転職事情は人さまざまで、理由も手段も目的も異なります。設備の施工管理をしていると、その業務量の多さから、心身に影響が出て退職を選択する方は多いです。
私も転職をしましたが、実は転職後も設備の施工管理をしています。
転職失敗したの?と思う方もいるかも知れませんがそうではありません。転職しても職種は変えず、労働環境だけが大きく変わりました。
そんなことって本当にあるの?と思っている方に、筆者の体験をエピソード形式でご紹介します。転職活動の参考にしていただければ幸いです。
厳しくも面白かった現場代理人
建築設備の施工管理は一般的に激務と言われていますが、当時の私も例外ではありませんでした。時期によって波はありますが、時間外労働が最大300時間/月にも及ぶことも。
それでも「大変」とは思うものの、「辛い」とは思ったことはありませんでした。現場代理人として、会社からはかなりの裁量を与えられていたためです。
この頃はそれなりに多忙でありましたが、それ以上に充実感を持って働いていました。部下ができてからは段々と普通の生活にもなっていきました。
転職を意識したきっかけ
きっかけは、当時交際していた彼女(今の妻)です。
24時間稼働現場を1人で回すという意味不明な案件が終了し、ある程度時間もできて暇ができるだろうと思った矢先、他現場の応援(大炎上)で火消しに行くことになりました。そこも24時間土日関係なく稼働している現場・・・。
現場に入ると案の定それに巻き込まれます。そろそろ彼女のご両親にも挨拶を・・・と日取りを決めていたのですが、前日も深夜タクシーでの帰宅。すると彼女から、「今の状況では両親には合わせられない」と。
これで心が決まりました。
転職を決意し、エージェントに登録
応援現場も片付き、息つく間もなく自分の現場が始まります。現場をこなしつつ、転職エージェントに登録して情報収集を行いました。
どんな人材が求められているのか?また、どの程度の期間求人を出しているのかなど眺めていました。
建築設備士を取得
この時、1級管工事施工管理技士は所有していましたが、年齢も30歳。突出したものがないと分が悪いのは分かっていました。
以前受験して落ちた建築設備士を改めて取得することを目指します。この頃には部下も育ってきてましたし、正直時間がありましたので、しっかり勉強をして無事合格することができました。
これで土台が完成です。
いざ、転職活動開始
最後は多少バタバタしたものの、現場も無事に終わりが見え、上司から次の現場の話を受けます。
すると、次は大現場の次席という扱い。現場代理人であれば会社の代表なので、一度でも受注先との顔合わせをすると、辞めるためのハードルが上がりますが、次席となれば違います。
このタイミングしかないと思い、転職コンサルタントにアポイントを取りました。
転職コンサルタントと面談
転職エージェントによっては夜20時から面談OKでした。仕事終わりに向かいます。そしてコンサルタントとびっちり面談。
条件は以下のように優先順位を決めました。
条件設定
- 建設現場に携わる仕事
- 残業に対してストッパーとなる仕組みが会社にある
- できれば施工管理をベース
- 生活圏が変わらない
- キャリアが途絶えない
この時、私がブラックな環境から抜け出すために、23時まで相談に乗ってくれるというブラックな働き方をしてくれたコンサルタントには本当に感謝しています。
候補となった企業
全部で20社程度紹介してもらいましたが、記憶に残っている範囲で書き出します。
企業 | 募集内容 | 提示年収 |
A社 | データセンター設備の設計・施工管理・メンテナンス | 600万~ |
B社 | 大手企業の某事業部での設備施工管理 | 現状維持 |
C社 | 大手空調機メーカーの現場支援 | 600万~ |
D社 | 夢の国の施設管理 | 700万~ |
E社 | スーパーゼネコンの設備担当 | 650万~ |
F社 | 大手銀行の施設管理 | 800万~ |
おおよそ現状と変わらない金額だったので、あとは条件次第といったところでした。そこで3社並行で面接を受けてみることになりました。
面接開始~内定に至るまで
早々に面接の日程調整です。転職コンサルタントが代行してくれます。A、B、C社について並行で調整。早々にA社とB社の面接が決まりました。
面接:A社
A社はデータセンターだからなのか、何ともお堅い雰囲気が出ていました。面接官は3人。後で知ったのですが、データセンターを施工した時に施工管理をしていた方々だそうです。
A社の面接結果
- 設計も施工も運用も自分でできる
- 技術者としての成長が見込めそう
- 最初はメンテ部門からということで教育も考えている
- 収入は現状より多く出せるが福利厚生は大手より見劣りする
- 勤務地は東京のみ
面接:B社
B社は大手企業なので、お堅いだろうと思いながら面接に臨んだら何とも砕けた面接官が・・・。直感的に思いました、「この人は現場のたたき上げだ」と。
話をしていると元々サブコン勤めで共感できることが多く、また会社としても残業もどんなに忙しくても80~100時間というリアルな話が聞けました。
B社の面接結果
- 新築工事が中心で今までの延長で仕事ができる
- 入社数か月は教育も踏まえた部署の配属を考えている
- 土日祝日は基本的には間違いなく休める
- 収入は少ないが大手ならではの福利厚生が充実
- 勤務地は関東近辺が中心
この時点でB社にしようと決めていましたが、どちらも次の選考へ進みました。
C社は都合がつかず。2回合わなかった時点でもう縁がないと判断し、お断りしました。
採用条件の擦り合わせ
どちらも2次選考に進むと人事部の方でした。というのも、1次選考を通過した時点で基本的には採用する方針とのこと。2次選考は条件面の擦り合わせ。
こちらは給与や福利厚生の具体的な話、入社時期や入社後のキャリアについての確認が主でした。
B社については、ここで明確に45歳くらいで○○のポジションについて欲しいとも言われました。さすが大手というか長期的に人員計画を練っているんですね。
内定
A社も同様に人事部の面接を通過。最後に、役員の承諾を得られれば(書類を見て)内定が確定・・・とのことで報告を待っていたのですが、1週間経っても連絡がなかったのでこちらからお断りを入れ、B社に入社することになりました。
本当は他の企業の話も聞いてみたかったのですが、あっさり終わってしまいました。なお、面接開始から入社決定までおよそ3週間でした。
上司への報告。そして退職
退職までの期間は2か月もらいました。その間に会社に報告をしないといけません。このタイミングが本当に難しい。
普通に退職するのであれば、最悪は逃げるように出ていくという手もないことはないのですが、施工管理という職を続けるということは、いつか必ずどこかの現場で会社の人や関係者と会う確率が高いということ。辞め方を間違えると次の仕事に支障が出るかもしれません。
ある日、ちょうど上司と二人きりで残業をすることになったので、世間話の延長から退職を報告。じっくりと話を聞いてもらいました。その後は引き止めの嵐で最終的には支店長まで。
最後はB社に行くと言ったところ、「そりゃあそっちのほうが良いに決まっている」と快く送り出してもらいました。
今までお世話になった施主の担当者や設備担当も含め、辞めるまでの間に色んな方に報告をしましたが、一番辛かったのは、部下だった後輩に大泣きされたことですね。ごめんよ。
退職決定~入社まで
有給休暇も溜まっていたのですが、1日も消化しませんでした。部下のために現場で使える金銭を工面したり、最後の1日まで諸口工事をやっていました。
最終日の夕方、制服と社章を返しに会社にいくと、「お前はいつまで働いているんだ・・・」と逆に呆れられる始末。何か本当に辞めるのか自分でも不思議な感覚でした。翌日から違う制服を着て働く実感はほどんどありませんでした。
まとめ
いかがでしたか?少し具体的に転職までの流れを実体験ベースで紹介してみました。
私が転職を選んだ理由は、忙しい時も支えてくれた今の妻に応えるために行動で示したかったためです。
転職活動自体は3週間と短いかもしれませんが、それまでの準備期間があってこそ。いざ動かないといけない時に迷いなく動く準備をしておくことが大事だと思います。
また、当時は設備の現場代理人として相当自信を持っていましたが、転職先でキャリアが途絶えた場合も想定しておかないといけません。目の前の転職での待遇改善より、長期的にみたキャリアの断絶のほうが大きな懸念事項でした。
その時は、個人事業主などの形で現場に戻って自分のペースで割り切って仕事をするということも考えていたのは事実です。そう考えられるくらい施工管理という仕事は得られるものが多くて、潰しがきく職種でもあると思っています。
選択肢はより多く持ちたいですね。そのために今何をするべきか?それは常に意識しておかないと厳しい競争社会で生き残っていけません。いつになったら解放されるのか・・・悩みは尽きないですね。
※この記事は、『建築設備の工事日報』の記事を再編集したものです。