インタビューに応じた、株式会社アネシス 総合建設事業部 副部長 丸山卓哉氏

インタビューに応じた、株式会社アネシス 総合建設事業部 副部長 丸山卓哉氏

「九州初の木造高層ビル」を目指して。ハウスメーカーから「大規模木造」へと舵を切ったアネシスの勝算

日本の風景を象徴してきた戸建住宅市場が、今、歴史的な断崖に立たされている。かつて2015年から数年にわたり、年間90万戸という堅固な水準を維持してきた新設住宅着工戸数は、2024年に15年ぶりの大台割りとなる80万戸未満を記録した。しかし、これは序章に過ぎなかった。続く2025年には74万戸にまで冷え込み、さらに2030年代には、現在の水準から大きく落ち込むことが統計学的に確実視されている。

人口減少、少子高齢化、そして何よりZ世代を中心とした若年層の「持ち家志向」の劇的な変容。これら重層的な要因が複雑に絡み合い、戦後日本の高度経済成長を支えてきた「戸建住宅一本足」というビジネスモデルは、もはや成立し得ないフェーズへと移行した。

だが、この「逆風」を「変革の好機」と捉え、次なる生存戦略として一斉に舵を切った勢力がいる。国内のハウスメーカーたちだ。彼らが狙いを定めたのは、「非住宅・中高層木造建築」という未開のフロンティアである。これまでRC造やS造が支配してきたオフィスビル、共同住宅、商業施設の世界に、今、木造という新たな息吹が吹き込まれている。この動きは、単なる資材の代替ではない。建築のあり方、そして「都市と森林の調和」を再定義する、まさに大きな転換点と言えるだろう。

この巨大な潮流の最前線で、ひときわ鮮やかなプレゼンスを放っている企業がある。熊本・福岡を拠点とする株式会社アネシス(加藤龍也社長)だ。「安心」を意味するギリシャ語を社名に冠する同社は、注文住宅や分譲住宅で培った精緻な木造技術を礎に、今、ビジネスの軸足を「大規模木造建築」へと大胆に移している。今回、同社の総合建設事業部 副部長・丸山卓哉氏を訪ね、その戦略の背景に迫った。

戸建住宅「一本足」からの脱却。総合建設業へと踏み出した組織変革

――まずは、御社の概要から教えてください。

丸山卓哉氏(以下、丸山氏) 今年で創業32年目を迎えます。熊本の地でスタートした当初は、分譲住宅会社として一歩一歩、地域に根差した「住まいの形」を追求してきました。

四半世紀にわたり中心にあったのは住宅事業ですが、大きな転換期となったのは2019年4月です。創業25周年という節目に、持株会社体制(ホールディングス体制)へと舵を切りました。

この組織再編の真意は、各部門の「専門化」と「多角化」にあります。現在は「株式会社アネシス」や「株式会社リリーフ」「ファミリーステージ株式会社」といった事業会社を傘下に置き、中核である住宅事業はもとより、不動産、リフォーム、そして現在注力している総合建設へと、それぞれの領域で専門性を深めています。現在、従業員は約190名で、熊本と福岡という九州の二大拠点を軸に、各社の強みを掛け合わせながら事業を展開しているところです。

――現在、強力に推進されている「大規模木造建築事業」の輪郭と、その歩みについてお聞かせください。

丸山氏 私たちは今、住宅事業で長年研鑽を積んできた精緻な木造ノウハウを最大化させ、「大規模木造建築事業」を住宅に次ぐ第2の経営の柱へと押し上げるべく、全社を挙げて取り組んでいます。その大きな一歩となったのが、2023年の「総合建設事業部」の本格的な組織化でした。

きっかけになったのは、阿蘇の老舗温泉旅館の改修工事です。住宅という個人の空間だけでなく、多くの人が集まる「施設」を木造で再生することにも、私たちが力になれる部分があるんじゃないかと気づきがありました。

そこからは、外部コンサルタントの方々の専門的な知見も柔軟に取り入れながら、組織としての「非住宅のノウハウ」を急速に蓄積してきました。現在は、設計から現場監理、メンテナンスまでを自社で完結できる、12名による「ワンストップ体制」を構築しています。メンバーの多くは住宅の最前線で「木の性質」を知り尽くしてきた者たちですが、そこへ非住宅建築の経験を持つ外部の人材にも加わってもらいました。

この体制のもと、立ち上げから現在に至るまで、クリニックや介護施設、コミュニティセンター、そして集合住宅など、すでに約20件に及ぶ多様な実績を積ませていただいています。住宅メーカーの枠を超え、法人の皆様に「木造化」という新たな価値をご提案できる体制がしっかりと整いました。

コミュニティセンター

――かつて中大規模の施設といえばS造やRC造が「常識」でしたが、その風景が変わりつつありますね。

丸山氏 そうですね。かつて中大規模建築の世界において、木造は「例外」でしかありませんでした。しかし、その流れを大きく変えたのが、2019年6月の改正建築基準法です。これは私たち建築に関わる人間にとって、まさに「歴史的なターニングポイント」となりました。

コミュニティセンター内観

それまで、クリニックや福祉施設などを木造で建てるには、とても厳しい耐火基準をクリアする必要があって、高コストな特殊な工法や資材が求められていました。いわば、木造化には高くて厚い「法規制の壁」があったんです。

しかし、この改正によってその障壁が大きく緩和され、私たちが住宅建築で培ってきた技術の延長線上でも、十分に中大規模建築の木造化ができるようになりました。公共建築から始まった木造化の波が民間へと広がり、今や低層の非住宅物件における木造化は、私たちのような地域総合建設会社にとっての主戦場になりつつあると感じています。

クリニックの外観

専門ブランド「TOKUKEN」が医療・福祉に特化する理由

――それに伴い、大規模木造建築に特化したブランド「TOKUKEN(トクケン)」を立ち上げられました。用途が幅広い中で、どういった戦略を描いていますか?

丸山氏 立ち上げ当初は、まさに試行錯誤の連続でしたね。大規模木造建築という私たちにとって未知の領域で、どうやって商品価値を伝え、販路を開拓していくか、本当にゼロからのスタートでした。

そこで私たちは、いきなり外へ広げるのではなく、まずは足元の信頼を固めることから始めたんです。長年お付き合いのある金融機関や不動産会社の皆様へ、一つ一つ丁寧にお声掛けをしていきました。社内でも徹底的に勉強会を重ね、全社員が「アネシスは非住宅木造においても最高水準の建物を提供ができる」と、自信を持って動ける体制を整えていったんです。

さらに、私たちならではの大きな差別化要因となっているのが、既存ブランド「ひとやね」との連携です。「ひとやね」は、介護リフォームやバリアフリー住宅を通じて、医療・福祉・介護の現場が求める「切実な声」と長年向き合ってきました。

現在、総合建設事業部がこの「ひとやね」の領域も一括して担うことで、単なるハードウェアとしての建築に留まらない提案が可能になっています。介護や医療のプロの意見を設計の細部に反映し、利用者さんの利便性はもちろん、スタッフさんの運営効率まで考えた建築支援を行う。こうした「専門的なソフトの視点」と「確かな施工技術」の融合こそが、アネシスの真髄であり、他社の追随を許さない絶対的な強みだと考えています。

――オフィスから倉庫まで、大規模木造建築の用途は極めて多岐にわたります。その広大な領域に対し、限られたマンパワーをいかに最適化させていますか。

丸山氏 おっしゃる通り、木造化の波は色々な分野に押し寄せていますが、すべてにお応えしようとすると、どうしても専門性が薄れてしまいます。そこで私たちは、あえて「医療・福祉・介護」の3分野に特化するという決断を下しました。自分たちの最大の強みを尖らせることで、業務の生産性は飛躍的に向上しました。業界特有の課題を深く理解しているからこそ、打ち合わせもスムーズに進みますし、根拠を持った確かなご提案ができるようになっています。

――単なる建築コストの比較を超えた、深い理解に基づく提案がカギになっているのですね。

丸山氏 根底には、アネシスがずっと大切にしてきた「地域貢献」への思いがあります。「ひとやね」を通じて培ってきた介護・福祉業界との深い繋がりや、「建てて終わりではない」というグループ共通の哲学ですね。住宅一軒一軒の引き渡し後もお客様を大切にしてきた私たちの姿勢は、施設の長期的な運営を担う事業主様の思いと、とても深く重なる部分があると感じています。地域社会に本当に必要とされる場所を、木の温もりと一緒に支えていく。その使命感が、今の私たちの原動力になっています。

2割のコスト減と工期短縮。現場視点で見る木造化のメリット

――国も木造建築を後押ししていますが、実務の現場でその影響を感じますか?

丸山氏 かなり実感しています。私たちは国家規模のパラダイムシフトの渦中にいて、2021年に施行された改正木材利用促進法は、その象徴です。かつては公共建築物に限定されていた木材利用の対象が、民間建築物を含む一般建築物へと一気に拡大されました。

この影響は顕著で、現在では金融機関からのご紹介が全体の受注の3~4割を占めるまでになっています。これに加え、不動産用地を扱うグループ会社と、その取引先で形成する「アネシス不動産会」といった重層的なパイプラインが、改正法の後押しによってより強固なものとなりました。

さらに、林野庁が「JAS構造材実証支援事業」など、最大1,500万円もの補助金が得られるケースもあります。オーナー様がこうした制度をしっかり活用できるように、申請の段階からサポートさせていただいています。

――S造・RC造と比較して、現場視点での最大のメリットは何でしょうか。

丸山氏 木造建築はS造やRC造と比較して、実質的に「2割のコストダウン」を見込むことができます。しかし、オーナー様から一番喜んでいただけるのは、コスト以上に「工期の短縮」なんです。

たとえば、約300坪の福祉施設を建てる場合、S造やRC造では通常8ヶ月の工期を要しますが、アネシスの木造施工であれば、わずか「半年」できるケースが多いです。この「2ヶ月の差」で、早く事業を開始し収益を生み出せる。この時間的価値を具体的なシミュレーションとして提示することで、多くのお客様が木造の合理性に納得いただいています。

さらに加えて、木造ならではの設計の自由度や、木の質感がもたらす施設自体のブランド力向上も大きな魅力です。そして、将来にわたる確実な維持管理。こうした「永続的な品質担保」こそが今、市場から熱い視線が注がれている最大の理由だと感じています。


熊本の林業課題とTSMC特需を木造で繋ぐ

――2023年には、熊本県と「建築物木材利用促進協定」を結ばれました。

丸山氏 はい。2023年8月に、熊本県と「建築物木材利用促進協定」を締結させていただき、ありがたいことに当社がその第1号となりました。熊本は全国有数の林業県ですが、後継者不足などの課題も抱えているので、自社物件で県産材を優先的に使用し、大規模建築の木造化をリードしていければと考えています。

見学会には県の職員の方々が足を運んでくださる機会もあり、現場の知見と行政の政策的視点を融合させる試みが続いています。ここ熊本から「都市の木造化」という新しいモデルケースを発信していきたいですね。

――熊本といえばTSMCの工場進出も大きな話題ですが、事業への影響はありますか。

丸山氏 当社は台湾に現地法人を設立して、日本に進出される台湾企業のサポートも行っています。その一つの形として、2025年10月にシェアオフィス「趨勢(すうせい)ビジネスセンター・熊本」をオープンしました。

開放感のあふれるシェアオフィス「趨勢(すうせい)ビジネスセンター・熊本」

台湾の方々が求める「圧倒的な開放感」というニーズにお応えできるよう、主要幹線に面していながら、全面にガラス張りを多用したデザインを取り入れています。木造2階建てとは思えないほど光に満ち溢れた空間になり、台湾の皆様からもとても良い反響をいただいています。

シェアオフィス内観

また、入居企業様の中で「台湾の本格的なお茶」を提供する店舗の計画も進んでいるんです。木造建築の温もりの中で、自然と文化が交流していく。こうした「生きた空間」をつくっていくことも、私たちが目指す理想の形の一つですね。

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目指すは「九州初の木造高層ビル」

――最後に、今後のビジョンをお聞かせください。

丸山氏 一つの目標として、ここ熊本で「九州初の木造高層ビル」を建ててみたいという思いがあります。先日、関東で純木造8階建てのビルを見学する機会があったのですが、「これを熊本でも実現したい」とチームのメンバー全員が胸を熱くしました。

一方で、この分野は競合となる企業の参入も増えてきています。だからこそ、私たちは「アフターメンテナンス日本一」を旗印に、どこよりもこだわっていきたいと考えています。メンテナンス専門の部署を設けたり、災害時には全社員で対応できる体制を整えたりと、建てた後の「安心」を第一に考えています。

大規模木造建築という新しい技術を追求しながらも、根底にあるのは「お客様の人生に寄り添う」という創業時からの変わらない思いです。技術力とアフター体制の両輪が揃ってこそ、アネシスの目指す「真の総合建設」は完成します。木の温もりで熊本の街並みをつくり、守っていくために、これからも地道に取り組んでいきたいですね。


今回、浮き彫りになったのは、アネシスが持つ「二面性」の魅力だ。一つは、人口減少や法改正、さらにはTSMC進出といった市場の変化を冷静に見極め、住宅メーカーから総合建設業へと鮮やかに脱皮を図る「戦略家」としての側面。そしてもう一つは、木の温もりを大切にし、一軒の家、一つの施設の「その後」にどこまでも責任を持とうとする、誠実な「造り手」としての側面である。

かつて、都市の近代化は「木」を切り捨て、「コンクリートと鉄」を中心に進められてきた。しかし今、アネシスが熊本の地で示しているのは、最新の建築テクノロジーと地域の資源を融合させ、再び「木」を都市の風景に取り戻すという、新しい時代の豊かさの形だ。

「九州初の木造高層ビル」という大きな目標は、決して遠い未来の話ではないだろう。彼らが建てるのは、単なる効率的な「箱」ではない。そこに集う人々の安らぎであり、日台の文化が交差する場であり、何世代にもわたって地域に愛される風景そのものなのだ。

「建てて終わりではない」という哲学を胸に、地域と共にさらなる高みを目指す。その挑戦の先には、私たちがまだ見たことのない、温かくて強い「未来の街並み」が広がっているはずだ。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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