コベルコ建機が展開する重機の遠隔操作システム「K-DIVE®(ケーダイブ)」の専用コックピット

コベルコ建機が展開する重機の遠隔操作システム「K-DIVE®(ケーダイブ)」の専用コックピット

重機を、オフィスから動かす。「K-DIVE®」が描く建設業の「新しい日常」

深刻な人手不足、就業者の高齢化、そして時間外労働の上限規制が適用された「2024年問題」などにより、現在の建設業界は構造的課題に直面している。国土交通省が主導する「i-Construction 2.0」では、省人化や生産性向上の切り札として「遠隔施工」が注目を集めており、各建機メーカーが最先端のICT建機開発にしのぎを削る時代に突入した。

そうした中、日々の工程管理や安全管理、若手育成に頭を悩ませる現場監督や経営層から関心を集めているのが、コベルコ建機株式会社(代表取締役社長:山本明)が提供する重機の遠隔操作システム「K-DIVE®(ケーダイブ)」だ。同社の取り組みは単なる「重機の遠隔操作」という物理的枠組みに留まらず、現場の制約から人を解放し、多様な人材の就労を可能にするプラットフォームとしての機能を持つ。

今回、同社のK-DIVE事業推進の最前線に立つ、新事業推進部 K-DIVE事業推進グループの佐々木均グループ長、影山貴久氏、西川聡氏に、実際の現場の声と、同社が描く「誰もが働ける現場」という未来像について話を聞いた。

「人を排除しない」現場主義の設計哲学

施工の神様

各社が遠隔施工の開発を急ぐ中、コベルコ建機のアプローチは少し違うように感じます。K-DIVEの根底にはどんな思想があるんでしょうか。

佐々木氏

コベルコ建機のフィロソフィーの根底には、古くから「ユーザー現場主義」という理念が深く根付いています。実際に重機を操るオペレーターの方々や経営者の方々の声に徹底的に耳を傾け、現場起点で物事を進めていくという姿勢です。

一般的に自動化や遠隔化という言葉は、「人を排除して効率を上げること」とセットで語られがちです。しかし、私たちの発想は異なります。働く方々、そして私たちのお客様一人ひとりがより輝いて活躍し、業界全体を良くしていく。その先に社会貢献があるというものです。

そう考えたとき、やはり「人」は排除すべきものではなく、中心に置くべき存在なんです。人が最も満足し、誰もが活躍できる現場をどう作るか。この「人を中心とする(ヒューマンセントリック)」という思想こそが、2015年に構想をスタートした「K-DIVE®」のすべての出発点となっています。

コベルコ建機 新事業推進部 K-DIVE事業推進グループの佐々木均グループ長

施工の神様

人を排除するのではなく、活かす。それは具体的に、現場のどんな課題を解決することに繋がるんですか?

佐々木氏

「K-DIVE®」は単に建機を遠隔で動かすものではなく、現場の生産性を底上げする「DXプラットフォーム」です。人手不足や現場の危険性といった深い課題に対し、大きく「3つの価値」を提供しています。

1つ目は、危険な現場から離れて操作することによる「本質的な安全性の確保」。2つ目は、オペレーターの移動時間の削減や複数建機のスムーズな切り替えによる「現場生産性の向上」。そして3つ目が、「多様な人材の活用」です。

現場という物理的な制約から解放されることで、例えば足が不自由で現場に入ることが難しかった方であっても、オフィスからオペレーターとして技能を存分に活かしていただくことが可能になります。



現場のリアルを再現するコックピット

施工の神様

遠隔操作と聞くと、ラジコン操作をイメージする方も多いと思います。実際の操作性はどうなんでしょうか。

影山氏

最大の違いは、実機搭乗時と遜色のない視界と操作環境を備えた「専用コックピット」です。目視に頼る従来のラジコン方式に比べ、「K-DIVE®」による遠隔操作パフォーマンスは、従来比で39%向上するという明確なデータが出ています。充実したコックピット環境が担保されることで、遠隔でも高いパフォーマンスを安定して出せるようになっています。

コベルコ建機新事業推進部 K-DIVE事業推進グループの影山貴久氏

施工の神様

どのように操作性を高めているんですか?

影山氏

重要になるのが、コックピットに搭載された「モーションシート」です。

建機に搭載したセンサを通して実際の現場の傾斜や振動をリアルタイムにシートへフィードバックすることで、オペレーターは遠隔地にいながらにして「土の硬さ」や「今どれくらいの重さを吊っているか」を肌感覚で捉えることができます。土木工事における繊細な「整形作業」などは、この微細な振動フィードバックがないと成立しません。

「DIVE(ダイブ)」という名前の通り、まさに没入するイメージです。

操作イメージ

西川氏

加えて、「メーカー自身が作っているシステム」という点も大きな強みです。建機の内部仕様にはメーカーにしか知り得ないブラックボックスが存在します。私たちは機械の特性を熟知しているからこそ、最終的に建機を動かす「油圧のコントロール」において緻密な調整が可能です。数キロ先からでも実機と同じようにコントロールできるため、オペレーターからは「しなやかに動かせる」「乗り心地がいい」という定評をいただいています。

コベルコ建機新事業推進部 K-DIVE事業推進グループの西川聡氏

施工の神様

コックピット化することのメリットは他にもありますか?

影山氏

K-DIVEの大きな強みの一つとして、1つのコックピットから「現場にある複数台の重機」へシームレスにアクセスできる点が挙げられます。通常、異なる現場や配置にある重機を動かすには、その都度オペレーターが「乗り降り」して移動する時間が発生しますが、K-DIVEのシステムを経由すれば、その切り替えにかかる移動のタイムロスをゼロにできます。

コックピット内の各モニタの役割

施工の神様

実際に導入している現場では、どんな使われ方をしているんでしょう。

影山氏

お客様の業界によって導入のステップを分けています。まずは産業廃棄物や金属リサイクルのように、ショベルが一定の場所で作業を行う「固定ヤード」メインの業界。これを私たちはPhase1と呼んでいます。

北海道・苫小牧市の鈴木商会様では、拠点に設置されたコックピットから精密な操作感で仕分け作業を行うことで、安全性の向上と労働環境の改善を同時に実現されています。

鈴木商会での導入事例

“移動ゼロ”が生み出す、建機オペの新しい働き方

施工の神様

現場に行かなくていいとなると、働き方そのものが大きく変わりそうですね。

影山氏

女性オペレーターの活躍を後押しすると同時に、ライフスタイルの自由度が大きく高まります。たとえば、山崎組様では、事務職の方が午後は遠隔重機オペレーターとして活躍するという「二刀流」の働き方が生まれています。現場に赴く必要がなくなれば、ヘルメットの着用義務から解放され、個人のファッションを楽しみながら働くこともできます。

また、都市部のオフィスで操作ができれば、現場近くへ住み込む必要もありません。業務終了後はそのまま街へ食事に出かけるといった日常の楽しみを実現できる。これこそが私たちが提案する「働き方改革」のかたちです。

施工の神様

デジタル化されることで「データ」も溜まっていくと思いますが、それは現場管理にも活かせるんですか?

影山氏

遠隔操作で得られる稼働データ(燃料、稼働時間など)はクラウドに蓄積され、事務所のダッシュボードで一元管理できます。日報作成が自動化されるだけでなく、次の現場の繁閑調整や人員配置計画に直接活かすことができます。

また教育面でも、熟練の技能を動画データとして残し、ベテラン指導員がコックピットのすぐ横に立ってリアルタイムにアドバイスを行うことができます。騒音と危険が伴う実際の重機内では到底実現できなかった、安全で効率的な教育体制が構築されています。

稼働データはダッシュボードにアップロードされる

施工の神様

産廃などの定点作業で手応えを掴み、次は土木業界ですね。

影山氏

ここ数年で挑んでいるのがPhase2の土木業界です。走行だけでなく、繊細な「整形」という難しい作業が加わりますが、曙建設様や冨島建設様のような現場で、着実にその価値を証明しつつあります。

曙建設の土木工事での導入事例



大阪から能登へ。320kmの遠隔施工

施工の神様

能登半島地震の災害復旧でも稼働していましたね。

佐々木氏

はい。活用されたのは、地震による土砂災害に見舞われた石川県能登地方の河川改修現場です。大雨や余震で再び土砂崩れが起きる危険性が高く、従来のような「人が機体に乗って行う作業」には大きなリスクが伴う場所でした。そこで今回は現場から約320km離れた大阪の拠点から、石川県の重機を遠隔操作するプロジェクトを実施しました。

施工の神様

被災地での作業となると、普段の現場とは全く環境が違いますよね。

佐々木氏

現場周辺はインフラの寸断や渋滞が続き、金沢市内からでも片道2時間を要するほどアクセスが困難でした。また、宿泊施設の確保も大きな課題となります。「K-DIVE®」は、こうした「移動にかかる時間とコスト」を完全にゼロにします。オペレーターは過酷な被災地の環境に身を置くことなく、大阪の快適なオフィスにいながら集中して作業に従事できる環境が整えられました。

この”320km”の挑戦を通じて、テクノロジーが災害という壁を乗り越え、人々の安全と迅速な復旧を両立できることを明確に示せたかと思います。

「導入して終わり」にはしない

施工の神様

どんなに良いシステムでも、現場が使いこなせるかが一番のハードルだと思います。定着までのサポートはどうされているんですか?

西川氏

私たちは「K-DIVE®」を単に「売って終わり」のシステムだとは一切考えていません。導入いただいたお客様ごとに専任の担当者がつき、システム稼働後も現場監督やオペレーターの皆様と密にコミュニケーションを取り続ける体制です。コンサルティングというとスマートな響きがありますが、実際に行っているのは非常に「泥臭い」活動です。

施工の神様

現場に通い詰めていると、かなり細かい要望も出てきそうですね。

西川氏

はい。オペレーターの方から「モニターに映るカメラの角度を、もう少しだけ上に向けてほしい」「このレバーの反応速度を自社の作業手順に合わせて調整したい」といった細かな要望も多いですね。

こうした繊細な肌感覚に一つひとつ耳を傾け、設定のカスタマイズや機能のアップデートへと即座にフィードバックしていく。現場の皆様が不安を抱えたままにならないよう、一緒に「一番働きやすい環境」を作り上げていく姿勢を貫いています。

施工の神様

現場の声を吸い上げて、これからさらにシステムを進化させていくわけですね。

影山氏

遠隔操作の生命線である「通信手段」のさらなる高度化と、視覚情報のクオリティ向上です。モニターに映し出される映像の画角や解像度に至るまで、お客様から寄せられる細かな要望を精査し、ハード・ソフトの両面から最適解を追求し続けています。

ですので、まずは全国3拠点(品川・神戸・広島)に展開している体験施設でコックピットに座っていただき、ぜひ実際に操作を体験してほしいですね。乗っていただければ、「遠隔操作でも、実機のように動かせる」と、直感的に体感していただけるかと思います。

遠隔操作を体験できるデモ施設

遠隔操作と自動運転が融合する未来

施工の神様

今まさに現場の課題を解決している真っ最中だと思いますが、コベルコ建機として、この先にはどんな未来を描いているんでしょうか。

佐々木氏

遠隔操縦と、現在開発を進めている「自動運転技術」との組み合わせが大きな鍵になります。

将来的な構想として、一つのコックピットから現場にある複数の建機に接続し、適宜切り替えながら自動運転と組み合わせて作業を行う。これにより現場の生産性は飛躍的に向上します。今後2〜5年のスパンでこの展開を目指していきたいと考えています。

また、AIや画像認識といった分析技術を持つスタートアップ企業との協業も進め、我々が長年培ってきた建機の制御技術に最新のITを掛け合わせることで、より価値の高いソリューションを提供していきたいです。

西川氏

建設機械の完全自動化は、まだかなり遠い未来の話です。とはいえ、すべてをこれまで通り人の手で行うというのも限界を迎えつつあります。

私たちの提供する遠隔操作システムは、その両極端な状況を繋ぎ、現場を未来へ一歩進めるためのツールだと捉えています。目の前にある現場の課題を解決するのはもちろんですが、同時に「一歩先の未来」へと近づけてくれる手段でもあります。こうした新しい技術がもたらす未来感を、もっと広く業界全体へ伝えていきたいですね。

参考:コベルコ建機 K-DIVE®公式サイト

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。