新築の建売物件50棟からエコキュート撤去
ある日、私の会社(工務店)に不思議な仕事の依頼が舞い込んできました。
某県の郊外に建てられた50棟もの建売りの新築現場について、エコキュートをすべて取り外して欲しいというのです。
新築なのに、取り付けでなく、なぜ取り外し?と怪訝に思い、その理由を聞くと、ペンキの重ね塗りが足りないとのこと。この現場ではペンキを3回重ね塗りしなければならないところ、2回しか塗られていなかったことが判明したというのです。
現場へ向かうと、すでに全件にエコキュートは取り付け設置され、各配管もつながっているという完全な出来上がりぶり。それを今から全部取り外してペンキを塗った後、再設置して配管を取り付ける、というのだから、費用も時間も相当かかります。さらに、建物の引き渡しもだいぶ遅れるとのことでした。
新築建売住宅の購入予定者の中にペンキ屋
現場は新築かつ作業スペースが狭かったため、工事は困難を極めました。なぜなら新築の外壁やエコキュートを傷つけるの厳禁。さらに外壁から離してエコキュートを置いておかないとペンキ塗りができません。私たちはいちいち現場監督の指示を受けながら時間をかけ、数人がかりで少しずつゆっくり作業を進めるしかありませんでした。
しかし、作業中も私たちが気になって仕方なかったのは、なぜ設置・配管が完了したエコキュートを取り外す、という失態に発展したのか?ということでした。そして作業を進めるうちに、徐々に驚くべき事実がわかってきたのです。
天罰を与える!
事の発端は、この新築の建売住宅の購入予定者の中に、ペンキ屋を生業にしている人がいたことでした。このペンキ屋は、ペンキの重ね塗りが足りない事を、エコキュート設置前から把握していましたが、不正を働いたペンキ屋と建築業者に天罰を与えるべく、後になってからクレームを入れたとのこと。
現場監督は「あんな奴は絶対地獄に落ちる!」と憎々しげに言っていましたが、購入者の中にペンキ屋がいなければ、誰も不正に気付かなかったかもしれません。
ペンキ屋も、それを見抜けなかった現場監督も、多少の責任はあります。
建設業者の損害賠償の行方
私は現場監督の怒りにも同情しましたが、それ以上に心配だったのが、重ね塗りを怠ったペンキ屋の今後の身のふりようです。もし、この新築物件を手掛けた建設業者に100%依存したペンキ屋だったら、仕事は無くなるのではないか?さらに多額な損害賠償も請求されるのではないか?などなど。
しかし、だからと言って、私にとっても辛い仕事なので、施工を安く請け負うなどはしませんが、それとなく監督にそのペンキ屋のことを伺うと、今後も仕事は発注するが単価は減らすとのこと。要するに発注金額の一部を今回の費用に充て、少しずつでも弁済させる、ということです。今回のようなケースでは保険は使えないでしょうし、いい落とし所でしょう。
建設業者の最大の教訓
結局、工事は全行程を終えるのに、1ヶ月以上もかかりました。
水道屋、電気屋、エコキュート脱着業者、ペンキ屋などの施工費と、引き渡しの遅れに伴う補償金額が最終的にいくらになったのかは知りませんが、少しの手間を惜しんだために、多額の出費になってしまった恐ろしい事案でした。
どのような人が、いつどこで見ているかわからない世知辛い世の中。やはり仕事は誠実に確実にしなければならないと、肝に銘じる良い教訓にしていただければ幸いです。
あんたの頭の不備をなんとかしろ