測量アルバイト、建設コンサルタント、フリーランスの設計士に
工業高校の土木科から工業大学の土木工学科に進んだ私は、ろくに大学も行かずに小さな「測量・設計事務所」で4年間、ずっと測量のアルバイトをしていた。
ポール持ちや機材運搬、伐採作業など、力仕事の人足として汗を流し、大学卒業後は建設コンサルタント会社に入社した。
そんな私は今、独立して、フリーランスの設計士として働いている。
フリーランスというと羨ましがられることもあるが、猛烈に後悔している。
勢いで退職、そのまま設計事務所を開業
大学を卒業した私は、アルバイト先の社長が紹介してくれた地場の建設コンサルタント会社に入社。測量部門に配属された。
せっかく入った部署だったが、目の前にあるものをあるがまま測量し、ただ図化する仕事が徐々につまらなくなった。2年間後には辛抱できずに設計部門に移り、設計士としての道を歩むことになった。
測量部門から移った先は、設計部門の道路設計課。高規格な道路から国道、市町村道、林道まで、道路と名の付くものはあらゆるものを担当した。
測量と違って、一枚の何もない平面図に線を入れ、自分の思い描く道路を形にしていくことは楽しかった。法令や規格、基準を頭に叩き込むのに必死で、朝は誰よりも早く出社し、夜は誰よりも遅く帰宅する日々が続いた。
そんな生活を続けること6年。気づけば私も30歳になっていた。
当時の私は、まあまあの実績を積み、おこがましくも「すでに一通りのことはなんとかできるし、チームプレイも得意じゃないし、一人でもなんとか食べていけるんじゃないか」と、怪しげな自信を持っていた。
そこで、父に独立開業したいから資金を貸してくれと拝み倒し、そのまま勢いで建設コンサルタント会社を退職。開業届を税務署に提出し、設計事務所を設立した。
めでたく、フリーランスの設計士としての人生がスタートした、つもりだった。
フリーランスの設計士は、ビール片手に働ける
フリーランスになっても、設計が仕事であることは変わらない。
組織に所属しながら働く設計士と何が違うのかというと、求められる成果を納期までに仕上げることさえできれば、あとのことは圧倒的に自由だということです。
身なりを整えて出社する必要なし、ひげも伸び放題、ジャージ・スウェットでの勤務OK、仕事中のビールもアリです。路上にいたら、まるでホームレスです。
こう聞くと、「フリーランスのほうが良いんじゃないの?」と思うかもしれません。
しかし、自由と引き換えに、常に厳しい納期と戦うことになります。
元請から業務発注されるときには、元々の工期はスタートしています。しかも、設計士が作成した資料を元請も取りまとめなければならないので、納期のリミットは前倒しされます。
自治体等から提示された工期の6~7割程度の期間で納品しなければなりません。現場稼働中は、事務所にこもって1日12時間はパソコンに向かっています。
だから、肩と腰は痛くなり、目もショボショボします。納期と一人で戦うのは、肉体的にも精神衛生的にも良くありません。
しかも、行政担当者の中には、CADを魔法のソフトと勘違いしているのか、厳しい工期の中で無理難題を振ってくる人もいます。
キーボードをチャチャッと叩けば、たちまち設計図ができ上がってくると思っているのでしょうか。CADソフトなんて、昔の手書き図面の頃のドラフターや定規を、マウスとキーボードに持ち替えただけのものです。
作成した図面の手直しや加筆がずいぶん楽になったのは事実ですが、納期の厳しさは変わりません。
フリーランスの設計士は儲からない
同業者からよく、「フリーランスだと儲かってんじゃないの?」と聞かれます。
「儲かっている」の度合いは人によりけりですが、一人事務所だと、おおよそ年間500~1000万円程度の売上になります。
かなり金額に差がありますが、受注する業務によって売上は大きく変動します。
手離れの良いキレイな仕事が続けば、1,000万円くらい稼ぐこともできますが、費用対効果の悪いキタナイ仕事が続けば、500~600万円しか稼げません。
ちなみに、私のここ数年の平均売上は700万円前後です。
若くて体力と気力に満ち、根性が服を着て歩いているような人だったら、キタナイ仕事だけでも1,000万円くらい稼げるかもしれません。ただ、そんな生活を数年も続けてれば確実に身体を壊します。
フリーランスの設計士は、確定申告で税金の高さに驚く
フリーランスは売上や経費を自分で計算して、確定申告しなければなりませんが、フリーランスの設計士は特に税金や保険料が高いんです。
なぜなら、設計事務所には仕入れも販売コストもないから。つまり、経費として計上できるものがほとんど無いんです。
設備だって、パソコンやプリンタ、コピー機などのOA機材、各種基準書などの書籍、図面や資料作成のためのソフトウェアぐらいです。
機材は毎年買い買えるものでもないですし、リースも嫌いなので使っていません(ただ、ソフトウェア類については常に最新のものを使用しなければならないので、年間契約のサブスクリプション版を使用しています)。
だから、税金はガッツリ納めなきゃなりません。国民健康保険などの年間請求額を見ると、目玉が飛び出します。税理士さんは「設計事務所は、税務署の上得意客」と口を揃えます。
見掛けの数字に踊らされて、「フリーランスは儲かるなあ!」なんて浮かれていると、確定申告後にやってくる各種税金の支払いに頭を抱えることになります。
できることならフリーランスの設計士を辞めたい
フリーランスの設計士は、やりがいも自由も、それなりの年収も手に入れることができます。
しかし、すべて一人でやらなきゃならないですし、常に納期に追われているので、心身ともに健康的な生活は送れません。もし致命的なミスを犯したら、それまでの信用も財産もすべて失うリスクすらあります。
それでも私が設計士を続けているのは、「コレしかやったことがないから」です。
オジサンになり、体力も衰えた今、他分野に転職して今と同じ程度の報酬を得ようと思っても無理だから続けているだけです。
もし人生のやり直しが効くなら、フリーランスの設計士にはなりません。
「独立してフリーランスで働こうかな?」と考えている設計士のみなさん、それでも独立したいですか?
フリーで設計士をしている者です。本文に記載の通り下請けの仕事の納期はかなり厳しいですが私にとっては組織で仕事をするよりは遥かに気持ちが楽ですしやりがいを感じることが出来ます。やり方次第で会社員よりは多くの利益を生み出せるので私には向いていました。私の周りにもこだわりを持ってお仕事をされているフリーの設計士さん、デザイナーさんが多くいますが、現実は生活もままならない程度の収入しか得られず廃業して会社員に戻る方が多いです。なかなか自分の好きな設計をしてご飯を食べていくには厳しい業界ではあると独立してから感じました。