宇津木 慎司さん UGS(Utsuki Geo Solution)代表・CEO

「私は”一人土木地質コンサル”」 AIやBIM/CIMを活用しハザードマップを3D化

AIやBIM/CIMを活用したUGSのサービスとは?

あるとき、立川市で「UGS(Utsuki Geo Solution)」なる会社を営んでいる宇津木慎司さんという人物からコンタクトがあった。ネットで調べてみたが、どんな会社なのか良くわからなかった。

「とりあえず一度お会いしましょう」ということで、都内某所で1時間ほど話し合いの場を持った。いわく、「自分は『地質屋』で、AIやBIM/CIMなどのシステムを構築して、ダムなどの建設現場の地盤調査のほか、全国各地の3Dのハザードマップを作成しているんです」とのことだった。

ちゃんと理解できたわけではないが、「地質屋」から見た土木という切り口はおもしろそうだと思った。ということで、地質屋である宇津木さんのキャリア、UGSの主な事業などについて、聞いたところをまとめてみた。

京大で資源工学を学び、間組(安藤ハザマ)に入社

――2019年に起業したとのことですが、それまではどのようなお仕事を?

宇津木さん 京都大学大学院で資源工学科を学び、「土木屋」ではなく「地質屋」として、株式会社間組(現・株式会社安藤ハザマ)に入社しました。東北や関東のダムなどの建設現場で、地質調査、施工管理などの仕事に従事しました。現場のほかにも、本社勤務の経験もあります。

――「地質屋」ですか。

宇津木さん ええ。地質調査は基本的にコンサルの仕事なので、地質屋がいるゼネコンは少ないです。いても1人ぐらいです。安藤ハザマは比較的多いほうだと思いますが、それでも地質屋は10名程度で、社内的には少数です。

世界には、基礎岩盤の問題により、崩れたダムがあります。良い岩盤を出すためには、周りから深く掘り下げる必要があり、150m〜200mほど掘り下げるので、場合によっては、山を補強する必要が生じます。

私自身、過去に3箇所のダム建設現場で、そういう経験をしました。現場に行って、毎日山を見ててきました。毎日見ていると、「この山はもう崩れそうだ」というのがわかるようになるんです。

私のキャリアの3分の1は、山の現場を見る仕事でした。国内だけでなく、南米のホンジュラスの地すべりの現場にも行きました。現地では、山が崩れている中、補強工事を行いました。

宇津木さんが地盤調査に関わった津軽ダム工事現場(写真提供:宇津木さん)

地質調査はコンサルの仕事の領域ですが、コンサルは施工前に地質調査をしたら終わりで、施工には関わりません。地質のことを知らない土木屋が最終的に地質の評価をしているのが現状です。土木屋もちゃんと山を見ていて、優れた感性を持っている人が多いので、現場の地質に問題があればたいていは気づきます。

ただ、発注者に対して、「地質がこうだからこういう対策が必要だ」と論理的にしっかりした説明をすることが難しい面があります。そういう場合に、私のような地質屋が現場に飛んで行って、土木屋をサポートする。そういう仕事を中心にやってきました。

ダム建設現場の地質を3D化

――どういうサポートをしていたのですか?

宇津木さん 例えば、AIやBIM/CIMなどを使って、現場の地質を3D化して、説明したりしてきました。発注者に対し、感覚的に「地質が悪い」と説明しても、なかなか理解されません。こういうツールを使って、わかりやすく説明すると、理解してもらいやすくなるんです。

――施工前に地質調査しているのに、後で地質が悪いことが判明することがあるんですね。

宇津木さん それは当然あります。ボーリング調査を数mピッチで実施したとしても、ボーリングした間がどうなっているかはわからないからです。

――AIやBIM/CIMは安藤ハザマが開発したものですか。

宇津木さん そうです、既往の要素技術を組み合わせて、現場で使えるものにしました。AIによる分析と言うと難しそうですが、過去の崩落事例の因果関係をもとに、現況に照らしてどうかを分析するということなんです。

現場の技術者から「こんなのやりたくない」と反発されたこともありましたが、発注者に理解してもらわないと、補強工事などのための費用が出ないので、最終的には受け入れてもらいました。AIやBIM/CIMなどの新しい技術をつくっても、実際に現場で使えないと意味がありません。私にとって、現場での経験は大きかったです。

BIM/CIMも徹底的にやりました。ただ絵を描くだけではなく、斜面の計測結果を3D化し、リアルタイムにベクトルで表示できるようにしたんです。オフィスにいながら、世界の現場を見れるようにしました。

竣工検査の際には、キングファイル何十冊に上る資料を納品するのですが、通常は書庫に埋まってしまっています。このソフトでは、この資料データすべてを3次元図にヒモ付けたんです。

既往の要素技術を組み合わせ、独自の解析システムを開発

――独立された理由は?

宇津木さん 父親の介護、妻の体調不良が重なったことが一番の理由です。2018年12月末で会社を退職し、翌2019年1月に会社を立ち上げました。

――どういう会社ですか?

宇津木さん 簡単に言えば、地形、地質に関するITソリューションを提供する会社です。ITは安藤ハザマが開発したものではなく、既往の技術を自分で組み合わせた独自の解析システムを使っています。

例えば、AIは、Googleが開発したオープンソースのTensorfowを使っています。全体のシステムはある会社のクラウドを借りています。

当社が今主眼に置いているのは「まちの防災」です。変位などの情報をヒモ付けた被災現場の3次元図を作成し、防災に活用する取り組みを進めているところです。

ハザードマップの3D化

――防災ですか?

宇津木さん ハザードマップは全国にありますが、国や研究機関などがそれぞれで作成していて、一元的に管理されていません。自治体が作成するハザードマップは、2次元のモノがほとんどです。紙のハザードマップは地形がわかりにくいし、スケールや地域によって何枚ものマップが必要で、全体を俯瞰しながら見ることが難しい代物です。

GISを活用したオープンなマッピングシステムがいくつか出ていて、私はArcGISというソフト使っています。私はArcGISをベースに、様々なハザードマップを貼り付けて、一元的な3Dハザードマップを作成しています。

お付き合いのある自治体から作成しているので、現在はまだ10自治体ほどですが。ソフトを買ってデータを貼り付けるだけなので、誰でもできるんです。

ある自治体の3Dハザードマップを作成しましたが。もともとのハザードマップでは、洪水などで浸水が予想される場所に避難所が設置されていました。全体を俯瞰しないから、こういうことが起きるんです。

住民は、自治体が指定した場所に避難するのではなく、自分で逃げる場所を決めるのが基本です。自治体が指定しているからといって、必ずそこに避難する必要はありません。

2014年8月に広島土砂災害が起こりました。この災害は、花崗岩によって形成されたV字形の沢に、大量の水が流れ込み、地表が洗い流されたことによって、発生しました。花崗岩はマグマが冷え固まった硬い石です。

広島市在住の防災士の方が個人的に、私が作成した3Dハザードマップを購入していただきました。彼は、既存のハザードマップをもとに、市民に対し災害のメカニズムを説明したところ、まったく伝わらなかったそうです。

ところが、私が作成した3Dハザードマップで説明すると、V字形の地形が視覚的にわかりやすく、市民に理解してもらえたとのことでした。

3Dハザードマップのデモ画面(画像提供:宇津木さん)

あと、災害で問題になるのは、住民が自分で災害情報を探さないといけないことです。川の氾濫情報はこっちのHPを確認するとか、雨量情報はあっちのHPを確認するといったことが必要になります。

このやり方だと、アクセスが集中してサーバーがダウンするリスクもあります。バラバラな情報を一つのハザードマップに載せて、プラットフォーム化することが重要だと考えています。

私は「一人土木地質コンサル」

――防災以外の用途も考えているのですか?

宇津木さん 3次元図は、水道管など地中構造物もプロットできます。スマートシティにも活用できます。島根県益田市のスマートシティの試験モデルに選ばれたある会社の方から声がかかり、私も参加し、益田市の3Dマップを作成しました。

最終的には、まちの現在、過去、未来すべての情報入った3Dモデルをつくり上げたいと思っています。情報に変更があればAIはがそれを判断する。そういう時代が来ます。

――今後どのような活動を?

宇津木さん 私は自分を「一人土木地質コンサル」だと考えています。

普通の地質コンサルは、山を見ることもなく、ボーリング調査して地質図を描いたらそれで終わりですが、私は現場で毎日、山を見て、様々な課題に対処した経験を活かし、データをもとに3次元図を作成し、様々な情報を一元管理することで、防災やスマートシティに役立てるようにしているわけです。

システムがあれば、私が現場に行かなくても、現場を遠隔でサポートすることができます。そういうこともやっていきたいところです。

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