしているのかが知りたいというのが、今回の取材の動機となっている。

現場取材2発目として、徳島県祖谷の善徳地区で長年地すべり対策に関わってきた山全のベテランである大岡功さんにお話を聞いてきた。大岡さんのもと、現場仕事に従事する山全新入社員である高橋和花さんにも、お話を聞いた。

地下水を抜くためのボーリング、井戸をつくる

大岡 功さん 株式会社山全 工務部

――どのような現場を担当しているのですか?

大岡さん 善徳地区の地すべり対策工事として、主に水を抜くための工事を3つ担当しています。既設の排水トンネルへ地下水を抜くための集水ボーリングの追加工事を行っています。あとは、表面排水を流す水路工事、集水井工事を行っています。集水井工事は、直径3.5m、深さ約30mの井戸を掘った上で、その中で集水ボーリングを行うというものです。

――それぞれの工事の進捗はどうなっていますか?

大岡さん 当初の工期は、令和5年3月から令和5年11月まででしたが、追加工事があって工期が延びました。工事としては99%完了しています。

――3つの現場をお一人で担当しているのですか。

大岡さん 私と高橋の2人です。

――この現場事務所は常設ですか?

大岡さん 10年以上建っているので、ほぼ常設です。この建屋は、山全のグループ会社が杉の間伐材でつくった「らく~だハウス」という名称のログハウスです。ここに限らず、山全の現場事務所や休憩所はほとんどらく~だハウスです。一般に販売もしています(笑)。

山全自社ブランド「らく~だハウス」として設置された現場事務所

工事の大部分が目に見えない特殊な工事

――普通の土木工事のように、モノをつくって納めるというイメージではないんですね。

大岡さん そうですね。道路や河川の工事とは異なります。地すべり対策工事は、水を抜くのがメインなので、地中での作業がほとんどです。なので、その大部分は目に見えません。たとえば、集水ボーリングでは、穴を掘って、その中に管を入れるのですが、見えるのは管の口だけです。そういう点では、特殊な分野の工事になります。

――素朴な疑問として、目に見えない状態で、どうやって物事を判断するのですか?

大岡さん そこは機械で作業している人にしかわからない部分です。機械の音とか回転具合とか、ちょっとしたことで、オペさんが最初に異変などに気づくんです。なので、オペさんとしょっちゅう話をして、状況を把握して、判断することになります。

30m掘る設計だったが、土が崩れるので23mで止めた

――こちらの現場で苦労したことはありましたか?

大岡さん 集水井を掘ったのですが、苦労しました。集水井を掘る際、普通は土砂があって、粘土が出て、その後に岩が出てくるのですが、今回の集水井は、ずっと粘土ばかりだったんです。その粘土が湧水で崩れるんです。普通は1m掘ったら、土留めとして鋼製円形のライナープレートを当てて、土が崩れないようにするのですが、ライナープレートを付けたそばから、水とともに粘土が崩れてくるんです。それが繰り返し起きたんです。

土は崩れるし、岩は出ないし、これはどうにもならないということで、発注者さんなどと相談して、「あと1m掘って崩れたら、やめさせてもらいたい」と言いました。それで掘ったら、やっぱり崩れたので、掘るのを中止しました。当初30m掘る設計だったのですが、23mで止めたわけです。私は過去に集水井を何本も掘った経験がありますが、途中で掘るのを止めたのは、今回が初めてです(笑)。井戸を掘ったら、土が崩れるのは当たり前のことなんですが、今回は特別でした。

――対策をしても土が崩れたわけですか。

大岡さん そうです。これ以上崩れたら、上の擁壁にも影響が及ぶ危険性があったので、「もうムリ」ということで、止めさせてもらいました。

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ドローンやレーザー、ICT機械なども自社で保有

――いわゆるICT施工はやっていますか?

大岡さん やっています。集水井の擁壁をつくるときに、バックホウで掘削するのですが、これをICT土工でやりました。ボクはあまり詳しくないのですが(笑)、会社にICT班がいて、ドローンやレーザー、ICT機械なども自社で保有しています。

――安全衛生管理で気をつけていることはありますか?

大岡さん 雨ですね。現場には雨量計を付けて、一定の基準を超える雨量があったら、工事を止めるなどの対応をすることにしています。あとは、ボーリング内のパイプをつなぐ作業を、機械でやりました。以前は、作業員がつないでいたのですが、落下の危険性があるので、人を近づけないようにするため、自社で電動バックホウを試作改良した機械でやりました。

――いわゆる働き方改革への対応はどうですか?

大岡さん 高橋は2023年度入社の新人なので、いろいろ教えながらやっています。高橋には今、写真管理や書類作成を任せています。忙しいときは人を増やしたいのですが、会社に言っても、なかなか難しいようです。なので、この現場では、やむを得ず残業して書類仕事をすることもあります。

工事がうまくいくかどうかは、地元対応次第

――今後も善徳地区の地すべり対策に携わっていく見通しですか?

大岡さん そうですね。

――ずっといると、地元住民とかなり親しくなりそうですが、それは仕事にとってやはりプラスですか?

大岡さん プラスですね。工事がうまくいくかどうかは、地元対応次第です。ここがこじれると、苦情が入ってきます。なので、地元対応が第一、工事に協力してもらえるかどうかが一番です。最近は、住民の要望なんかもお聞きして、発注者さんと相談して、できる限り対応するようにしています。

――要望と言いますと?

大岡さん たとえば、道を直してほしいといったことです。工事とは関係のないことですが、発注者さんと相談して、ウチで舗装を直したこともあります。

まずは、地元住民の話を聞く

――地元住民とうまく付き合うコツはありますか?

大岡さん まずは「話を聞く」ということですね。中には「絶対協力せん」という方もいらっしゃるので、そういう場合は、人をよく見ながら、会社に応援を頼むとか、臨機応変に対応することも必要です。自分ひとりで抱え込むと、あとで困ることになってしまいますので。

ここに住んでいる人は協力的なのですが、難しいのが、地元にいなくて、ほかの地域で住んでいる方です。工事施工の承諾を得たいのですが、電話で工事の内容を説明しても、なかなか理解してもらえなくて。そんなときは、車で四国を出て、自宅を訪問させてもらい、直接会って説明して承諾してもらうこともあります。

社員思いの社長がいる会社

――山全という会社の魅力について、どうお考えですか?

大岡さん 社長と直接話ができるところが魅力だと思っています。たとえば、現場でなにかトラブルがあったら、直接社長に話して、社長からすぐに指示が出る、ということです。社長が社員を大事に思ってくれるのが、良いところだと感じています。

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山奥の現場なので、歩くのが大変(笑)

高橋 和花さん 株式会社山全 工務部

――高橋さん、山全に入社した理由はなんだったのですか?

高橋さん インターンシップで2回お世話になって、社員さんが誘ってくださったので入社しました。仲良くなった社員さんに誘われて、それで入社した感じです。徳島市内に住んでいたのですが、入社を機に、こっちに引っ越しました。

――土木を学んでいたのですか?

高橋さん 土木とは関係のない学部だったのですが、建築とか、モノをつくることに興味があったので。

大岡さん 建築がしたいということで、入社したんです。ただ、この現場が忙しかったので、こっちに来てもらいました(笑)。

――高橋さん、建築ではなく、砂防の仕事に就いたわけですが、その辺どうでしたか?

高橋さん 最初に言われたときは、国の現場ということで、「そんな貴重な仕事をさせていただいて、いいんかな?」と良いほうに解釈していました(笑)。

――良いほうに解釈したということですが、山奥の仕事なわけですが、そこはどうですか?

高橋さん 歩くのが大変かなとは思っています(笑)。

――こちらの現場ではどのような仕事をしてきましたか?

高橋さん 写真管理や書類作成のお手伝い、測量のお手伝いといったお仕事です。

――印象に残ることはありましたか?

高橋さん 自然相手の仕事がどういうものかよくわからないまま現場に来たので、ちょっとコワいなと思うこともありました。それでも、仕事でトラブルがあっても、良い方向に持っていくところを見ることができたので、大岡さんの元で働けて良かったなと思っています。

――山全という会社について、どう思っていますか?

高橋さん 私のことをみんながスゴく気にしてくれて、優しくしてくれるので、働きやすい会社だなと感じています。

――仕事は楽しいですか?

高橋さん 楽しいですね(笑)。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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