石下 増美さん 国土交通省 四国地方整備局 土佐国道事務所 事業対策官

石下 増美さん 国土交通省 四国地方整備局 土佐国道事務所 事業対策官

土佐国道事務所の働き方改革への対応はどうなっているのか?

建設業へのいわゆる働き方改革(時間外労働の上限規制)が施行されて、半年が過ぎた。発注者、受注者ともにしっかり対応できているのか、気になっている。

たとえば、週休2日が確保されているとしても、それも表向きの話であって、実際の仕事現場では、ダンピングやヤミ残業、下請けへの丸投げ(ムチャぶり)といった行為が横行しているのではないか。あるいは、働き方改革に適合した働き方がデフォルトになった場合、地震など大規模災害が発生した場合に、果たしてスムーズに緊急対応に切り替えられるのか、といった懸念が残るからだ。

どうもモヤモヤしてならない。

そこで、建設現場に近い土佐国道事務所に対し、働き方改革への対応状況などについて、取材することにした。土佐国の事業対策官(工事の発注手続き、工事・業務の検査、安全管理、改築事業などを所掌)である石下増美さんにお話を伺う機会を得た。

週休2日制拡大に一定の手応え、職員にはメンタルケア面談を実施中

――管内における働き方改革への対応状況について、教えてください。

石下さん 働き方改革の一環として、2024年4月から時間外労働の上限規制が始まっています。われわれ国土交通省としては、従前からいわゆる担い手三法を改正し、受注者の方々にわれわれの姿勢をお示ししながら、新しい働き方を業界に根づかせるため、発注者として、週休2日制工事の拡大、適正な工期設定、生産性の向上、インフラDXの取り組みを進めているところです。

これらの取り組みは多岐に渡りますが、現場を担当させていただいている立場で一番手応えを感じているのは「週休2日制の拡大」です。直轄工事については、数年前の「モデル工事」からスタートし、昨年度からは、原則週休2日を実施しています。

現場の責任者に聞くと、若手確保の観点からも絶対条件だと。スタート時、「なんとか休日に仕事をやらせてもらえないか」と休日作業届を提出してきていた同一人物とは思えません(笑)。お見かけになったことがあるかもしれませんが、幹線道路沿いの現場に土佐弁で「うちは完全週休2日制やき!」と大きな横断幕を張っていたりします。今や業者さんのウリになっていますね(笑)。

また、県や市町村などと組織する、「四国地方公共工事品質確保推進協議会」(品確協)も今年度「週休2日の取り組みを推進する」を申し合わせ、「全工事週休2日」を目標にしています。同じく拡大しているICTの活用など、生産性の向上と併せ、さらなる改善に期待しています。

――土佐国職員の働き方改革はいかがでしょうか?

石下さん 土佐国独自の取り組みとして、職員のワークライフバランスの推進のために2024年5月から、毎月末に職員のメンタルケアのための個人面談を実施しています。具体的には、仕事での心配ごと、健康状態や休暇の取得見通しなどといったことをヒアリングしながら、適宜必要な対応を講じています。

この効果かどうか、昨年度に比べ、今年度の超過勤務時間が減少したりしています。休暇の取得についても、事前に面談を行っておくことで、部下は言い出しやすく、管理職は翌月の業務分担の参考になっているのではないでしょうか。

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抜き打ちで、施工体制に関するヒアリング調査を実施

土佐国道事務所提供

――働き方改革への対応のチェックはどうなっていますか?

石下さん 国土交通省では、全国一律の取り組みとして、現場の「施工体制の点検」調査を年に1度、実施しているところです。施工体制とは元請けと下請けとの関係ということです。たとえば、キチンと見積もりをとって、請書を出して、支払い条件も定めて、変更する場合はお金も変更して、しっかりルールに則って施工体制を組んでいるか、現場事務所へ出向いて書類の確認やヒアリングをしてチェックします。

土佐国では、今年度は3件の工事について、点検しました。元請けから施工体制に関わる書類などを詳しく見せていただきながら、いろいろとヒアリングをしました。施工体制台帳の備え付け、下請け工事に必要な専任技術者の配置、保険加入、外国人労働者の資格といったこともチェックします。加えて、別途下請けにもヒアリングします。契約にあたり、特定の資材購入など、元請けから無理なことを言われていませんか、といったようなことを聞きます。

――抜き打ち調査ですか?

石下さん そうです。過去の調査結果をもとに、会社を選んで、点検しています。

――まるで施工体制Gメンですね。

石下さん 国土交通省には「建設Gメン」というものが実際に存在するのですが、すべての事務所においても、このような点検調査を実施することになっている、というお話です。先日、調査結果を提出したところです。管内の業者の皆さん対象に抜かりなくやっているつもりです。

建コンへの立ち入り調査は未実施。代わりにウィークリースタンスでチェック

土佐国道事務所提供

――建設コンサルタントへのチェックはどうですか?

石下さん 建設コンサルタントの業務については、受注後、ウィークリースタンスという書類を提出してもらっています。

これは、働き方改革に対応するため、就業時間は何時から何時までですか、休みはいつですか、ノー残業デーはいつですか、といった書類を取り交わして、業務を進めています。非効率なやり方を排除し、環境改善を行って働き方改革に対応しています。

たとえば、設計業務の中で必要な測量業務をやっていただくとか、地質調査業務において運搬用のモノレール設置など、必要となった部分の再委託が発生することがあります。事前に再委託申請書をいただき、内容をチェックして許可書を発行し、再委託をやっていただいています。

緊急時でも一定の人材、機材は確保できる

――働き方改革と、災害発生時などの緊急対応はどうなっていますか?

石下さん 土佐国は四国8の字ネットワークなど新しい道路をつくる改築事業とは別に、高規格道路と一般道路合わせて、約340kmの道路管理をしています。当然、毎日時間を問わず、なんらかの応急対応が発生します。

加えて、大雨など異常気象時における事前通行規制区間も抱えています。各出張所においては、道路の維持工事を発注してこれらの対応に当たっているわけですが、その維持工事も担当道路ごとに数組の班体制を組むなどして、週休2日制を実現しています。このような通常予想されるレベルの応急対応であれば、働き方改革を達成しながら対応できています。

大規模災害の場合は、災害発生時の備えとして、道路啓開計画関連で自治体、地元の建設業協会と災害協定を結んでいますので、これに基づき、緊急時でも、一定の人材、機材は官民挙げて確保できると考えています。

余談ですが、私は2024年1月の能登半島地震発災直後、TECH FORCEの一員として、被災地である珠洲市に入りました。被災地では自治体支援に当たり、被災者と直接やりとりを経験しました。

一個人の感想としては、大規模災害発生時の対応において働き方改革を実現するのは、官民ともになかなか無理があると思っています。一方で、東日本大震災を経て、日本においては、先述の啓開計画やBCPが官民問わず策定され、訓練も継続的に実施されています。

これも個人的な意見ですが、大規模災害など緊急時になにが大切かと言うと、個人としての心構え、そして復旧、復興に当たる方々のスキルとスピリッツ、そしてプライドだと思っています。われわれが取り組んでいるTECH FORCEなど自治体支援活動も職員が経験することによって、そのような人材の育成に役立っているのではないか、と思うのです。

働き方改革への対応は始まったばかり

――建設業における働き方改革への対応はこれからが本番という感じがしていますが、どうお考えですか?

石下さん 私も始まったばかりだと感じています。これからも建設業界と密にコミュニケーションをとりながら、良いカタチで働き方改革が進んでゆくよう、現場対応していきたいと思っています。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。
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