長野県からS県への転勤命令
私はゼネコン一次業者で、現場代理人兼職長をしています。主に関信越、長野県の建設現場を担当してきました。
長野市、松本市、白馬村、 菅平高原、飯綱高原などの大自然の素晴らしさを肌で感じながら現場管理をしてきたため、一時期は長野で一生暮らしてもいいなと真剣に考えていました。
しかし、長野オリンピックが過ぎた頃から、関信越の仕事量は減り、本社からS県の現場へ転勤するよう命じられてしまいました。S県は初めての赴任先であり、不安半分、期待感半分の気持ちとなりました。
そんなS県の現場での話です。きっと現場管理の教訓になるはずです。
S県発注の公共工事に後乗り込み
私の住まいはレオパレスで、現場までは自動車で通勤30分ぐらい。S県発注の公共工事で、葬祭場新築工事の現場です。
場所はS県でも田舎のほうで、 周りには何もありません。現場までは皆さんほとんど自動車通勤。バスも走っているので、駅から通勤する者も少なからずいました。
工事の元請け業者は大手ゼネコン、設計は大手設計事務所です。現場はすでに躯体工事が終了し、内外装の工事が始まりかけた状態。屋根は緑地とする斬新な設計となっております。
そこに私は後乗り込みしたというワケです。
現場の自動販売機が壊された!
仮設事務所に隣接して蕎麦・うどん屋さんがあり、お昼時には現場作業員たちで大賑わいとなっています。その近くに大きい自動販売機が2台設置してあるのですが、近くにコンビニやお店がないため、この自動販売機2台で、水分補給するしかないという状況です。
しかし、ある日、その1台が破壊されました。前面の蓋をバールでこじ開け、小銭を盗んだ輩がいるのです。マジか、器物損壊、窃盗の犯罪だぞ、S県は怖いな。夜は施錠されて現場内には入れないし、昼は大勢の職人さんが仕事しているから、見つかれば現行犯だ。しかし、昼間に実行したとしか考えられん。と私は思いました。
自動販売機が壊されていることに、みんな気付いているはずです。しかし、この現場では、ゼネコン職員に話かける者は誰もいないし、定例会議でも自動販売機のことは話題にあがりません。もしかして、この現場では1度や2度ではないのか、恐ろしい場所に来たものだと私は思いました。
皆、知らんぷり。スーパーゼネコンの現場なのに、この現場の管理はどうなってんだ?無言なのがとにかく恐ろしい。職人さんは道具一式を現場に置いて帰っているが大丈夫なのか?私の道具やパソコンがどうなるかも心配になってきました。
しかし後乗り込みの業者としては、余計なことは言わないほうが無難です。ましてや、ここでの実績はまだないし、敵を作らないのが協力業者の鉄則です。
犯人は同じ現場にいる?
その後、ゼネコンさんは何事もおっしゃらずに、壊されなかったほうの自動販売機を鉄の型鋼で頑丈に囲い、蓋をこじ開けられないようにしました。これで残った自動販売機は壊されないでしょう。一方、破壊された自動販売機は入れ替えることもなく、そのままの状態です。
2台とも壊さなかったということは、完全に飲めなくなるのは本人も躊躇したのだろう、その点は頭が回る犯人だなどと現場では妄想が膨らんでいきます。他人が泥棒に見えてしまう、殺伐とした現場の雰囲気です。
なぜ元請さんは犯人を捜そうとしないのか、黙認しているのか。昼間は目撃者があるはずである。毅然として退場を願えばいいのだ。所属会社は懲罰を与えればいいのだ。長野県の現場であれば、同じ元請けのゼネコンさんでも、ありえない話だと思いました。
私は車の中でも貴重品は置いておけないと思い、常に身に着けて置くよう職人さんたちに伝えました。道具も毎日持ち帰るのは大変だから、シート養生して包み、鎖で鍵をかけるよう指導。道具を盗まれると仕事ができなくなり、工事の遅れにもつながります(なかでも投光器は盗まれやすいので要注意です)。
缶コーヒーを飲みながら、取引業者と打ち合わせしたい
ある朝、現場に行くと、壊れた自動販売機は撤去されていました。しかし、新しい自動販売機の設置はなし。
今後、仕上げ工事が最盛期を迎えれば、1台では到底まかなえないわけで、この機会に私は意を決して、定例の打ち合わせで元請け側に意見することにしました。
しかし、元請け側の回答には愕然としました。飲み水は協力会社側で、麦茶を保冷水筒に入れて持ち込んで欲しいとのこと、あくまで販売機は増設しないという回答です。罪のない我々が巻き添え食う形となりました。
私は缶コーヒーを飲みながら、取引業者との打ち合わせや、職人との打合せをやりたいわけです。他の職長さんも同じ考えの方は多かったのですが、自動販売機1台ではタイミング悪く売り切れていれば、それが叶わないわけです。
結局、自動販売機の増設は叶わなかったわけですが、まだ職長会のない現場だったので、私は今後、職長会を立ち上げ、 週1回の職長会の安全パトロールや、安全大会を兼ねたバーベキュー大会を開催し、おはようの声掛け運動など、現場の雰囲気を良くすることを目指すべきと主張しました。
現場は「生もの」
いかに職長会が重要であるか再認識する現場でしたが、ここの所長さんも、職長たちの自主的な行動を待っていたようでした。
あとで聞いてみれば、所長も相当に悩んでいたようで、ようやくこの現場にも光が射してきたと言っていました。
とにかく現場監督は、そこで働く人々に情報発信し、働く人々も発言することが大切です。自動販売機の一件ごときでも、何の情報も発信されないと、現場ではヘンな憶測が飛び交います。
現場は生ものである。声を掛け合っていきましょう。