シックハウス症候群の対策にも使える伝統的接着剤「膠(にかわ)」
もはや国民病とも言われるアレルギー。厚生労働省の調査では、約800万人が何らかのアレルギー疾患に悩まされているといいます。住宅に使われる建材や接着剤に含まれる化学物質にアレルギー反応を示すシックハウス症候群もそのひとつ。しかし、膠(にかわ)を使って、天然素材だけで作られた接着剤があるのです。
文化財の修復や材料研究を行う天野山文化遺産研究所
大阪府河内長野市にある天野山金剛寺の境内に、「一般社団法人天野山文化遺産研究所」があります。この研究所では、彩色が施された国宝や重要文化財の修復と膠や絵の具など材料の研究を行っているのですが、代表理事の山内章さんは京都御所の杉戸絵や北斎の「鳳凰図」などの保存修復も手がける研究者です。NHKドキュメンタリーの「ロスト北斎」や歴史秘話ヒストリアなどの北斎関連番組に出演し、2011年には文化庁長官表彰も受けています。
そんな山内さんが、守っていかなければならない日本の伝統技術のひとつとして手がけたのが、天然素材だけで作られた膠の製造。膠の製造技術は、昔から長きに渡って秘匿されてきて、何を使ってどのような工程を経て作られたのか明らかにされていません。それでは大切な文化のひとつである膠がこの世から消えてしまう。そう考えた山内さんたちが研究を重ね、牛や鹿などさまざまな動物の皮や魚の水袋などを用いて、天然素材だけで作る膠の製造に成功したのです。
天然素材100%の膠接着剤を開発
シックハウス症候群の原因は、建材や接着剤に使われている化学物質です。目のかゆみ、鼻水や咳が止まらない、発疹が出るなどつらい症状が続きます。一時的にいる場所ではなく、住宅が原因で起こるアレルギーなので、引っ越さない限り治ることがありません。しかし、せっかく新築した家をそう簡単に手放すこともできないのです。
現代社会において化学物質を使わない家をつくるのは至難の技であり、特に壁紙などの接着剤の成分は揮発性のため、呼吸するたびに吸い込んでしまいます。天然素材だけで作られた接着剤をなんとか作れないか。そこで考え出されたのが膠を原料にした接着剤でした。
本来、膠は、油絵を描く時に使用するキャンバスの保護のための塗料や文化財修復用の接着剤、バイオリン製造時にパーツつなぎ合わせる接着剤などといった目的で使われています。天野山文化遺産研究所で作られている膠は、牛の皮や鹿の皮を水からぐつぐつ煮出して抽出しているのですが、品質がいいので国内はもとより海外からも引き合いがある製品です。膠はカビやすく、保存性も悪いという短所もあるのですが、天然素材だけで作られた膠接着剤は、その点もカバーしています。
膠接着剤の製造工程
現在、工業用に作られている膠は、サンドペーパーの粒子を紙に接着したり、マッチの発火する部分を固めたりするのに使われているのですが、製造過程で硫酸などの化学薬品が使われているので、シックハウス症候群の方向けの住宅には使えません。
しかし、天野山文化遺産研究所が開発した世界で唯一の膠接着剤は、一切化学薬品を使わずに作られているので、化学物質に敏感な方の住宅に適しているのです。天然膠は純度が高いため、工業用に比べて透明度が高いことが写真からも分かります。
膠接着剤は、膠に桐の実から搾り取った乾性油を混ぜ、さらに蒸留した竹酢液を混ぜて作ります。竹酢液は竹を蒸し焼きにする時に煙を集めて冷やし、タール分を抜くために蒸留した液体です。竹酢液は防腐効果や抗菌効果に優れているため、膠接着剤は腐りにくく、カビも生えにくいという利点があります。壁紙の接着剤としてだけでなく木製の家具の製造にも適しているので、幅広い用途に使えるのも魅力です。
天然素材だけを使って作られる膠接着剤。シックハウス症候群の方にとってはまさに朗報なのですが、まだあまり世に知られていないため大量生産することができないのが難点です。山内さんは、引き合いがあれば量産やコストダウンにもつながると夢を膨らませています。
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