すべての建設プロジェクトは「測量図」から始まる
工事をするにしても、設計をするにしても、「測量図」がなくては、何も前に進みません。測量図や測量結果が存在して初めて、建設プロジェクトが前進します。
たとえば、橋の構造計算をするには、現地にどんな規模の橋が架かるのか、地形はどうなっているかといった情報が必要不可欠です。もちろん地質データも必要ですが、地質データも測量図があってこそ作成できるもの。やはり、測量図があってこその、建設プロジェクトなのです。
測量で養われる現場と構造物のイメージ力
私は以前勤めていた会社で、測量と設計が一体となった業務を何度か経験しました。「まずは測量から!」という会社の方針もあり、新人だった私は先輩社員と一緒に設計に必要となる測量から業務をスタートしました。
電子平板を使用して平板測量をして平面図を作成。それと並行して、縦断測量や横断測量を何日かかけてこなし、結果を整理。平面図や縦断図、横断図といった測量図を起こし、報告書に整理する、といった流れを何度も経験しました。
すると、私自身に面白い変化が起こってきました。その後の設計業務において、いくつかの箇所で断面図(地形図のみ)が必要となったのですが、平面図さえあれば測量せずとも違和感のない地形図を描けるようになったのです。
その時は必要な断面の数が3つだけでしたので、平面図の情報から断面図を描いていこうとしたわけです。少ない断面数で測量するのは、時間を無駄に使ってしまうことにつながりますしね。
設計や設計変更でも、測量の経験は役立つ
測量の経験を積んでいたおかげで、私は平面図にある情報から、横断図や縦断図をCADで作成できるようになっていました。これは測量業務によって地形のイメージができるようになっていたからでした。
そして、さらに測量の経験を積んでいくと、地形のみならず計画している構造物の完成形のイメージもできるようになっていきました。
測量する際には、どこに何ができるか、どんな大きさでできるのか、をイメージして測量することが求められます。この経験は設計業務や工事にも良い影響をもたらしました。さまざまな構造物の設計をしたり、現場で設計変更などの各種支援をしたりするときに、測量の経験はとても役に立つのです。
測量の経験で、土木技術者の「カン」を働きやすく
測量は、土木技術者として必要な「カン」を養ってくれます。ここに橋を造れそうだ、その際はこういう手順で、必要な情報はこれこれで・・・などといった直感的なひらめきをもたらしてくれるのです。
ある大規模なトンネルの設計に携わっていた時のこと。トンネルの坑口の形や位置を検討していて、「これは造れないんじゃないか」と直感的に感じたことがありました。その案は発注者からの要望だったのですが、平面測量図に計画を落としていくと、「これは造れないんじゃないか」という思いがふつふつと湧いてきたのです。
案外、設計者は自分が設計している構造物をイメージできていない人が多いです。なので、図面を書いて役所に持って行っても、ちょっと質問を受けたら何も答えられない、という人を何人も見てきました。ちゃんとイメージして図面を作っていなかったのです。
設計をしている人で測量をやったことがある、という人は少数派です。工事を担当している現場管理者は多かれ少なかれ測量を経験しており、このようなことはあまりないかもしれません。しかし、測量経験が少ないと現場で「カン」が働きにくく、予想外の問題が見つかって対応が遅れるといったことが起きやすくなっています。
測量は土木技術者としての「カン」を養うのに適している、というのが私の持論です。
現場作業への抵抗感も軽減させる測量作業
測量のメインは「現場」です。朝会社に来たらトランシットやレベル、三脚などを車に積み込んで、現場に向かいます。着いたら所定の位置に器械をセット。建物の位置や道路、水路など現況の平面地形の場所を測ったり、高さを測定するなどします。現場作業が主です。
測量作業を通じて、現場での作業に慣れることもできます。建設業界に入ったものの、現場作業はチョット・・・という方には、まず測量から入ってもらうのもいいかもしれません。施工管理をするわけではないので、それに比べたら比較的ライトに取り組めるのではないかと思います。たとえ間違えてもリカバリーが容易ですし。それに、土木の現場で必要なカンを養うのにも役立ちます。
私は設計畑から建設業界に入りました。その後、現場で仕事をするようになりました。設計をしているときも、現場で仕事をしているときも、いつも測量した経験がいつも役に立ちました。それは土木技術者としての「カン」が養われたからだと思っています。
そして、以上の点は、ドローン測量によって失われるのではないかと危惧しいる最近です。