"暗黙の了解" 建設現場での失敗は、成功のもとではない。

“暗黙の了解” 建設現場での失敗は、成功のもとではない。

「失敗は成功のもと」とは限らない

私は以前、発電所工事の安全専任者として関わっていた。従来の建築の施工管理や建築図面・施工図面の作成などとは違い、いささか畑違いではあったが、これまでとは違う視点でたくさん学ばせてもらった。

一般的に、どんな世界でも「失敗は成功のもとだ!」と言われることが多い。失敗しても、それを良い教訓として先々に活かしていけば良い!とされている。失敗して恥をかき、情けない思いをして、その悔しい経験を繰り返さないようにするのが成長の証というのは、一部正しいと思う。

建設業の仕事でも、図面の失敗や施工の間違いなどは何とか取り返しがつく場合が多い。だが、現場での施工に従事する作業員の失敗はどうだろうか。現場で働く私たちにとっては、たった一度の失敗が、取り返しのつかない事態になってしまうことがある。

高所での安全帯フックのたった1回の掛け忘れが、即死に繋がることもある。いつもは慎重な人が、チョットだけ気が緩み、普段だったら絶対やらないミスをして、その1回のミスで一生を棒に振ってしまう場合や、高さ1メートルの脚立から降りる際に、バランスを崩して頭を足場にぶつけて死亡した例だってある。

「これくらい大丈夫!」と甘く見て油断したり、あるいはボーッとして普段なら絶対やらないような失敗をしてしまう。人間だからこそ、そんな失敗が起こり得る。

これまでの現場でそういった事故が起こったわけではないが、安全専任の仕事をした時に、他業者の安全だけを長年やって来た人たちから、そんな話をたくさん聞いた。

そんなベテラン安全専任者が口を揃えて言うのは、”言い続けることの大切さ”だ。同じことでも、毎日新たな気持ちで何度も言い続けることが大切だと、皆が口を揃えて言っていた。

人間は、機械ではない。一度インプットしたから大丈夫!と、そう簡単にはいかない。毎日違う感情で仕事をするからこそ、注意力も同じではない。

真夏や真冬の作業は、さらに危険

特に、真夏の猛暑日や真冬の極寒の中での作業は、注意力が散漫になりうっかりミスが多くなる。そんな時こそ、基本装備の確認から始めなければならない。

以前私がいたプラントや工場の現場では、建築現場に比べ、個人が身に付ける装備が格段に多い。

実際に作業をしてるわけでもないのに、安全担当の私でさえ、ヘルメットや安全靴以外に、安全眼鏡・キャハン・フルハーネス安全帯・熱中症計・酸素濃度計・補助ライト・身体を冷やすための空調服を身に付け、さらにコロナ感染予防のためにマスクを付けていた。

作業員の人たちは、その装備にさらに腰に重い工具をぶら下げ、より危険な作業に従事しなければならない。そのうえ、真夏であれば現場の気温が35.6度を超え、熱中症計は危険領域を表示し、警告音がピーピーと鳴りっぱなしの状態になる。

そういった注意力が散漫になる状況の中で、安全担当は、周囲の人間により一層気を配らなければならない。

朝礼では、簡潔な短い話が望まれる。その中で、要点をついた気持ちに残るような話をすべきだろう。個別の危険予知活動の打ち合わせ時には、それぞれの顔色を見て話をして、まともな答えが返って来るか冗談にちゃんと反応するか?等を見極めなければならない。

重要なのは、それ以降の時間帯で、顔を合わせれば声を掛け、反応を見て適切な指示をすることだ。特に、若く先輩たちに逆らえないような生真面目な人に対しては、体調を見極めて、必要に応じ休みを取る大切さの話をする。

また、高齢者だけでなく、持病があって薬を常用してる人も要注意だ。血圧・糖尿病など、塩分を排出する作用があったり、自律神経の働きを抑え、発汗作用を抑えるような薬もあるからだ。

ちなみに、私自身も注意力が散漫になっていたなと感じた経験をしたことがある。コロナ感染の予防のためにマスクをしていたにも関わらず、事務所に戻ってマスクを顎に掛けてそのまま忘れてしまい、新たなマスクをもう1つ付けて外に出てしまったことだ。

自分自身、ボーッとして注意力が欠けていたのが原因だろう。今までそんなことをしたことはなかったし、正直自分でも驚いた。小さなことだが、注意力が散漫になっていたという良い例だろう。

それがうっかりして、高所で安全帯フックの掛け忘れだったらどうだろうか。もうそれで人生が終わる可能性が高い。だからこそ、安全専任者はどんなことをしてでも、それを予防する策を考えなければならない。

嫌われようが疎んじられようが、言うべきことをしっかり言える強い心と人間性が必要になる。無論、現場所長の安全に対する考えが、最も大切なのは言うまでもない。

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アジア、アフリカなど海外の建築現場で長年、施工管理に従事している。世界中で対日感情が良好なのは、先人たちの積み重ねである。日本人として恥ずかしくない技術者でいたい。
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