死にボルト
皆さんは、「死にボルト」という言葉を知っていますか?
これは「42V(死にボルト)」という語呂合わせで、42Vという低圧の電気でも人は感電して死ぬ可能性がありますよ!という危険を周知するための言葉です。
海外などで充電中のスマホで感電死するというケースもありますが、電圧は5Vほどでも電流が2Aや3Aほどあるので、条件がそろうと5V程度でも亡くなる可能性があるんです。(皮膚が汗で濡れている状態や、水中に大部分が浸かっている状態だと、乾燥している状態と比べて抵抗が1/12から1/25まで低下すると言われています)
私たち電気保安業務従事者が扱う電気というのは、色もニオイもありません。電球が光るのは、電気の力によって金属等が発熱・発光している状態ですので、電気に色があるわけではありません。そのため、電気が流れている、流れていないというのは肉眼ではわかりません。
そこで検電器などの道具が必要になるのですが、お客様が検電器などを持っているのは本当にレアです。なので、時々ですが「危ない!!」と思うことがあったりします。
これは、かれこれ数年前ですが、多店舗展開しているお客様のお店で出会った副店長様の話です。
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「これくらいなら私でも…」が招いた感電事故
その方は女性の方で、電気主任技術者の資格はもちろん持っていないどころか、電気工事士の資格も持っていない方でした。
ただ、前に働いていた工場で簡単な電気工事(とはいっても、ケーブルが切れた場所を手でネジってつなげるレベルだったようです)をされていた方ではありました。
ある日、屋上駐車場にある消火器収納箱のランプが切れていることに気づいた副店長様。「これくらいなら私でもできるな」と思ったらしく、早速ハサミとビニールテープを持ってきて、切れた場所を特定して繋ごうとしたところ・・・感電してしまったそうです。
「もうね! ビックリしましたよ!!それほどの衝撃ではなかったけど、ビリビリ!ってきてねーーー!」
その話を聞いて、私も思わず「えっ! 電気は目に見えないんで、本当に危ないですよ!下手したら死ぬ場合もありますからね!こういう時は自分でやらずに連絡してください!すぐにお伺いすることは難しい場合もありますが、なるべく早く行って修正いたしますから!」と強く言ってしまいました。
お客様への忠告も、検査員の大事な仕事
実は、この忠告も私たちの大事な仕事の一つなのです。
電気保安法人を設立する際には様々な条件がありますが、その一つにマネジメント規程という書類を提出する必要があります。その中には「検査員の主たる役割」として、「受託事業場で行う電気相談及び保安教育」(関東東北産業保安監督部電力安全課 マネジメント規程より抜粋)という文言があります。
つまり、検査員はお客様に対してちゃんと教育する必要もあるのです。
私たちが守るのはお客様の財産である電気設備だけではなく、正しい使い方を教育することで、お客様の命を守ることも含まれているのです。
ビリビリはこりごり(笑)
その後、私も消火器収納箱をチェックしていなかったなと反省し、他のお客様でも同じようなケースがないかチェックをし、次に生かしています。
また、当時働いていた会社では、この時の出来事は顧客向けの教育用チラシにして、他の点検者にも配っていただきました。
感電した副店長様は笑いながら、「もうビリビリはこりごり(笑)。次回からは触らず、電話しますね!」と話していました。
命の境界線は”ほんの数センチ”
今回のケースでは、おそらく数ボルトの感電で、幸い条件がそろわなかったため、ビリビリと感電しただけで済みました。ですが、ここで大げさに言わないとまた感電するようなことをしそうだなと思ったため、割と大げさにお伝えしました。
今回はたまたま条件がそろわなかっただけで、条件がそろっていたら・・・と思うと、ゾッとします。
私もこの業界で仕事をするようになって20年以上経ちます。幸い、目の前で感電死亡事故を目撃したことはありませんが、「命の境界線はほんの数メートル、数センチ」だということを忘れずに仕事をしています。
この命の境界線というのは、「簡単に手で触れることのできる距離に、実は人が簡単に死ぬほどの電気が流れている」という意味で、先輩から教えていただいた言葉です。
電気は目に見えない。見えないからこそ、慎重に慎重を重ねて扱わないといけないのです。この事件はたまたま小さな出来事で済みましたが、本当はもっと大きな事故になっていた可能性があったことを忘れずに、今日もお客様からの様々な相談に乗っています。