株式会社タダノは2024年12月11日~13日に東京ビックサイトで開催された「JAPAN BUILD-建築の先端技術展-第4回 建設DX展 東京」に出展。初日には、タダノソリューション推進部部長兼 ICT部部長の庄司高士氏が「タダノのBIMへの取り組み」と題したセミナーを開催した。
最近のタダノの取組みに注目すべきは自社のBIMデータを積極的にオープンにしている点にある。コベルコ建機株式会社の3D-CAD(Autodesk社製Revit)のクレーン施工計画策定支援アドインソフト「K-D2 PLANNER®」にタダノのデータを標準装備しており、ライセンス契約を結ぶ取組みを展開した。自社内で完結する囲い込みではなくオープンイノベーションへと発想を転換した形だ。
従来のタダノのデータはなるべく自社の顧客向けに活用していたが、今後は、BIMデータをオープン化し、それにより「共創」の概念により、新規事業を創出する戦略に大胆にチェンジした。
そのかじ取りを担うのがセミナーで講師をつとめた庄司氏。異業種からタダノへと転身し、大胆な戦略変更にはどのような思いがあるのかと注目が集まった。今回、セミナーに参加し、タダノのICTやソリューション推進の戦略をまとめた。
ICT戦略全般を担う庄司部長はゲーム会社出身
熱気にあふれたタダノのセミナー
庄司氏は、建築や機械からほど遠い分野の出身だ。1993年3月に東京理科大学 理学部数学科を卒業後、ゲーム会社で研究・開発・品質管理などの責任者を担当した。縁があり2020年12月に株式会社タダノに入社し、ソリューション推進部に所属。2021年4月よりソリューション推進部部長としてテレマティクス(HELLO-NET)/BIM/ITソリューションサービスなどの研究・開発に従事。2023年1月 にはICT部部長も兼任し、グローバルでの情報システムの責任者を担当している。現在、タダノ製品オーナー向けのテレマティクスサービス「HELLO-NET Owner’s」の研究開発やタダノ全体のICTの研究を担当している。
タダノは2021年3月に、同社グループ製建設用クレーンラインナップの一部のBIMデータを、BIMobject®(※)プラットフォーム上に公開。これにより、BIMを利活用する設計事務所、ゼネコンなどで、同社グループ製建設用クレーンを用いた施工計画を、より容易に行えることになった。
※BIMobject®…スウェーデンのBIMobject AB が、世界規模で運用するBIMオブジェクトライブラリのプラットフォーム。世界の建設資材メーカー、設備メーカーなどが参加し、BIMデータなどの様々なデータを掲載している。BIM利用者らは、ユーザー登録を行えば無料でこれらの素材をダウンロードできる。
参考:BIMobject 日本語サイト: https://www.bimobject.com/ja/product?brand=tadano
参考:BIMobject グローバルサイト: https://www.bimobject.com/en/product?brand=tadano
公開しているタダノのクレーンのBIMデータ
43モデルのBIMデータを公開、さらに進める
日本国内では、設計、施工、保守を通した建設・建築ライフサイクルを一元管理するため、国土交通省の主導の元、BIMの利活用が進んでいる。国土交通省の直轄工事では2023年度から、原則BIMを適用し、この動きは地方自治体の工事へと拡大しつつある。諸外国でも同様の動きが進んでおり、建設・建築ライフサイクルの効率化、安全性の向上、品質向上という成果が挙がってる。
そこで建設現場で欠かすことのできないクレーンの建設機械のモデルを、BIMの要素として利用するニーズが高まっている。タダノではこの市場の声に応え、同社グループ製建設⽤クレーンラインナップの⼀部のBIMデータの提供を開始した。これにより、BIM利用者が、複雑で手間のかかる建設用クレーンのデータを作成する負担を軽減し、建設業界のDX推進に貢献していく。2024年11月現在では、43モデルのデータを公開中だ。
タダノでは当初BIMデータを、施工段階でのゼネコン利用が主な目的になると考えてきたが、現在は多様な業種が利用している。なるべく多くのモデルデータを標準的なフォーマットでの提供を心がけているが、学術機関など非商業分野にも利用されている。タダノとしては商業的利用を促し、公開したデータから新事業創出を目指す。
昨年8月に開催した「建設DX展大阪」では、年間直近1年間でBIMデータは2万ダウンロードされた旨を公表したところ、大きな反響があり、問い合わせも増えた。公開以降の5万5,000データダウンロードに対して、この直近の1年間のダウンロード数は大きく伸び、急激に利用されている。8月から12月の4ヶ月の間にも、5,000ダウンロード数との数字だった。
このダウンロードを国別に見ると、日本国内が15%、海外は85%の比率だ。このダウンロードの比率はタダノ製品の販売実績と類似しており、実際の販売実績の比率は国内30%、海外70%だが、海外のIT化の進展などを考慮すると海外の方が販売実績よりもBIMデータの利活用が進展している結果をうかがわせた。
利用している人の属性は当然のことながら建設従事者が多く約75%。具体的には設計会社、ゼネコン、建設機械メーカーなど建設業者が多かったが、想定外の利用では学生が多く、20%を占めた。
データ提供でライセンス事業を創出
建設系企業のBIMの活用事例については、移動式クレーンメーカーの立場を最大限利用し、タダノ製クレーンの性能演算機能やテレマティクスで収集したデータを、インターネット経由で提供するAPI「Lift API」というサービスを提供。クレーン施工計画ソフトウェアやBIM、現在使用している機械資産管理ソフトウェアらと連携することで、効果的な作業計画、実績管理が可能だ。現在、テレマティクスAPI、性能演算API(定格荷重計算、ジャッキ反力計算)のトライアル運用を実施中だ。
「Lift API」の概念図
また、同社の高架道路・橋梁点検車(ブリッジチェッカー)も紹介した。道路上から橋梁の下部などの点検で活躍する高所作業車で、広い作業範囲をカバーし、点検箇所へのスムーズなアプローチが可能だ。新設高速道路などに増えている桁厚の橋梁差込作業も余裕で実施でき、ローラジャッキにより連続作業もできる。「一般的に作業している状態を見ることは難しいため、BIMデータを活用し、実際の商談などに活用している」(庄司氏)
高架道路・橋梁点検車(ブリッジチェッカー)
新事業創出では、ライセンス事業を展開する。建設車両メーカーのコベルコ建機株式会社が提供中のクレーン施工計画を時間軸も含む4Dでシミュレーションできる「Revit」アドイン型のシミュレーションソフト「K-D2 PLANNER®」で、タダノのクレーンを標準搭載している。タダノが先にライセンスした後、株式会社加藤製作所と住友重機械建機クレーン株式会社のクレーンも追加で標準搭載した。
「K-D2 PLANNER®」は、現場の手戻り防止と生産性向上のためのメーカー純正モデルを利用した高精度なシミュレーションソフト。最適クラスのクレーン選定機能による重機コストの削減のほかにも、直感的なクリック操作のみによる施工計画の断面図や平面図の作成や3D上での吊り資材のクリック操作だけでの接地圧や負荷率などの自動計算など、設計工数の削減や計画精度の向上が期待できる。
また、資材や重機情報などのエビデンスを残しながら、建て方の3Dステップ図も作成できるため、顧客や現場との円滑なコミュニケーションやイメージの共有を可能にする。「建設の施工計画を立案する際、タダノなどのクレーンがどのように動き、旋回し、使用する点についてRevit上で確認できるようなツールだ」(庄司氏)
他の共同事業では、乗用車向けの3Dの技術を駆使し、仮想的なクレーンの実車体験に寄与するプロジェクトを開始した。クレーンの実車体験はなかなか得られないがこれを仮想化するプロジェクトであり、来年いずれかの展示会で参考出展を計画中だ。
また、最大吊上げ荷重100USトン吊りのバッテリー式フル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-1000XLL-1」を2024年11 月から北米向けに発売したことについても触れた。
北米で主力製品であるGR-1000XLL-4 (同社100 USトンの主力ラフテレーンクレーン)と同じ吊り上げ能力を備え、より静かで排出ガスゼロの製品。 eGR-1000XLL-1 は車体に搭載したバッテリーを使用し、最大 7 時間のクレーン作業、または最大 5 時間の吊り上げと 5.5 マイル(8.7km)の現場移動が可能だ。「Tadano Green Solution」 の一環で CO2 排出量を削減し、オペレータをサポートする魅力的な機能を搭載した。ちなみに日本市場向けには25t吊りフル電動ラフテレーンクレーン「EVOLT eGR-250N」を発売済みだ。
「日本でもEVの『EVOLT』は注目されている。それはCO2排出への効果とEVなため静かに稼働できる点にある。建設現場では大きな音が出て騒音も発生するが、EVのクレーンは静かで実車をご覧になられた方は非常に驚かれる」(庄司氏)
北米向けに発売した、最大吊上げ荷重100USトン 吊りのバッテリー式フル電動ラフテレーンクレーン
さらにタダノは2024年2月に長野工業株式会社の全株式を取得し、完全子会社化。同年5月に社名を「株式会社タダノユーティリティ」と変更した。同社は、高所作業車の製造会社であり、「自走式のクローラ高所作業車」では日本国内のトップメーカー。タダノグループでは「トラック架装式の高所作業車」を製造し、国内で3割超のシェアを獲得しているが、高所作業車は顧客に提供できない製品カテゴリに属し、世界的に見ても「自走式高所作業車」は需要が高いマーケットであり、同社とタダノグループの開発・ 製造技術の融合で、高所作業車事業をさらに成長させることが狙いで完全子会社化した。「タダノユーティリティのBIMモデルも公開している」(庄司氏)
展示会では、トラック式高所作業車(タダノ製)と、自走式高所作業車(タダノユーティリティ製)のBIMモデルを展示。実機展示している高所作業車と比較しながら、作業計画でのBIM活用方法をイメージでき、あわせてオールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーンのBIMモデルのラインナップも紹介した。
展示会でのタダノのブース
オールテレーン・ラフテレーンクレーンのBIMを公開へ
タダノの橋梁点検車やEVクレーン車は特殊で見学する機会も少ないが、BIMモデルを通して体験されることを大切にしているという。今後、タダノでは、オールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーンに関しては、原則すべてのBIMモデルを作成する。現状、公開されていないBIMモデルについても今後は、逐次リリースする予定だ。
「これについては、モデルを早めにリリースしてほしいとのリクエストがあれば作業の優位性が上がるため、ぜひリクエストしてほしい。ただし、クローラークレーンに関してはBIMモデルまで着手していないため、なるべく早く着手したい。次に高所作業車だが、BIMモデルの引き合いが高く、とくにタダノユーティリティ製の公開の要望が強いため、売れ筋の製品から順次公開し、展示ブースでも紹介している」(庄司氏)
建設機械メーカーが提示するBIMモデルの役割としては、建設現場で構成するオブジェクトの一つと捉える。メーカーとしては、囲い込むよりも顧客の再利用性を熟知してなるべく標準的なフォーマットで継続的な公開へ取り組む。繰り返しになるが、タダノが公開するデータを商業的に活用する動きを促進する。従来であれば、タダノの製品のデータのため、同社の顧客を囲い込むことに利用するのが原則であった。現在は、いろんな局面でタダノの製品に触れてもらう機会を増やす方針へとチェンジした。
また各社とともに事業の「共創」に意欲を示した。それは今回、庄司氏が語ったようにコベルコ建機の「K-D2 PLANNER®」ではタダノのデータを早期に標準搭載したが、さまざまな新事業創出していければ望ましいと語り、今後はこのような取組みを一つでも二つでも増やしていきたいとの展望を示した。また、タダノがICT分野に注力するメッセージとして、2025年1月に、アメリカ・ラスベガスで開催する、世界最大級のテクノロジー見本市「CES 2025」に初出展した。
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