下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」のもよう

下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」のもよう

「管路メンテナンスの再建を」八潮市道路陥没事故を踏まえ委員会開催。下水道の点検手法などを見直しへ

国土交通省は2月21日、埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没の再発防止に向け、「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」の初会合を、同省会議室で開催した。今後、下水道の劣化の進行が予測される中、類似の事故発生を未然に防ぐため、下水道の点検手法を見直し、道路陥没を引き起こすおそれのある地下管路のあり方を専門的見地から検討する。

主な検討項目は、①重点的に点検を行う対象や頻度、技術など点検のあり方②道路管理者をはじめとする他の管理者とのリスク情報の共有のあり方③事故発生時の対応④今後の施設の維持更新や再構築とそれらを支える制度のあり方の4点。3月3日の第2回委員会では現地調査を実施し、第3回委員会は同月11日に開催。春頃に中間とりまとめ、夏頃には最終とりまとめをするスケジュールだ。

家田仁委員長・政策研究大学大学院特別教授は、「今回の事故は笹子トンネル事故に匹敵するインパクトを潜在的に持ちうる事態と認識している。下水道以外にも狭い技術的内容のものではなく、マネジメントはどうあるべきかも考える事態だ」との見解を示した。

中野国交大臣「管路メンテナンスの再建を」

委員会の冒頭、中野洋昌国土交通相は、「今回の事故を教訓に管路メンテナンスを再建し、このような事故を二度と起こさせないよう強い決意で対策を講じる。本委員会の議論が今後のインフラのあり方にもつながる。また、今後の施設維持更新や再構築、制度のあり方についても議論していただきたい」と述べた。

中野国交大臣が事故を教訓に管路メンテナンスの再建を強調した

次に家田委員長は、「2012年に笹子トンネル事故が起こり、当時、私は社会資本メンテナンス戦略小委員会でお手伝いさせていただいた。その中でいろいろな政策を打ち出しが、当時の太田昭宏大臣がインフラメンテナンス元年を打ち出し、大いに政治的モメンタムを発揮いただいてほとんどが実施できた。その成果は相応なものがあると思うが、まだまだインフラマネジメントの状態は決して万全とはいえない。中野大臣の力強いご決意をうかがい、私ども委員も身が引き締まる思いであると同時に、これは本気になって、国土交通省のみならず、インフラメンテナンスあるいはマネジメントに関係するような省庁を挙げて努力が進んでいくものと大いに期待するところだ」と語った。

「インフラマネジメントはまだ万全とはいえない」と挨拶する家田委員長

下水道管路に起因する道路陥没は年間約2,600件

改めて八潮市道路陥没事故の概況をおさらいすると、1月28日に八潮市の県道で道路陥没が発生し、トラック運転手が車両ごと落下した。陥没箇所には、処理水量約61万m3/日の下水処理場につながる管径4.75mの流域下水道管路が埋設されており、下水道管の破損に起因する考えられる陥没事故としては最大級の規模だ。陥没規模は拡大し、関連する12市町の約120万人に下水道(風呂・洗濯)の使用自粛が要請され、影響は現在も拡大。運転手の救助活動は2月21日現在も継続している。会議では、八潮市のこの事故状況や対応内容のほか、陥没箇所の水位低下に向けてバキューム車や排水ポンプ車で輸送・放流中との報告があった。

大野元裕埼玉県知事(左)から作業状況の説明を受ける中野大臣(右) / 国土交通省

ちなみに、下水道管路に起因する道路陥没は、2022年度は約2,600件発生しており、うち9割が約50cm以下の浅く小規模陥没がほとんどだが、全体の2%は深さ100cmを越える陥没もあり、布設後40年を経過すると陥没箇所数が急増する傾向にある。2022年度末での全国の下水道管路は約49万kmで、標準耐用年数50年を経過した管路の延長は3万km(総延長の7%)で10年後は約9万km(同・約19%)、20年後は約20万km(同・約40%)と今後、急速に増加する

「陥没が大きいものが問題ではなく、そこで人や車が落ちれば、大変な被害を及ぼす。道路陥没により積極的に手を打つスタンスが周辺の人々の安全安心につながる。そのために必要なことは、工学的に地下の埋設物が壊れない工夫や点検して調査することは重要だが、一方、空洞がどのようになっているかも系統的に調べられるようにし、それが周辺の土地の履歴などをすべての情報を統括的に見えるような状態とすべきだ」(家田委員長)

管路施設の年度別管理延長(令和4年度末) / 国土交通省

現在、下水道普及率は人口比では約80%で、浄化槽も含めれば約90%をカバー。ただ、本格的な整備は戦後からで緊急に実施し、普及率を高めることに全力を注いできたため、代替路や迂回路まで手が回らなかったのが実情だ。この代替性の不足などのハンディキャップを持っているのが下水道の特徴だ。また、下水道は橋梁と異なり、地面の下に整備され、化学物質を含む水が流れているため、より調査が難しい。下水道構造物の外側には地盤があり、どのような土砂が埋まっているか掘削しなければ明らかにならない。このような下水道の課題を前提として話し合われた。

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道路陥没の事故は複合的な要素の可能性も

道路陥没事故の原因は現段階では不明だが、下水道特有の硫化水素による腐食、周囲の砂地盤や地下水の影響のほか、次のような意見もあった。下水道管はシールド工事により施工したが、道路陥没した現場は最終的な立坑の接着点であった。つまり構造的には変化点であり、力学的には弱い地点といえる。今回の事故は1点ではなく、複合的な作用ではないかという点を念頭に置き、今後検討するための議論に入った。

議論の中では全国49万kmの下水道の中で、とくに今注力し点検すべき点の条件を詰めて、なるべく迅速に点検する手法を検討する。事故後でも国交省の指導により、陥没箇所と同様の大規模な下水道管路を対象とした緊急点検と、補完的に路面下空洞調査を実施した。点検対象は7都府県13流域。対象の下水道管路(延長約420km)に存在するマンホール(約1,700箇所)での緊急点検では、埼玉県内の3ヶ所で腐食などの異常を確認している。

「この3ヶ所以外重篤なものは見つかっていないが、これで安心してはいけない。委員会のつとめでは、疑わしい要素があれば再度、再々度でもチェックしていかなければ国民の安心は得られない。そこで点検で目をつける場所やどのような手段を採用すべきかを短期間で重点的に検討し、実行に移す。遅くても3月までにまとめたい」(家田委員長)

下水道法に基づく法定点検にも議論が及んだ。下水道法は硫化水素の発生などで腐食のリスクが高い管路に留意し、5年に1回以上の点検を管理者の自治体に義務付けている。これ以外に断面の変化点、地盤の状況も踏まえて管理・点検をすべき箇所や5年に1度と定めた点検ベースの見直しの検討について議論がなされた。

『地下空間の統括管理デジタルシステム』を提起

地下の空間は未知の要素が非常に多い。しかも都市部では上下左右にさまざまな構造物がたて込む。地盤の状況も含め、地下の内実を把握し、点検の結果も含めて包括的にシステムとして誰もが参照し、事業を越えて活用できる『地下空間の統括管理デジタルシステム』の必要性も提起され、トラブルや新事業を行う際にも活用できると期待する向きもあった。

初会合の意見を集約すると、①八潮市道路陥没事故をどう認識するか②緊急的にどのように点検・検査すべきかの2点であった。第2回の委員会では現地調査に入るが、家田委員長は、「下水道の中に入り、リアリティを持って道路陥没事故の現象を理解し、その上で議論を重ねていきたい」と現地調査でのスタンスを示した。

今回の八潮市陥没事故は流域下水道のため、主体は埼玉県で組織としては相応に充実しているが、公共下水道は市町村などが管理していることから、今回の事故で悩んでいるのは基礎自治体レベルといえる。市町村は下水道に限らず、道路、橋梁などさまざまなインフラを保有している。たとえば道路橋全国の70万橋のうち50万橋は市町村が持っており、少数精鋭で管理しているのが実態だ。

「今後の施設の維持更新や再構築とそれらを支える制度の検討については、夏くらいまでに何らかのメッセージを出していきたい」(家田委員長)

大山忍八潮市長より被害状況について説明を受ける中野大臣 / 国土交通省

大野知事、大山市長と意見交換する中野大臣 / 国土交通省

同委員会は、家田委員長のほか、岡久宏史・(公社)日本下水道協会理事長、北田健夫氏(埼玉県下水道事業管理者)、佐々木健・東京都下水道局長、三宮武・国土技術政策総合研究所上下水道研究部長、長谷川健司・(公社)日本下水道管路管理業協会会長、宮武裕昭・(国研)土木研究所地質・地盤研究グループ長、秋葉正一・日本大学生産工学部土木工学科教授、足立泰美・甲南大学経済学部教授、砂金伸治・東京都立大学都市環境学部都市基盤環境学科教授、桑野玲子・東京大学生産技術研究所教授、森田弘昭・日本大学生産工学部教授が参加し、計12人で構成。オブザーバーとして総務省、経済産業省が入っている。

関連する他の委員会では、埼玉県は2月2日に「流域下水道管の破壊に起因する道路陥没事故に関する復旧工法検討委員会」の初会合を開催するとともに、現在、道路陥没事故の原因究明に関する委員会の設立を検討中だ。

「オール土木学会での取組みを」

また、第112代土木学会会長の佐々木葉氏は2月26日、八潮市道路陥没事故を受け、土木学会会員へ向け、メッセージを発信した。

佐々木会長は「目に見えない地下構造物の損傷、およびネットワークとしてあるライフラインが機能を喪失する事故が及ぼす影響の大きさと回復の難しさを目の当たりにし、そのリスクはこれからもあり続けることを再認識しています。現在も続く事故への対応や構造物の健全性確保にとどまらず、より広い観点からの議論が必要」と地下インフラの警戒を示し、「あらゆる境界をひらき、これまで以上に、インフラメンテナンスとマネジメントのための広い意味での技術に取り組み、そのための対話と議論の場をこれから準備する」ことを明らかにした。

下水道に起因する道路陥没事故をうけての土木学会会長から会員の皆さんへのメッセージ / YouTube(土木学会tv / JSCEtv)

議論の観点としては、

  1. 道路というインフラの地下には複数のライフラインというインフラが存在していること
  2. これら地下にあるライフラインはいずれも目に見えづらいが、私たちのごく身近にネットワークとして存在していること
  3. 上水道と下水道も地域の水循環の一部を担っていること
  4. これらインフラの整備、利用、維持管理には費用がかかり、その負担の仕組みもわかりづらいこと
  5. これまでの歴史のなかで作られてきた構築環境(built environment)のなかで「私たち」は生きていること
  6. 幅広い「私たち」の理解と合意がなければ対策は進まないこと

の6点を示した。

この6点の観点をもとに、課題解決の道を見出し、あわせてインフラを使う「私たち」が、インフラとともにどう生きていくかを「自分ごと」として考える社会を目指す必要があるとした。最後に「3万8千人の会員の皆さんには、オール土木学会として、この難しい問題に取り組んでくださるよう、ご協力をお願いします」との言葉で締めた。

参考:下水道に起因する道路陥没事故をうけての土木学会会長から会員の皆さんへのメッセージ全文 / 土木学会

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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