不動産開発・リノベーションや空き家事業を展開する株式会社ジェクトワン(本社・東京都渋谷区、大河幹男代表取締役)は2026年2月17日より、空き家市場の活性化を目指し、AIを活用した新プラットフォーム「空き家のコタエ」を公開した。第1弾サービスとして、空き家の価値を多角的に可視化する「自動査定サービス」の提供を開始。利用料は無料だ。
本サービスは、「空き家をどうにかしたいが、価値が分からない」という所有者特有の悩みをAI技術で解消するものだ。最大の特徴は、現場視点の「独自評価アルゴリズム」と「生成AI」を掛け合わせたハイブリッド構造にある。
入力項目は所在地や築年数、構造、延床面積などの基本情報に厳選し、所有者が迷わず操作できる手軽さを追求した。Web上でこれらを入力するだけで、AIが売却時の想定価格だけでなく、賃貸やリノベーションによる収益シミュレーション、解体費用の概算までを多角的に提示する。これにより、所有者は複数の選択肢を比較検討し、納得感を持って判断することが可能となる。
システム面では、現場の知見に基づく「流通性評価」や「改修コスト算定」に加え、専門的な査定ロジックを深く理解した生成AIが、物件ごとの条件に合わせて適切な補正を行う。従来の画一的なデータ処理とは一線を画し、個々の特性に即した精度の高い算出を実現した。不透明だった空き家の価値に対し、プロの知見が詰まった「現場基準のコタエ」を提示することで、所有者の前向きな判断と市場への流通を後押しする。
また、査定結果を踏まえて具体的な相談に進みたい場合は、同社の空き家活用サービス「アキサポ」へそのまま問い合わせが可能だ。査定から専門家への相談までをワンストップで行える点も、本サービスの大きな利点といえる。
ジェクトワンはこれに先立ち、2026年1月に都内の本社で記者会見を開催。大河幹男社長および井上雅友取締役(経営企画部・マーケティング部テクノロジー戦略部担当)が登壇し、サービスの詳細を説明した。今回は会見の内容をもとに「空き家のコタエ」について解説する。
10年目を迎える空き家解決策「アキサポ」
大河幹男代表取締役
冒頭、大河社長は2016年から全国で展開する空き家解決サービス「アキサポ」の歴史と概要を説明した。2015年の「空き家特措法」施行を機に、空き家問題解決を目指してスタートした同事業は、2026年6月に10周年を迎える。
「アキサポ」は、所有者が抱える課題に対し、物件や地域の特性に応じた最適な解決策を提案し、数々の実績を上げてきた。具体的には、同社が空き家を借り受け、工事費用を全額負担してリノベーションを実施。その後、一定期間第三者に転貸し、契約終了後にはバリューアップした建物が所有者に返還される仕組みだ。所有者は自己負担なく資産を有効活用し、家賃収入を得ることができる(物件状態により一部費用負担のケースもある)。
空き家解決サービス「アキサポ」の概要
近年は首都圏に加え、2023年に開設した大阪支店を拠点に関西エリアへも積極的に進出。また、大型物件や民泊など、時流に合わせた活用が増加しているという。「特徴としては、リノベーションによって住宅を非住宅へと用途変更し、再生させるケースが増えている」(大河社長)。
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活用だけでなく、売買のサポートも強化している。2024年からは買取サービスを本格化させ、対象エリアを北海道から鹿児島まで拡大した。
外部連携においても、2025年8月に設立された「一般社団法人スムヤドスム」へ中心的な役割として参画。時事通信社などと共にコンソーシアムを立ち上げ、空き家を「二地域居住者の住居」や「宿泊施設」として再生するほか、災害発生時には被災者向けの応急仮設住宅として提供するなど、通常時・災害時を問わず地域貢献と社会課題の解決に取り組んでいる。
第5回日本サービス大賞で「アキサポ」で「国土交通大臣賞」を受賞
このように事業領域や連携先が拡大する一方で、課題となったのが「人的リソースの限界」だ。丁寧なヒアリングを重ねる従来の手法だけでは、年々急増する空き家の相談件数に物理的に対応しきれなくなっていた。大河社長は、今回のDX推進に至った背景を次のように語る。
「これまでは現地に足を運び、『何があれば地域に喜ばれるか』をヒアリングして再生を進めてきた。しかし、人的リソースには限りがあり、アナログな対応だけでは増加する空き家に対処しきれない。そこで2020年からデジタル化構想を練ってきた。AIを活用し、最短距離で価値を示すのが『空き家のコタエ』だ。ハードを扱う不動産会社こそDXが重要であり、日々蓄積される査定データをAIに学習させることで精度を高め、解決スピードを最大化していく」
「負の遺産」から「富動産」へ
この「解決スピードの最大化」を急ぐ背景には、社内のリソース問題だけでなく、近年の法改正による市場環境の変化がある。
2023年12月の「空き家特措法」改正や、2024年4月の不動産相続登記の義務化により、これまで長年放置されがちだった空き家問題に対し、所有者は一定の決断を迫られるようになった。
大河社長は、この状況を「放置がリスクになる時代の到来により、所有者の意識が変化する大きな転換点となる」と捉える一方で、「法律で管理を義務付けても、『資金がない』『活用方法がわからない』という根本的な悩みは解決されない。つまり、やらなければならないという圧力に対し、『どうすればいいか(=コタエ)』という具体的な選択肢が不足しているのが現在の市場課題だ」と指摘する。
重要なのは、その先にある『具体的な選択肢の提示(可視化)』であると考え、同社は所有者に最適な『コタエ』を迅速に示すため、AIによる自動査定プラットフォームを開発した。
「複数の出口戦略を客観的なデータで可視化し、所有者が納得して一歩を踏み出せる環境を作ることが、法改正後の空き家業界において最も重要だ。私たちはこの法改正などの動向を、『空き家=社会の負の遺産』から『地域の資源(富動産)』へと転換させる好機と捉えている。行政からの要請に応えるだけでなく、所有者に寄り添い、AIなどのテクノロジーも活用しながら最適な解決策を提示し続けることで、空き家問題の解決を加速させていく」(大河社長)
リフォーム業界とは「補完関係」
次に井上雅友氏が登壇し、今後の戦略について説明した。総務省の発表(2024年9月)によれば、全国の空き家数は過去最多の900万戸を超えた。空き家所有者は管理や維持コストの負担を抱える一方、購入希望者にとっても物件情報が断片的で、活用後のイメージが描きにくいという課題が存在する。
「これまで空き家は放置されてきたが、ソリューションとしてマッチするものがなく、ビジネスとして成立しにくい面もあった。その答えの一つが『空き家のコタエ』だ」(井上氏)。
経営企画部 マーケティング部 テクノロジー戦略部 担当役員 井上雅友氏
同プラットフォームは、所有者・利用者の双方の視点に立ち、今後3つのフェーズで価値を提供する予定だ。 第1フェーズは、今回リリースした「自動査定サービス」による価値の可視化。空き家には除却(解体)などの処分方法だけでなく、再生を伴う活用や売却など複数の出口戦略がある。これを一元的に可視化することで、売主に即座に選択肢を提供し、心理的・時間的コストを削減する。
第2フェーズ(2026年内リリース予定)では、買主向けのサービスとして、売主と買主を直接つなぐCtoCマッチングを展開する。投資だけでなく、別荘やレジャー用、セカンドハウスなど生活スタイル向上を目的とした潜在的な購入ニーズを掘り起こし、全国の空き家とつなぐことで流通を加速させる。
第3フェーズでは、買取・解体・仲介・施工などの専門事業者ネットワークとの連携を深める。所有者、買主、投資家に加え、関連業者にもプラットフォームへの参加を呼び掛け、業界全体で「三方よし(買主・売主・ジェクトワン)」のビジネスモデル確立を目指す。「流通が難しい特定空き家などを中心に向き合い、2030年ごろまでには約50万戸の空き家に関与していきたい」と井上氏は方針を示した。
「空き家のコタエ」の事業スキーム
また、周辺ビジネスとの連携において、リフォーム業界との関係性を井上氏は「競合ではなく補完関係」と位置付ける。
「『空き家のコタエ』は、活用・売却・保有といった意思決定の“前段”、つまり『そもそもこの家をどうするのが合理的なのか』を可視化するためのサービスだ。活用や賃貸といった選択をした場合、リフォーム・リノベーションは不可欠なプロセスになる。本サービスで『この家はどの程度手を入れるのが適切か』を整理し、地域や物件特性に応じた施工会社とマッチングすることで、リフォーム会社が本来の価値を発揮しやすくなる“入り口の整備”を担いたい。結果として、リフォーム業界にとっても『見込みの低い案件への無理な提案が減る』『顧客の納得度が高い状態で相談が入る』『長期的な信頼関係を築きやすくなる』といったメリットが生まれ、健全な市場形成に寄与できると考えている」
透明性の高いマッチングで、900万戸の課題解決へ
今後は、「空き家のコタエ」のサービス第2弾として、自動査定で可視化された情報をもとに、空き家所有者が物件情報や希望価格を掲載し、購入希望者と直接やり取りができる「空き家マッチング機能」の実装も構想している。これにより、空き家所有者は最適な専門家や購入希望者と手間なく出会うことができ、空き家がスムーズに市場に流通する、透明性の高い仕組みの構築を目指す。
空き家所有者は「管理の負担」や「維持コスト」など多くの「負」を抱えている。同時に、空き家を探している購入希望者にとっても、物件情報が断片的で活用イメージが湧きにくいという課題が存在していた。
ジェクトワンは、これまで約10年間「アキサポ」で培ってきた知見をデジタル技術へと拡張し、空き家の価値を可視化しながら、所有者と購入希望者をよりスムーズにつなぐ新たな仕組みの必要性を強く感じて最新のAI技術を活用した。現在、約900万戸といわれるまでに深刻化する空き家問題。その解決に向け、同社のAI導入と新プラットフォームが大きく前進する推進力となることを期待するばかりだ。

