制震構造は地震後のメンテナンスが容易!耐震や免震との違いを解説

制震構造は地震後のメンテナンスが容易!耐震や免震との違いを解説

制震構造とは、地震に強い工法のひとつです。建物の骨組みに取り付けた制震装置により地震エネルギーを吸収し、建物の揺れを小さくします。繰り返しの揺れに強いのが特徴です。

本記事では、制震構造の内容や他の構造との違い、メリット・デメリットについて紹介します。

制震構造とは?

制震構造とは建物を支える構造のひとつで、免震構造や耐震構造と並び地震に強い工法です。建物の骨組みにダンパーと呼ばれる装置を取り付け、地震のエネルギーを吸収して建物の被害を防ぎます。耐震構造より建物の損壊を防げる工法ですが、地表と接しているため免震構造よりは揺れを感じやすくなります。ここでは、制震構造の仕組みや他の構造との違いについて紹介しましょう。

制震の仕組み

制震構造の仕組みは、建物の構造に建物内部にダンパーを組み込み、揺れるエネルギーを装置に吸い込んで建物の揺れを小さくする構造です。装置により建物に柔軟性を持たせ、振動を抑えます。制震装置には、オイルダンパーや鋼材ダンパー、ゴムダンパーといった種類があり、揺れを吸い込む仕組みはそれぞれ異なるものです。

オイルダンパーは粘性の高いオイルを使い、その抵抗力で地震などの衝撃を吸収します。鋼材ダンパーは、金属が曲がる力を熱エネルギーに変え、揺れを吸い込む仕組みです。ゴムダンパーは、地震の揺れに対して伸び縮みしながら地震の力を熱に変え、吸収します。

免震や耐震との違い

地震に強い構造には、制震のほかに免震と耐震があります。免震構造は建物と基礎の間に免震装置を設置し、建物自体の揺れを軽減して倒壊を防ぐ構造です。地震による水平の揺れが直接建物に伝わらないようにしています。地震によって地盤が激しく揺れても建物は地盤の揺れに追随しないために、ほとんど損傷を受けません。

耐震は太く頑丈な柱や梁により、建物自体が地震に耐える強度で作られています。地震のエネルギーが直接建物に伝わるため、制振や免震構造と比較すると地震の揺れにより建物が受ける被害が大きいでしょう。建物の倒壊リスクがあり、家財も損傷を受けやすくなります。

制震は耐震に比べて揺れは小さく、建物が損傷する可能性も低くなりますが、免震に比べて揺れは大きく、家具の転倒なども起きやすいものです。

制震構造のメリット5つ

制震構造は地震のエネルギーを吸収するため、建物自体に被害が及ぶ耐震構造に比べて多くのメリットがあります。揺れを抑えるために建物や家財の損傷を防ぎ、建物が倒壊する恐れも少ないものです。繰り返す揺れに強く、地震後のメンテナンスも基本的に不要です。これら制震構造のメリットについて5つ紹介します。

1.建物や家財の損傷を防ぐ

制震構造は建物や家具類の損傷を防ぐという利点があります。骨組みに取り付けた制震装置が揺れのパワーを吸収し、振動を抑えるからです。耐震構造では建物の骨組みに直接パワーが伝わり、地面が揺れる2~3倍の強さで揺れを感じます。建物が被害を受け、家具の損傷も起きやすくなります。

このような耐震構造に対し制震構造は揺れが小さく、損傷は地震のパワーを受けた制震装置の部分に限定されます。そのため、建物や内部の被害も免れやすいのです。

2.建物の倒壊リスクが小さい

制震構造では、柱や梁に直接地震エネルギーの影響が及びません。建物への被害が少なく、倒壊のリスクも小さいのがメリットです。建物が地盤と接しているため揺れは感じ、建物内部にも影響はあるものの、耐震よりも被害を抑えるすることができます。

また、制震構造は壁に制震装置を装着する仕組みのため、リフォームで導入しやすいのも良い点です。耐震構造の住宅に制震装置を設置することで、少しでも倒壊のリスクを減らすことができます。ただし、リフォームの場合は新築で施工した場合よりも制震の効果が弱くなる場合もあるため、施工時には業者によく確認するようにしてください。

3.繰り返しの揺れに強い

建物自体に被害を受ける耐震構造では、強い地震や繰り返しの地震に耐えられず、被害は蓄積します。これに対し、制震構造は建物の主要な部分に被害を受けないため、繰り返しの揺れに強いというメリットもあります。

大地震のあとに余震が続いた東日本大地震の経験からは、繰り返す揺れに耐性のある制震構造は安心できる工法といえます。

4.基本的なメンテナンスが不要

制震構造の装置であるオイルダンパーや鋼材ダンパー、ゴムダンパーは、地震後のメンテナンスを基本的に必要としません。鋼材ダンパーは単純な構造をしているため、定期的なメンテナンスも不要です。

オイルダンパーもメンテナンスフリーとしている製品はありますが、経年劣化によるオイル漏れの可能性はあるため、定期的なメンテナンスは必要になります。とはいえ大がかりではなく数年おきで済むため、免震構造ほどの手間がかかることはありません。

5.高層ビルに有効

制震構造は地盤と接しているため1階部分の揺れは感じやすくなりますが、上階の揺れを抑えられるというメリットがあります。

通常の地震では上階になるほど揺れが増幅して大きく揺れますが、制震構造では制震装置が振動を抑えるため、上階への増幅効果が少なくなるのです。そのため、今日では多くの高層ビルで制震構造が採用されています。

制震構造のデメリット3つ

メリットの多い制震構造ですが、デメリットもあります。そもそも、地盤が弱い場合は導入は困難です。また、免震構造ほど導入の制約はないものの、設置のためにある程度の広さが必要です。揺れを抑えるとはいえ地表に接しているため、免震構造よりは強い揺れを感じるという限界もあります。ここでは、制震構造のデメリットを3つ紹介しましょう。

1.地盤が弱いと導入できない

制震構造は制震装置が代わりに動き、揺れのパワーを吸収します。しかし、地盤が弱い場合、振動をうまく吸収することができないため、装置本来の効果を発揮できません。地盤が弱い土地の場合、導入できないのです。この場合は、まず建築の段階で地盤改良工事を行うなど、適切な地震対策を行う必要があります。

2.ある程度の広さが必要

免震構造ほどではないものの、制震構造の場合も設置における制約があります。あまり狭い場所には設置できない可能性があるのです。

また、制震構造は制震装置を設置する場所や数などで効果に差が出やすいという難点もあります。効果を発揮できる位置に設置されるかどうかで性能が変わるため、業者によって地震対策の効果に差が出やすいのです。

3.地表面の揺れは感じる

制震構造は地震のエネルギーを吸収するものの、建物は地盤に接しているために地震の揺れは感じます。特に1階にいる場合は直接感じるでしょう。

制震構造の利点は、どちらかといえば高層ビルなど振動が激しくなりやすい建物の揺れを抑えるところにあります。強い地震には1階部分も揺れ、家財にも影響が及ぶということは認識しておきましょう。

制震は高い建築物に有効な手段!

制震構造は、建物に設置した制震装置により地震エネルギーを吸収し、揺れを抑える工法です。耐震構造よりも建物の損壊を抑え、繰り返しの揺れにも強いというメリットがあります。

ただし、揺れを感じることはあり、内部の家財も影響は避けられません。上層階に振動が増幅する効果を抑えるのに有効で、高層マンションなどに適している構造です。

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