乾 すみれさん(湯浅建設株式会社 工務課主任)

乾 すみれさん(湯浅建設株式会社 工務課主任)

冬場は「イノシシ猟」をする26才のドボジョ

事務員から転身した若手女性技術者

前回、高知県の山奥を拠点に建設業を営む湯浅建設株式会社の湯浅雅喜さんの記事を出した。その記事中、事務員から技術者に転身した女性社員のお話が出た。当初の取材予定にはなかったが、その女性技術者への取材を依頼、即了承を得た。

ということで、若手女性技術者である乾すみれさんに対し、ふだんの仕事ぶりなどについてお話を伺った。なお、社長の湯浅さんにも、オブザーバー的に取材に加わってもらった。

事務員やけど、技術屋やってみんか

社長の湯浅雅喜さんとすみれさん

――湯浅建設には事務員として入社したそうですが。

すみれさん そうです。

――なぜ湯浅建設で働こうと思ったのですか。

すみれさん 工業高校で建築を学んだ後、馬路村役場で臨時職員をしていたんです。そのときに湯浅社長から「ウチで働かないか」とお声をかけていただいていたんです。それで入ろうかなと思いました。

――入社したら、その社長から「技術屋をやってみんか」と言われたと。

すみれさん そうです。

湯浅さん 入社直後から、冗談ぽくではありますが、言っていました。

――技術に変わったのはいつですか?

すみれさん 入社2年目です。技術になって今年で3年目になります。

――事務員から技術者になるのは大丈夫でしたか?

すみれさん もともと外の仕事に興味があったので、とくに問題はありませんでした。

とにかく現場仕事がやりたかった

――と言うか、建築の仕事には就かなかったんですね。

すみれさん そこは当然考えたんですけど、学校の先生から「女の人は建築現場よりはデザイン設計のほうが多い」と言われたんです。ただ、私としては現場仕事がやりたかったので、「デザイン設計だったらいいや」ということで、とりあえず地元に帰ることにしました。それで村役場の臨時職員をやっていたわけです。

――建築と言うか、現場仕事をやりたいという感じだったんですね。

すみれさん そうですね。父が大工だったので、大工みたいな仕事をしたいなとやんわりと思っていました。

――そういう流れがあったのであれば、土木の現場仕事もつながってきますね。

湯浅さん 私もそれを知っていたので、現場仕事に誘ったんです。

――技術をやるに際し、決心した瞬間とかはあったのですか?

すみれさん 座りっぱなしの仕事に対して、気持ち的にだいぶキテいたので、カラダを動かしたいというのもあって、決めた感じです。

――土木については、入社してからいろいろ知った感じでしたか?

すみれさん そうですね。書類づくりなんかを通じて、土木の仕事がだんだんわかってきたかなという感じです。まあ表面上でしたけど。

――最初から施工管理をやる話でしたか。

湯浅さん そうです。施工管理しか考えてなかったです。絶対うまくいくと確信していました。

すみれさん 私もそうでした。

――施工管理の仕事についてもある程度イメージはあったわけですか?

すみれさん なんとなくですけど、こんな仕事かなというイメージはありました。

最初の現場で杭の高さを間違えて、泣く

現場で測量中のすみれさん(湯浅建設提供)

――最初の現場はなんでしたか?

すみれさん 魚梁瀬大橋の横に仮橋を設置する現場でした。そこで施工管理の仕事をやりました。

――いきなり施工管理の仕事だったんですねえ。

湯浅さん とりあえずやらしてみるのがウチの育て方ですから。すみれさんは「私にはムリ」がないコです。実際、何事にも前向きに取り組んで、覚えも早かったです。最初の現場にも関わらず、どんどん成長していきました。

すみれさん 今でもそうですけど、最初に現場に入ったときは、何をして良いかわからなかったので、戸惑いました。写真管理なども含め、とりあえず全体を見る仕事をしました。

――失敗込みで任せたわけですね。

湯浅さん そうですね。部長に先生役でついてもらいましたが、普通の技術者がやっている仕事はだいたい任せてました。もちろんちょっとした失敗はありましたけどね。

すみれさん ありました(笑)。鋼管杭の高さを間違えました。

――もうちょっと詳しく。

すみれさん (笑)。鋼管杭の基準となる高さを野帳に書き間違えたんです。それをもとに計算をしたので、作業を進めているうちに、1mぐらい高さが合わなくなってしまいました。それで作業をやり直しになりました。そのときは帰りのクルマの中で泣きました(笑)。

――でも、会社的に大した問題ではなかった?

湯浅さん 費用的にはちょっとかかりました(笑)。でも、そういう経験をすることで慎重に仕事に取り組めるようになるので。

すみれさん このことをきっかけに、しっかり確認するようにはなりました(笑)。

――期間はどれぐらいでしたか。

すみれさん けっこう長かったです。

湯浅さん 工事が3期に分かれていて、1期が半年ほどありました。中止なんかもあったので、トータルで2年間ほどかかりました。その間、他のいろいろな現場にも入ってもらいました。

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初めての工種の現場もべつに苦じゃない

パソコン作業中のすみれさん(湯浅建設提供)

――他の現場としてはなにがありますか?

湯浅さん ガードレールの設置工事、道路法面の吹付工事、道路擁壁のアンカー工事などの施工管理です。あとは、他の人がやっている現場のお手伝いもやりましたし、型枠組立、コンクリートを打設する現場作業もやってもらいました。今は県道法面の災害復旧工事の施工管理をしています。

――すでにいろいろな現場を経験していますね。

すみれさん させてもらっています。

湯浅さん ウチは「ドンドンやれ」という感じやもんね?

すみれさん はい(笑)。

――現場仕事には慣れましたか?

すみれさん そうですね。少なくとも、経験した工種に関しては慣れましたね。初めての工種をやるについても、べつに苦じゃないです。切羽詰まるということもないです。

湯浅さん すみれちゃんがスゴイのは、書類づくりが早いことです。他の社員に比べても、処理能力はバツグンです。

すみれさん そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。

――発注者とのやりとりはどうですか?

すみれさん 高知県と馬路村、営林署とやりとりしました。それぞれ管理の仕方や書類の書式などが違うので、それが大変です。困ったら、社長や部長などに相談しています(笑)。

湯浅さん 「よっしゃー、そこは任しちょけ」という感じで、サポートしています(笑)。

――困ったときは、たとえばどういうときですか?

すみれさん たとえば、それまで出したことがないような書類を出してくれと言われたときとかですかね。

湯浅さん そんなときは、私が本人に代わって、発注者に直接問い合わせます(笑)。

――作業員さんや職人さんへの指示出しとかも、楽勝ですか?

すみれさん 楽勝ではないですけど、逆に「もっとこうしたほうが良いで」とか言ってくれるので、とくにトラブルなどはありません。可愛がってもらっています。

湯浅さん 作業員さんや下請さんには優しい人が多いので、うまくいっていると思います。

すみれさん そうです。

――暑さ寒さは大丈夫ですか。

すみれさん 暑いときは、何度かフラフラっとなりましたし、寒いときは足が霜焼けになったことがありました。でも、なんとかやっています(笑)。

――日焼けは気になりませんか?

すみれさん 全然気にならないです。日焼け止めもたまにしか塗らないです。

湯浅さん 仕事中はノーメイクですが、プライベートは誰かわからないぐらい女子になります(笑)。

すみれさん そうです(笑)。高知市内に遊びに行くときは本性を出すので(笑)。

なんでもやらしてもらえるし、先輩が優しいのでわからないことを聞きやすい

――休みはもっぱら高知市内などに出かけていると。

すみれさん そうですね。あとは飲みに行ったりしています。実家が兼業農家なので、ゆず栽培の手伝いなんかもしています。あとは、鉄砲の免許を持っているので、冬場には、父親と犬と一緒にイノシシ猟に行ったりすることもあります。この前の休みは田植えの準備をしていました。

――今後取りたい資格とかはありますか?

すみれさん 昨年、二級の機械施工管理技士と土木施工管理技士を取りました。いずれは一級を取りたいと思っています。

湯浅さん 他にもいろいろな資格があるので、どんどん取っていってもらおうかなと思っています。

――今後やりたい仕事はありますか?

すみれさん まだ治山林道などの森林土木をやったことがないので、治山の谷止堰堤工事をやりたいです。と言うか、仕事が取れたらやらせてもらえることになっているので、そのときは頑張りたいです。

湯浅さん 治山の谷止堰堤工事は元請けの社員さんとやる仕事になるので、すみれちゃんがこれまでに経験したことのない仕事の進め方になります。自分の仕事も増えてくるかもしれませんが、それだけに避けて通れない仕事だと思っています。

すみれさん そうですね。

湯浅さん そのうち山の技術屋としてスペシャリストになるでしょう。

――湯浅建設の魅力はなんですか?

すみれさん なんでも聞いてくれて、なんでもやらしてもらえるところです。先輩も全員優しいので、わからないことなども聞きやすいです。

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