高取 千佳さん 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 准教授

高取 千佳さん 東京大学大学院工学系研究科 都市工学専攻 准教授

東大准教授に着任した高取千佳さんが描くランドスケープデザインの新たな地平

東京大学工学部都市工学科環境デザイン研究室の准教授に2025年4月に着任した高取千佳さんに取材する機会を得た。高取さんは、環境デザイン研究室出身で、ランドスケープアーキテクト界の大御所、石川幹子さん、横張真さんの弟子。緑地計画、ランドスケープデザインを専門に、名古屋大学、九州大学での10年以上の研究活動を経て、久しぶりに古巣に戻ったカタチとなる。

気候変動や人口減少が都市に投げかける課題に、ランドスケープデザインはどう関わるのか。まちづくりに関するありとあらゆる研究がビジネス化、細分化される中、ランドスケープデザインの果たす役割とはなにか。ランドスケープデザインの観点から見た、都市と自然が融合した持続可能な社会とはどのような姿なのか。ランドスケープデザイン研究の魅力を含め、高取さんにお話を伺った。

緑地から得られる恩恵を評価し、計画やデザインに実践的に展開するという使命

――高取さんが所属する環境デザイン研究室は、どのような経緯で設立されたのでしょうか?

高取さん 環境デザイン研究室は、都市緑地計画やランドスケープデザインを専門とする研究室です。東京大学の都市工学科には、元は緑地やランドスケープに特化した研究室がなかったんです。都市の土地利用計画や交通計画、防災計画等を扱うコースが中心で、緑地計画は農学部などの他学科において、研究の対象とされていました。

私が学部4年生だった2008年ごろ、石川幹子先生がこの研究室を新たに立ち上げられました。それが大きな転機でした。その後、横張真先生へと引き継がれました。

近年、都市におけるランドスケープの役割がますます重要になっています。たとえば、グリーンインフラと呼ばれる、豪雨対策や生物多様性保全、さらには人々のウェルビーイング向上に寄与する社会的共通資本、すなわち社会の基盤としての役割の自然が注目されています。この研究室では、そうした緑地から得られる恩恵を評価し、計画やデザインに実践的に展開していくことを目指しています。都市と自然が調和した持続可能な社会を作っていくのが、私たちの使命だと考えています。

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みどりに熱環境や風環境の改善効果があるかを研究

――高取先生ご自身も、この研究室で学生時代を過ごされたそうですね。どんな学びや経験がありましたか?

高取さん 学部4年生から博士課程まで、この研究室で学ばせていただきました。研究としては、気候変動適応策として、江戸から東京に変貌する中で、土地に眠る地形、水系、緑地の分布を読み解き、歴史的に継承されてきたみどりが現代社会において、熱環境や風環境の改善に効果があるかを研究していました。

海洋研究開発機構との共同研究の中でスーパーコンピューターを活用し、海風の立体的な導入効果を調べた結果、皇居などの大規模な緑地には下降流が生じ、一部現代の方が地表面付近の気温が下がっている場所もあること、失われた水路網付近においては、2℃程度気温が上昇していること、台地の突端の大名屋敷だった場所には海からの水平方向の風が流れ込んでいたことなども分かってきました。具体的には、地球温暖化とヒートアイランド現象という都市の多重温暖化減少が課題になる昨今において、そうした都市構造から読み解くみどりが都市のヒートアイランド現象をどれだけ抑えられるか、データをもとに分析していたんです。

もう一つ印象的だったのは、東日本大震災後の復興支援です。指導教員だった石川先生のご出身地である岩沼市で、復興計画策定に向けたワークショップのお手伝いなどをさせていただきました。研究室のメンバーと一緒に、岩沼に何度も通って現地調査を行ったり、仮設住宅に暮らす住民の方々と対話しながら、復興住宅のプランを考えたりしました。

とくに記憶に残っているのは、大晦日にも泊まり込みで模型をつくっていたときのことです。みんなで必死に作業して、新幹線の時間に間に合わなくなりそうになったときに、ここでは言えないような場面もありました(笑)。本当に濃密な経験で、研究だけでなく、地域の人々と向き合うことの大切さを学びました。

異なる専門分野の視点を持ち寄って、総合的に解決に向けたアプローチ

――博士課程修了後は、名古屋大学や九州大学で研究を続けられたようですね。それぞれの大学でどんなことを学ばれましたか?

高取さん 博士号を取った後、まず名古屋大学で5年半、助教として在籍させていただきました。所属していた環境学研究科は、建築や土木などの工学のみでなく、水の専門家や社会学の先生など、さまざまな分野の人が集まる場所でした。地域の課題を統合的に解決する人材を育てることを目指していて、文系と理系の先生方が相互に共通の地域に対して議論する土壌がありました。また土木と建築と異なる専門性を持つ教員同士の先生方も仲がとても良かったです。

たとえば、三重県の松阪市、櫛田川流域のプロジェクトでは、河川や森林のご専門の先生方や、生態学の先生、社会学の先生方など、異分野の先生方と一緒に、地域住民や行政と対話しながら課題を読み解いていきました。地域の課題には、どういう背景があって、どんな問題が潜んでいるのか。異なる専門分野の視点を持ち寄って、総合的に解決に向けてアプローチするんです。その過程で、分野を越えた連携の力を学びました。

具体的には、櫛田川流域の農地や森林の管理の在り方による水害リスクや生態系への影響を分析し、住民や行政の方々とワークショップを開いたり、合意形成に向けた提案をまとめたりしました。このように、名古屋でのこうした経験は、ランドスケープデザインの実践において、複数のステークホルダーと協働する重要性を教えてくれました。

その後、九州大学で准教授として5年半過ごしました。芸術工学部という、芸術と工学の融合に向け、デザインで社会を変革することを目指していました。デザイナーやアーティストの先生方と関わる中で、社会課題を解決する新しい発想を学びました。

とくに印象的だったのは、課題解決の延長線上から将来のあるべき姿を考えるだけでなく、アート思考にもみられるように、「今はないもの」を生み出す発想をし、そこから逆算していく思考です。

また、多様性のある社会について、インクルーシブ(社会包摂)についても多く専門とされていらっしゃる先生がおられたため、その実践についても多く学ばせていただきました。たとえば、健常者の目線からは零れ落ちる目に見えない苦しみを抱える人々から見ると、都市は全く違ったあり方として見えてきます。超高齢化社会に突入した現在、そうした人たちの意見を反映していくことは、リードユーザーとしても重要です。

そうした視点を、いかにデザインに落とし込むかというアプローチが、大変新鮮でした。インクルーシブな都市や社会を目指すプロジェクトを、そうした先生方とご一緒に立ち上げたり、それまでの枠にとらわれない研究を進めることが可能となりました。

名古屋では地域課題にフォーカスする分野横断的な協働を、九州ではデザインによる社会変革の可能性を学びました。この2つの経験も、私の研究の上での大きな基盤になっています。

グリーンインフラ計画&マネジメント、そしてインクルーシブな都市空間

――現在、どんな研究に取り組んでいらっしゃるんですか?

高取さん 今は大きく3つのテーマに取り組んでいます。1つ目は、気候変動適応に向けたグリーンインフラ計画に関する研究です。都市を流れる熱や風、水の循環を読み解き、その健全な循環に寄与する緑地をどのように保全・創出すべきかを評価し都市政策に展開する研究です。たとえば、那珂川流域や櫛田川流域、鶴見川流域を対象とし、国や自治体の方々などとも議論を行いながら、実施しています。鶴見川は、全国で流域治水のモデルになった河川です。

地表面や、地下水の水循環のシミュレーションを、企業様との研究や研究室で学生が自ら行い、緑地の保全が豪雨時の流出抑制や、平常時の水資源、湧水の分布にどう影響するかを分析しています。特別緑地保全地区や三大都市圏における近郊緑地保全区域、自治体が独自の条例で守ってきたみどりが、実は今日の都市化が進んだ市街地においても、健全な水循環に大きな役割を果たしていることが分かってきました。こうした知見を、自治体の計画や民間企業の取り組みにも活かせるよう、評価軸を明確にしていく研究を行っています。

こうした研究は、今後さらに良質な緑の認証制度にも展開していくことができると考えています。たとえば、その緑地が失われた場合、あるいは創出・保全・適切に維持管理した場合、湧水がどの程度変化するか、豪雨時の災害リスクがどう変わるか。そうした水資源が、生態系の回復にどのように寄与するか。

緑地と水は、これまで切り分けられて制度や計画がつくられてきましたが、そうしたデータを統合していくことで、今後の適切な評価、また世界各国で行われている自然資本クレジットの導入や、近年注目されている、環境省のOECMsや国土交通省のまちづくりGXの認証制度などとも連携し、民間にも入っていただきながら、より適切な緑地の評価につなげることができると考えています。流域という広域的な単位でみどりを評価することで、自治体の境界で分けるのではなく、より科学的な知見をベースとした緑地の計画論へと展開できると思います。

2つ目は、人口減少下でのグリーンインフラのマネジメントに関する研究です。人口減少、少子高齢化により、農村部では担い手の減少により農地や森林の管理が難しくなっていますが、一方、都市部の緑地も税制面での限界により身近な公園の維持管理が進まず、荒れがちです。今後も地方都市においては特に、圧倒的に人手が減る中で、自然と都市との境界が曖昧となり、荒ぶる自然が都市に侵食していきます。その中で、どの場所の、どのような緑地を優先的にどのように管理するか、その目標を作るために、一定の面積の緑地当たりで、その質を保つためにどれくらいの労力が必要かを計算しています。

たとえば、松阪市の上流部の飯高地区で展開した研究では、より管理を集中させる農地や、粗放的・自然に還す農地、またスマート農業や太陽光発電システムの導入転換していく農地など、どのように地域でメリハリのある管理計画を作っていくのかの研究を行っています。

リモートセンシングデータを使って、1年以内に耕作放棄された農地や作物の管理状況を把握し、また太陽光パネルへ転用された農地も抽出をAIで行っていきます。リモートセンシング分野では、Sentinelデータという、10mメッシュ・12日周期の高解像度で、ヨーロッパ宇宙連合のほうでオープンデータが進んでおり、農林水産省が近年オープン化した筆ポリゴンデータと重ね合わせることで、これまで目に見えてこなかったような緑地の管理状況把握が、今日可能となっています。そうした農地の分布が、どのような環境に評価をするか、市民参加型での獣害被害マップや水害リスク評価などを関連する専門家・企業の方々と行っていきました。

以上を住民参加型ワークショップの中で、複数の将来シナリオを提案し、スマート技術で管理を効率化したり、もしくは地域資源をレクリエーションの場として交流人口を増やしていくなど、多様な想定を行い、多主体協働での未来図をつくったりしています。

また、農村部のみでなく、郊外においても、農業従事者が減ってくる中で、都市住民のレクリエーション活動としての都市農業も注目を集めています。福岡都市圏や名古屋都市圏の郊外部を対象とし、都市住民が、農業に今後どう関わりたいかを、動機に基づいてタイプ別に分析し交流を求める人、資源循環やコミュニティ形成機能を重視する農地、防災面から高いニーズを持つ農地、スマート農業にチャレンジできる農地など、それぞれのニーズに応じた農地のあり方や配置を考える研究も行っていました。

3つ目は、スマート技術を活用した都心部の公共空間のリデザインに関する研究です。特に、インクルーシブな都市空間の創出にも力を入れています。

たとえば、福岡市都心部の天神地区や博多地区で現在大規模に進む再開発と、その間を流れる那珂川沿いの公園の再整備を対象に、その変化に伴う人の流れや滞留行動の変化を分析し、街路や公園、公開空地などの公共空間を、今後どのように配置・デザインしていくべきかを考える研究を行っています。

各地に設置したAIカメラやセンサーを使って、どんな人がどんな移動手段で動いているかを把握したり、車椅子やベビーカー利用者のバリア情報を集めたり。福岡の都心部に、15か所ほど個人情報は即時に削除されるAIカメラを設置して、24時間、365日データを取り、一部は福岡市のデータ連携基盤においてオープンデータ化が行われています。

とくに、近年は、インクルーシブなまちづくりを目指して、車椅子に設置したセンサーで、路面のバリア情報を自動収集し、デジタルツインにアップし、最適なルートを提示するアプリや、障がい者や高齢者、ベビーカーユーザーに優しい店舗を、参加型で情報を蓄積し、ユーザーにレコメンドするアプリを開発しています。

そうした知見を蓄積していく上で、まちの管理者や事業者が、どこを優先的に改善していくかが分かる、指針をつくっていきたいと思っています。このように、健常者だけでなく、高齢者や障がい者、ベビーカー利用者も含めたまちづくりです。少子高齢化する日本において、新しく生みだされる公共空間で、オフィスワーカーなどの固定された層のみでなく、多様な属性を持つ人々が、常に新たな刺激をもらえる場として、自由に巡れる基盤を作っていくことは、都市全体の活力を高める一歩になると信じています。

――インクルーシブなまちづくりに力を入れるきっかけはなんでしたか?

高取さん 実は、個人的な経験が大きいんです。福岡に1歳と3歳の子どもを連れて単身赴任したとき、夫は名古屋にいたので、子育てが本当に大変でした。雨の日にベビーカーで子ども2人が泣き叫ぶ中、移動もままならないことがありました。ベビーカーは1人しか乗れないし、2人ともギャーギャー泣いて、もうどうしようもないんですよ(笑)。

でも、福岡の方々の温かさに救われたんです。保育園の先生が「じゃあ一緒におんぶして家まで送るよ」と声をかけてくれたり、知り合いの方がおいしいご飯を家まで持ってきてくださったり。そうした心遣いは、目に見えない多くのバリアに阻まれて、自分一人だけの世界に閉じこもりがちだった心の支えになりました。目に見えない他者の経験にも心を寄せる、そうしたまちが、今後住みたい、選ばれるまちになっていくのではないかなと感じ、その経験から、日常的な社会生活で多くのバリアにぶつかることの多い、障害者や高齢者、子育て中の人たちが暮らしやすいまちをつくりたいと思うようになったんです。

ランドスケープデザインは、物理的な空間だけでなく、人の心をつなぐ場をつくれる。それを実感したことが、インクルーシブな研究を始める原動力になりました。

デジタルと自然の融合は、これからの可能性を広げる一歩

――デジタル技術とみどりの研究をどう融合させていますか?

高取さん 研究では、シミュレーションや人流分析、リモートセンシングなど、デジタル技術をフル活用しています。たとえば、公園に来る人の行動をデータで分析したり、緑地の管理状況をAIで評価したり。熱や水の流れも、シミュレーションで詳細に把握できるようになりました。

でも、データだけでは不十分なんです。データ量が膨大になるほど、政策やデザインに落とし込むのが難しくなります。エビデンス・ベースというと、日本では、100%完璧なエビデンスを求めがちですが、環境学では6割程度の精度でも政策に反映できれば十分だという話もあります。たとえば、イギリスなど海外では、100%でなかったとしても、多様な分野が総力戦でより良い方向の未来に向かっていこうと、どんどん進める文化がありますよね。

それに、緑地の愛着や地域の人の関係性、自然に隠された多くの機能といった数値化できない部分も大切です。データと感覚の両方をバランスよく取り入れながら、計画・デザインに展開していく。難易度が高いですが、ランドスケープ分野のおもしろいところなのではないかと思います。

最近博士の学生と行った研究としては、VRゴーグルで都市の小規模な緑地を再現する研究がありました。花や水面がある緑地を360度で再現し、ストレスを与えた後に見せると、どのくらいリラックス効果があるかを、脳波や心拍数などで測定したんです。120人ほどに試してもらった結果、水面や、花のあるランドスケープが特にストレス緩和に効果的だと分かりました。

ただ、査読者からは「これが進むと、VRでみどりを楽しむ未来になるのでは?」と、ちょっとしたナイトメア扱いでした(笑)。ランドスケープ業界では、外の自然を大切にしたいという思いが強いので、デジタルがそれを置き換えるなんて考えたくないんですよね。でも、デジタルと自然の融合は、これからの可能性を広げる一歩だと思っています。

ランドスケープデザインは、まるで漢方医学のようなアプローチ(笑)

――高取さんにとって、ランドスケープデザインの魅力はどこにあると思いますか?

高取さん ランドスケープの魅力は、地域に蓄積された自然や歴史、文化を読み解きながら、未来を構想するところにあると思います。どんな人がそこで暮らし、どんな文化が育まれてきたのか。風土として培われてきたものはなにか。その流れを丁寧に見つめ直すんです。

今は、人口減少や災害、気候変動といった激動の時代ですよね。ゆっくり進行するリスクもあれば、突然起こるリスクもあります。ランドスケープは、そうした課題に対して、柔軟な余白として、バッファーのような役割を果たしながら、生命を守り、文化を作っていくことが可能になる都市の資産だと思います。風の流れ、水の流れ、人の流れ、生物の流れを読み解きながら、最適な一手を時間軸の中で打っていく。まるで漢方医学のようなアプローチだと思います(笑)。

たとえば、1938年にドイツ地理学者C.Trollが創始した景観生態学は、ドイツ地理学の伝統的研究対象である“景観「Landschaft」” と“生態学「Okologie」”という語を合成したものですが、「生物共同体と環境条件との間において、総合的で、しかも一定の空間単位内で支配している複合的な作用構造の研究」とされます。

視覚的な美しさだけでなく、そこで育まれてきた人と自然の融合的な環境・場を読み解くことを主眼とし、その後地域の総合的環境像としてのランドスケープの特質を評価し、望ましいランドスケープの形成を目指す保全と環境創造の学問分野へと発展していきます。このように、自然環境を人工空間と切り分けるのではなく、人間も生物共同体の一つとして、一体的に相互関係を捉えていく発想は、日本の文化の中で育まれてきた自然観との親和性があるかもしれません。

私が特におもしろいと思うのは、ランドスケープが媒介として間を取り持つ学問分野であることです。自然と人、過去と未来、人と人の関係を取り持ちながら、都市全体の持続可能性を支える基盤を生み出していく可能性を有している点です。今日、都市が直面する待ったなしの課題、気候変動による激甚化する自然災害、生物多様性の危機、拡大する社会格差、資本主義の限界に対しても、どのように人々が生きる空間を作っていくか、基盤から考え、取り組むことができることが、ランドスケープの魅力であり、力であると思っています。

住民の緑地への愛着や、場への記憶といった数値化しにくい要素も大切

――科学的なアプローチとどうバランスを取っているんですか?

高取さん ランドスケープは、科学的なアプローチが非常に重要です。ただ、工学的なアプローチだけではうまくいかないのではとも思っています。工学では機能を細分化してその中での最適化を目指しますが、現実は、予測を超えた複雑なネットワークで関係がつくられています。

ランドスケープは最終的に全体としてうまくより良い場となっていくように、総合化・統合化していく必要があります。たとえば、目に見えない、住民の緑地への愛着や、場への記憶といった数値化しにくい要素も大切です。科学的データと、そうした社会学的視点の両方を融合させて、デザインに落とし込むことが大切です。

実際、データだけに頼ると、緑地の持つ多面的な価値を見落とすことがあります。ある地域の公園が、数字上は「管理コストが高い」と評価されても、住民にとっては子どもの遊び場であり、コミュニティの絆を育む場かもしれません。そうした声を無視せず、データと感覚の両方でデザインを考えるんです。

近年は、ネットワークやビッグデータによりその見える化も可能となっているかと思います。そうした知見の融合も可能性があると思います。深く掘りながら、全体を繋いでいく、そうしたアプローチもランドスケープの醍醐味なのではないかと思います。

まちに出て、人と話して、地域を読み解き、実際にデザインに落とし込む

――この研究室の魅力はどんなところにあると思いますか?

高取さん ランドスケープは、プライベートとパブリックの間、自然と都市の間、人と人の間を、媒介していく学問分野です。時代時代で常にその関係性は変化し、それを読み解き構想していく力が必要とされると思います。研究室では、研究と実践の両輪を回していくことを、モットーにしています。まちに出て、人と話して、地域を読み解き、実際にデザインに落とし込む。そういうプロセスに興味がある学生に来ていただけると嬉しいですね。

今、ランドスケープが果たす役割はどんどん広がっています。たとえば、福岡で先生方や民間企業の方々と行ったイベントをきっかけに、2025年からスタートした、能登半島のコミュニティガーデンプロジェクトでは、震災後に、人口流出に伴い、壊れてしまった建物の公費解体で空き地が増えてしまう地域で、福岡市の進める「一人一花運動」のノウハウを活かして、まちに希望が灯るような、コミュニティガーデンを、多様な参加者との連携のもと、地域住民の方々ともご一緒につくっていっています。

俳優の常盤貴子さんがアンバサダーとなっていただき、七尾市長も参加いただきながら、一本杉通りの岡田翔太郎さんを実行委員長に、推進されています。3月22日に第一弾のガーデンワークショップを行い、4月30日には第二弾ガーデンがオープンになります。こうした実践を通じて、ランドスケープが地域をつなぐ力を実感しています。

――こちらの研究室の卒業生はどんな分野で活躍していますか?

高取さん 本当に多岐にわたりますね。設計事務所で公園や緑地設計に携わる人、ディベロッパーで駅前開発を担当する人、行政で都市計画に関わる人。最近は、ランドスケープで起業したいという学生も出てきています。

たとえば、研究室の私の先輩のOBの方で、東京でランドスケープの事務所を運営され、全国でさまざまなプロジェクトを手がけられていらっしゃったり、ランドスケープの可能性を広げています。また、農村部においても、ランドスケープに取り組むユニークな活動で、コミュニティと自然をつなぐ新しいモデルを提案されておられる方もおります。

ランドスケープの視点は、都市と自然をつなぐあらゆる仕事に活かせると思います。設計、計画、コンサル、起業――どんな道に進んでも、社会に貢献できる力になると信じています。これからも、いろんな形で活躍する人を育てていきたいですね。

高取さん研究活動資料

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