現場見学会の様子

現場見学会の様子

【日本建築仕上学会女性ネットワークの会】九州で初の建築現場見学会。材料メーカーのスタッフらが貴重な経験

日本建築仕上学会女性ネットワークの会(熊野 康子主査)は9月8日、福岡県久留米市の「久留米駅第二街区第一種市街地再開発事業施設建築物建築工事」で建築現場見学会を開催した。36階建ての住宅棟、3階建ての店舗棟、2階建ての駐輪場棟の3棟が建設中で、株式会社フジタが施工している。

当日は建設業界に携わる材料メーカーを中心に15名が参加。PC部材やALCパネル、石こうボードに初めて触れたという声もあり、参加者らにとって貴重な機会となった。

閉会の挨拶では、参加者から「九州では女性が気軽に参加できる現場見学会が少ないのが現状。今後もこのような機会が増えることを願っている」との声があった。

今後、女性ネットワークの会は10月30日に明治大学グローバルホール(東京都千代田区)で「2025年 講演会」を開催する。今年の講演会はWEBでの同時参加も可能となるよう、準備を進捗中だ。詳細のプログラムは、日本建築仕上学会HPに会告に明記している。

日本建築仕上学会:http://www.finex.jp/Information/new-3.html

今回、女性ネットワークの会の熊野 康子主査に久留米市で開催した建築現場見学会について話を聞いた。

参加者の熱意が実現させた現場見学

久留米駅第二街区第一種市街地再開発事業施設建築物建築工事

――まず、今回の現場見学会の意義についてお聞かせください。

熊野康子主査(以下、熊野主査) 当日は発達した線状降水帯による大雨に見舞われ、午前中には中止も検討したほどです。しかし、支店スタッフから「線状降水帯が抜ければ晴れるはず。もう少し待ちましょう」という力強い声をいただき、実際に昼からは晴天に恵まれました。学会事務局に確認したところ、当日の欠席者連絡はゼロでした。

今回の出席者は15名とやや多かったです。参加者の多くは建設業界に携わる材料メーカーの方々で、PC部材やALCパネル、石こうボードに実際に触れるのは初めてという声もあり、貴重な見学会となったようです。福岡県に限らず、山口県や東京からも参加され、建築現場見学会が初めてという方も多かったです。学びの多い貴重な機会になったと感じています。

はじめての見学会という参加者もおり、多くの質問が飛び交った。

――見学会ではどのような感想がありましたか。

熊野主査 現場説明員の方がPCa(プレキャストコンクリート)について説明を始めた際、中には「PCaってなんですか?」と戸惑う方もいらっしゃいました。そこで私が「PCaを初めてご覧になる方は?」と問いかけたところ、3~4名が手を挙がりました。「工場であらかじめ作られたコンクリート部材を、現場で組み立てる工法です」と補足すると、皆さん深く頷いていました。

見学した建物は、完成すれば36階建ての超高層ビルになります。当日は17階まで立ち上がり、まさにこれから本格的な施工が始まるタイミングでした。参加者は工事用エレベーターで14階まで昇り、1フロアずつ階段で降りながら見学上階では構造を、階を下るごとに設備や内装工事の様子を詳細に見学しました。とくに、断熱材の吹き付けや厚みの管理方法など、普段見ることのできない壁の中の状況に関心が集まっていました。

通常、見学は3フロア程度ですが、今回は6フロアにわたって見学しました。さらに地下の免震階では、建物の安全性を支える免震装置も見学でき、普段目にすることのない装置への関心の高さがうかがえました。

若手技術者の成長と活動を支える建設女子応援ファンド

――現場の説明はどのような方が担当されたのですか。

熊野主査 今回は若手の技術者の方が説明を担当してくださいました。最初は緊張した面持ちでしたが、緊張がほぐれていくと「あそこも見てください」「今度はこちらもどうぞ」と、自ら積極的に現場の技術をアピールする姿が見られました。こうした経験は、若手技術者自身の学びや、仕事へのやりがいにも繋がったのではないかと思います。

建設女子応援ファンドの助成は大きな役割

――この見学会は「建設女子応援ファンド」の助成を受けているそうですね。

熊野主査 このファンドは、建設業界で女性の活躍を推進するグループを支援するものです。現場見学会では見学料をいただくことはできませんから、主催者の持ち出しになることが多いのです。実は、久留米市や前回の広島市での開催は、このファンドがあったからこそ実施できたのです。最近は、ファンドへの応募も多く、事務局も活気づいているようです。

※建設女子応援ファンドとは:公益財団法人公益推進協会の助成プログラム。深刻な人材不足に直面する建設業界で、女性が働き続けやすい環境を整え、「女性に選ばれる建設業界」の実現を目指す。女性が働きやすい環境は、性別を問わず全ての就業者にとって働きやすい環境に繋がり、業界全体の人材不足解消に貢献することが期待されている。また、建設業界での就労を希望・検討している女性や若年層に向けたPR活動も対象となる。

けんちくけんせつ女学校の籠田 淳子代表理事のセミナーの様子

――見学会後は、けんちくけんせつ女学校代表理事の籠田淳子さんによるセミナーも開催されましたね。

熊野主査 籠田代表理事は、十数年にわたり、建設現場における女性活躍を提唱されてきました。籠田代表理事が経営する「有限会社ゼムケンサービス」での具体的な取組み、例えば育児中の女性が働き続けられる環境整備や、外国人材を戦力化するための施策など、非常に示唆に富む内容でした。現場の仕事では育児休暇や産休取得は難しい面もあるほか、お子さんが熱を出した時には帰宅しなければならない面もありますが、籠田代表理事はこうした課題についても率先して対応されてきました。

また、セミナーには、籠田さんと共に働く外国籍の女性スタッフも登壇されました。彼女が非常にハキハキと受け答えされる姿に、私は国籍に関わらない能力の高さを改めて感じました。籠田さん自身も、この日の見学会について「これほど女性が主体となった現場見学会は、他ではなかなか見られません」と高く評価してくださいました。

けんちくけんせつ女学校の代表理事/有限会社ゼムケンサービスの代表取締役の籠田 淳子さん

けんちくけんせつ女学校・・・建設現場で活躍したい女性と、女性を雇用したい企業を繋ぐ、日本初のインターネットと実地研修を組み合わせた学校。eラーニングと企業でのインターンシップを通じて、女性が現場で働くために必要な知識と技術の習得を支援する。

有限会社ゼムケンサービス・・・福岡県北九州市に本社を置く設計・施工会社。女性の視点や感性を活かした店舗デザインや家づくりを得意とし、視覚だけでなく触覚や嗅覚など五感に訴える「五感設計」という独自のコンセプトを掲げる。創業者である籠田淳子社長が、育児と仕事の両立に試行錯誤する中で、時間的制約のある女性にも活躍の機会を提供したいと考えたことをきっかけに、女性活躍に向けた取組みを推進している。

地方でも女性が学べる場を

――参加者からの感想や今後の活動についてお聞かせください。

熊野主査 現場をご案内くださったフジタの松野愛彦所長からは、「初めての方には難しい部分もあったかもしれませんが、建物づくりに興味を持っていただけたら嬉しいです」との言葉がありました。

参加者の方からは、「マンションはこんな構造になっているんですね」と、完成した姿しか知らない建物の構造や配管、設備がどのように施工されているかを目の当たりにして感動した、という声が多く聞かれました。経験者の方からも「ここまで詳しく現場を見たのは初めてで、本当に勉強になった」と感謝の言葉をいただきました。

――これまで全国各地で見学会を開催されてきましたが、総括をお願いします。

熊野主査 東京で開催すれば参加者は集まりやすいですが、私たちはあえて地方での開催に力を入れています。札幌、広島、そして今回の久留米と、集客の難しさはありながらも、毎回10名以上の方が集まり、その学ぶ意欲はとても高いです。私は地方での開催に意義があると考えています。女性が主体となって企画・運営する見学会は地方ではまだ少なく、私たちの活動の価値はそこにあると考えています。

私たちの見学会は、現場を見るだけでなく、広島ではテレビ番組でも著名な建築家の川口とし子さんにご講演いただくなど、第一線で活躍する女性から直接学べるプラスアルファの学びを提供できる点が強みです。今後も応援ファンドなどを活用し、沖縄や北陸など、まだ開催実績のない地域でも積極的に企画していきたいです。中央(東京)での活動も重要ですが、地方でイベントを行うことを通じて、女性が活躍できる土壌を全国に広げていくことが私たちの使命だと考えています。

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「四足歩行ロボット」が建設現場を巡回開始 竹中工務店とフジタ
建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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