伊藤組土建株式会社 常務取締役 総務本部長 阿部道浩氏

伊藤組土建株式会社 常務取締役 総務本部長 阿部道浩氏

ゼネコンの公式HPが協力会社の「最強の求人サイト」に。伊藤組土建が示す、専門工事業との”運命共同体”のカタチ

ゼネコンと協力会社。かつては「発注と受注」という峻別された関係性が強調されがちだった建設業界において、両者が「運命共同体」として同じ地平に立つプロジェクトが、北海道から動き出した。

伊藤組土建株式会社(本社:札幌市、大谷正則社長)は、自社の公式ホームページ内に、新たなコンテンツとして「協力会社紹介ページ」を開設した。これは、協力会社から寄せられた「専門工事業の仕事内容や求人情報を発信する場を設けてほしい」という切実な要請をきっかけに誕生したものだ。

人口減少と地元回帰という北海道特有の課題に直面するなか、一社の利益に留まらず、業界全体の持続可能性を追求するこのプロジェクト。伊藤組土建と協力会社による合同チームが制作した同ページは、建造物の完成プロセスにおける専門工事の役割を「見える化」し、各企業の採用ページへスムーズにアクセスできる導線を設けている。

これまでスポットライトが当たりにくかった専門工事業の価値を再定義し、名門ゼネコンのブランド力と結びつけることで採用を支援する。この新たな形は、地方の建設業界が抱える人材的な閉塞感を打破する一筋の光となるはずだ。

本プロジェクトを推し進めた伊藤組土建の阿部道浩常務取締役と、協力会社の制作メンバー代表である株式会社杉本運輸の杉本憲昭社長に、業界の未来を見据えた決断の背景を聞いた。

協力会社なくして、ゼネコンの存続なし

施工の神様

まずは、北海道の名門とうたわれる伊藤組土建の会社概要について改めてご紹介ください。

伊藤組土建・阿部常務

伊藤組土建は1893(明治26)年の創業以来、北海道の発展とともに歩んできた総合建設会社です。おかげさまで、北海道を代表するような建造物や難易度の高い工事も数多く任せていただき、ありがたいことに「技術の伊藤」と呼んでいただけるまでの実績を築くことができました。

近年は、下水熱利用やZEB等の環境関連技術、ICT施工なども積極的に取り入れています。常に社会のニーズに応えられるよう技術力向上に取り組み、社是である『責任観念』と『誠心誠意』を大切にしながら、北海道の未来に貢献し続けていくことを目指しています。

新桂沢ダム堤体建設工事(日建連表彰第6回土木賞受賞)

施工の神様

続いて、今回のプロジェクトで協力会社側の代表を務められた杉本運輸の概要をお願いします。

杉本運輸・杉本社長

杉本運輸は北海道小樽市に本社を置き、1950年の創業時は運搬業からスタートしました。そこから徐々に事業を広げ、現在はクレーン作業や橋梁工事、資機材のリースなど、建設やインフラ整備に幅広く携わっています。

運搬という原点を大切にしながらも、今では高度な技術が求められる特殊な工事まで対応できるのが当社の強みですね。

株式会社杉本運輸の杉本憲昭社長

施工の神様

専門工事業・協力会社の「採用の現状」をどのようにお感じですか。

杉本運輸・杉本社長

当社ではトラックドライバーやクレーンオペレーターの採用に注力していますが、これらの職種は当社に限らず全国的に苦戦を強いられています。とくに若い世代の入職者が限られており、入社志望者は50~60代が中心で、30~40代が少ないのが実情です。

若手人材の志望者が少ないということは、将来的な人材パイの縮小を意味します。これは運転手だけでなく、鳶工事や型枠工事など、他の専門工事会社も同様の悩みを抱えています。

施工の神様

なるほど…

杉本運輸・杉本社長

もちろん若手の獲得に成功している企業もあり、そうした成功事例は参考にしていますが、全社が同じように効果的な採用活動を展開できるわけではありません。

たとえば、2024年3月には外国人採用において「特定技能・自動車運送業分野」がスタートしましたが、当社が必要とするのは「大型」のトラックドライバーのため、一筋縄ではいきません。このように各社が採用活動には頭を悩ませていました。

石狩川頭首工管理歩廊橋(杉本運輸の実績)

施工の神様

北海道という地域特有の難しさも影響しているのでしょうか?

伊藤組土建・阿部常務

ここ5年の傾向ですが、地元から離れたくない生徒や学生が多いように思えます。昔は札幌市への入職志向が強かったのですが、今は親御さんからも「同じ建設業で働くなら地元がいいのでは」という意見も多く、旭川市や帯広市から当社に来ていた人材が、今は地元の建設業に就職されるケースが増えてきたように思います。

杉本運輸・杉本社長

当社は札幌市にも営業所を置いていますが、人口集積地である札幌の方が反応はいいです。ただ、阿部常務がおっしゃった地元回帰型の傾向も強いため、他地域での掘り起こしはなかなか難しく感じています。

また、クレーンも資格が必要ですが、首都圏の給与水準が高いため、北海道や東北は首都圏企業の「人材の狩場」となっている面も否めず、社員の給与アップへの努力が欠かせない状況です。

施工の神様

そうした様々な課題があるなかで、ゼネコンである伊藤組土建が協力会社の求人支援に乗り出した経緯を教えてください。

伊藤組土建・阿部常務

建設事業は、ゼネコン単体で建物やインフラを造れるわけではありません。多くの専門工事業者の皆様による協力体制があって、はじめて実現するものです。つまり、「専門工事業者の存続」は「当社の存続」に直結しています。

専門工事業者の人材獲得が業界全体で困難になるなか、当社にも何かできることはないかと、日頃から協力会社の皆さんと意見を交わしていました。そうした中で「伊藤組土建と各協力会社の採用ページをリンクさせられないか」というご提案をいただいた際、「個社の問題」ではなく、「業界全体の持続性に関わる問題」として受け止めたことが、今回の取組みの実現につながりました。



工程を見える化し、専門工事の価値を再定義

制作した「協力会社紹介ページ

施工の神様

協力会社紹介ページの具体的な構成や、完成したページをご覧になった率直な感想をお聞かせください。

伊藤組土建・阿部常務

紹介ページには、各企業の紹介とあわせて採用ページへのリンクを設けており、仕事に興味を持った方がそのまま求人情報へスムーズにアクセスできる導線を作りました。

各専門工事業者の皆さまもホームページを制作されていますが、「なかなか見つけてもらえない」という悩みを抱えていました。伊藤組土建のホームページ内に紹介ページを置き、そこから各協力会社のサイトへ飛べるルートを確立できたことは、採用活動における大きな前進だと捉えています。

また、工事の種類をクリックすると、どのような工程で、どの専門工事業者が関わっているのかが視覚的にわかるように解説しています。これまで不透明だった「専門工事業者が具体的にどのような施工を担当しているのか」が、非常にクリアになったと感じています。

PC版のサイトイメージ。札幌の街を模したイラストから工事を選ぶと、関連する工程(専門工事の種類)が一覧に。各専門工事の詳細と、それに携わる協力会社の採用ページへのリンクが表示される

スマホ版のサイトイメージ

杉本運輸・杉本社長

はじめは「採用ページへのリンクを貼ってほしい」というシンプルな提案からスタートしましたが、最終的には工事の流れ全体が直感的に理解できる素晴らしいページになりました。私自身、当初はここまで見事な「工程の見える化」が実現するとは思っていませんでした。

各社とも、ホームページに写真を載せたり動画を作ったりと工夫はしていますが、基礎工事から始まり躯体を立ち上げていく一連の過程のなかで「クレーン工事がどの位置づけにあるか」を、協力会社単独の力で表現することは不可能です。

「北海道で、建設業の仕事がしたい」と考えた若者が伊藤組土建を検索して、このページにたどり着き、「建設業には多様な専門工事業者が関わっている」ことを知っていただく。その過程で自分のやりたい工種に出会い、興味を持ち、各社の採用に繋がっていくことを願っています。

施工の神様

制作にあたっては、どのようなご苦労がありましたか?

杉本運輸・杉本社長

制作の実務自体は、伊藤組土建の総務部 広報PR課が担ってくれました。その中で、私たちが最も時間を割き、工夫を凝らしたのは先ほどお話した「工事の全体像の見せ方」です。専門工事は区分けしようと思えばいくらでも細かくできてしまいますから。

制作チームの会議が白熱すればするほど区分けが細かくなりがちだったのですが、一般の方にも伝わるようにできる限りコンパクトに整理しました。

「名門」のブランド力をシェアし、持続可能な建設業界へ

施工の神様

自社単独では難しい表現が実現したうえに、北海道において強固なブランドを持つ伊藤組土建のプラットフォームを活用することの意義も大きいですね。

杉本運輸・杉本社長

おっしゃる通りです。私たち専門工事業者にとっては、自分たちの仕事ぶりを社会にアピールする機会がほとんどありません。北海道の地場ゼネコンとしてトップクラスの地位にある伊藤組土建の仕事に「協力会社としてコミットしている」と明確にアピールできることは、計り知れない意義を持ちます。

今回、多くのメディアから取材を受けましたが、これも「伊藤組土建のブランド」があってこそ。もし協力会社だけで同様の紹介ページを作ったとしても、注目度は限定的だったはずです。非常に大きな広告効果を得たことにも感謝しています。

施工の神様

伊藤組土建の名前のもとで発信することは、求職者本人だけでなく、就業を後押しする「親御さんの安心感」にも直結しそうですね。

伊藤組土建・阿部常務

ええ。工業高校の生徒の親御さんを対象にした現場見学会を開催している建設業協会もありますが、親世代にはまだ昔の「3K」のイメージが根強く残っています。

しかし、実際に現場を見学された方からは「思っていたよりも綺麗」「整理整頓されている」といった声も出るなど、現場で働くやりがいを感じていただけています。親御さんがこのページをご覧になり、建設業に対するイメージを少しでも良いものへとアップデートしていただければ嬉しいですね。

杉本運輸・杉本社長

当社も親御さんへのアピールは強化していく方針ですが、何よりも「伊藤組土建」というネームバリューが絶大です。「あの伊藤組土建の工事に、協力会社として参画している」という事実が、安心感に繋がっていくことに期待しています。

施工の神様

そうして若手を業界全体で確保していくことが、序盤にお話いただいた建設業の「持続可能性」にもつながるのですね。

伊藤組土建・阿部常務

繰り返しになりますが、協力会社なくしてゼネコンは存続できませんし、工事全体をマネジメントするゼネコンがなければ専門工事会社も効率よく施工ができません。両者が連携し、工事を完成させていく良好な関係を築くことこそが、これからの建設業の根幹ですから。

施工の神様

最後に、今後の人材採用支援の展望をお聞かせください。

伊藤組土建・阿部常務

今回の紹介ページは、開設して終わりではありません。さらにブラッシュアップしていくため、引き続き協力会社の皆さんを交えた意見交換の場を設け、次なる実行に移していきたいと考えています。

杉本運輸・杉本社長

「完成して終わりではなく、今後も力強い支援をいただける方針」と聞き、大変心強いです。制作に携わった身としては、このページを通じて、建設業界に一人でも多くの入職者を増やしたい。まずは現段階の反響を見据えながら、次のステップへ共に進んでいきたいですね。

「サイト開設はスタートに過ぎない」と語る両氏の言葉通り、伊藤組土建と協力会社が挑む採用支援の取り組みは、これからが本番だ。

専門工事業の価値を可視化し、ゼネコンのブランド力をシェアするという今回の試みは、単なる一過性の採用活動を超え、建設業界における「協業のあり方」そのものを問い直している。

このプラットフォームが呼び込む一人の若者が、やがて北海道のインフラを支える大きな力となるはずだ。地域名門ゼネコンのブランド力と協力会社の専門性が結びついた新たな採用の形は、これからの建設業界を牽引するロールモデルとなるかもしれない。

伊藤組土建の協力会社紹介ページ

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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