戦争による資材の物価高

建設資材高騰による”スライド請求”、 第一次石油危機ですら裁判所はダメ出しだった。

スライド請求の原則と難しさ

資材価格の高騰に伴う請負工事代金の増額(スライド請求)については「契約の拘束力」が優先されるため、認められにくい傾向にあります。

実際、第一次石油危機による激しい資材価格高騰を理由とした請負人からの増額請求に対し、裁判所は「予期できない事態」とは認めず、否定しました。

「20%以上の資材高騰であっても事情変更の適用は厳しい」(昭和56年1月29日 東京高裁)

請負契約は、固定の価格で完成を約束するものであるため、リスクは通常、請負人(受注者)が負うと解釈されるからです。

「信義則」による契約変更の妥当性

一方で、資材価格高騰を受け、両者で代金増額の合意をしたケースについては、その合意の有効性を認めた判例があります。

汚水処理施設等の売買契約において、納品前に第一次石油危機が発生して、売主が目的物を調達して納品すると差額がマイナスとなる状態(逆ざや)に陥りました。そこで、売買代金増額を要求しました。

買主は、納品が遅れると困る事情から「形式的」には増額に応じましたが、その後、買主は「増額は無効である」と主張し、最終的に裁判所が判断することになりました。

裁判のポイントは「信義則」の適用でした。裁判所は、増額の合意自体は有効であることを前提としつつ、合意の一部は信義則違反で無効であると判断しました。

民法第1条2項 信義誠実の原則

「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」

この無効範囲(有効範囲)が問題となるわけですが、当時、行政指導として示されていた増額率は10〜15%でした。

本件の増額率は39.5%とそれを大きく上回っていましたが、裁判所は他の事情も考慮して、結果的に25%アップまでは有効、それを超える部分は無効としました(昭和57年7月9日 神戸地裁)。

事前対策としての「スライド条項」

建設業法第19条では、資材高騰等の影響を無視して不当に低い代金を強いることを禁じており、注文者には誠実な協議に応じる義務があります。ただし、現実問題として、拒絶された場合に強制力を持たせることは難しいのが現状です。

対策としては、「スライド条項(物価変動特約)を契約に盛り込む」という方法があります。契約書に「賃金や物価の変動に応じて代金額を協議・変更できる」という条項が含まれていれば、それに基づいた増額請求が可能になります。

懸念される「スライド条項削除」への法的見解

しかし現実には、リーマンショック前の資材価格高騰、震災復興やオリンピック需要などによる資材価格高騰時に、スライド条項が削除される事例や「資材価格高騰を理由とする請負代金の変更を認めない」旨の条項が盛り込まれる事例が増加しました。

この点について、国土交通省の見解は「請負契約内で『請負代金額の変更に関する協議を認めない旨の条項』を盛り込むこと自体は、直ちに建設業法違反を構成するものではない」とした上で、公正取引委員会ホームページの独占禁止法の解釈を引用し、「以下の場合には、独占禁止法で禁じる『優越的地位の濫用』として問題となり得る」としています。

・実際の資材価格等のコスト上昇の程度や契約時に想定していた振れ幅に照らし、明示的に協議をしないことが不当な場合

・価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で回答しない場合

危機を乗り越えるために「話し合いを尽くす」

2026年4月現在、2021年からのウッドショックに続き、ロシア・ウクライナ情勢、中東危機、円安が重なり、建築資材価格は14カ月連続で上昇しています。

断熱材の40%値上げ、塗料用シンナーの75%大幅値上げ、生コン供給不安など、建築コストの高止まりが続いています。さらに価格高騰だけではなく、資材そのものが手に入らない供給不足により工事がストップするケースが発生しています。当面の間、価格が下落に転じる兆しは見えません。

今回の事態については、「顧客に対して説明を尽くすこと」が求められていると思います。顧客も建築予算を設定して請負契約を締結している以上、「値上げ」の要請には応じ難い場合も多いのではないでしょうか。だからこそ、一方的な要求ではなく、信義に従い、話し合いを尽くす時代なのかもしれません。

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関西をベースに広告コピー、取材記事、農家レポートなどさまざまな原稿を執筆しています。ギターはスケールに挑戦中です。
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