第114代会長に就任した小澤一雅政策研究大学院大学特別教授

第114代会長に就任した小澤一雅政策研究大学院大学特別教授

【土木学会】第114代会長に小澤一雅氏が就任「現場の声を聴き、学会をマネジメントする」

公益社団法人土木学会は6月12日、都内で定時総会を開催した。池内幸司前会長の退任に伴い、第114代会長として小澤一雅氏(政策研究大学院大学特別教授)の就任が決まった。

小澤新会長は、1986年に東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程を修了。その後、同大工学部土木工学科助教授、建設省土木研究所建設マネジメント技術研究センター主任研究員などを経て、2004年に東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授に就任した。2024年からは政策研究大学院大学教授および東京大学名誉教授を務め、2026年4月より現職(特別教授)にある。土木学会において建設マネジメント委員会委員長、技術者資格委員会委員長、企画委員会委員長、理事・副会長などを歴任してきた。

本総会では、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)推進の観点から、定款における女性理事の選任規定を「少なくとも2名以上」とする変更案が了承された。また、2026年度からは「土木ICT/DX教育の実展開を通じた教育・人材育成プロジェクト(仮)」も始動する。

総会後の挨拶では、2025年度から2029年度までの5年間にわたる組織運営および活動の指針「JSCE2025」に言及した。近年、気象災害の激甚化、人口減少、国際化の進展に加え、日常生活とインターネットの融合や生成AIの台頭といった急速な技術革新が進んでいる。一方で、インフラの老朽化、労働力・土木人材の不足、技術継承の難航、インフラの機能不足や用途変更など、土木界を取り巻く環境は激変している。こうした背景を踏まえ、「JSCE2025」では「土木学会の組織はどうあるべきか」という組織改革を軸に据えている点が大きな特徴だ。

池内幸司前会長と小澤一雅新会長ががっちりと握手

組織のサイロ化打破へ「特別委員会」設置

「JSCE2025」で示された検討課題では、組織の「サイロ化」を解消し、横断的かつ複合的な社会課題に対応しうる運営組織の構築が提起されている。

この問題意識のもと、学会が持続的に発展できるよう運営のあり方を見直し、進化させることを目的とした「JSCE2025対応の特別委員会」を設置する。同委員会の委員長には小澤会長自らが就任し、各部門主査の理事が委員を務める。小澤会長は「次の世代に新たな土木学会を引き渡すために、具体的なアクションを起こす必要がある」と力強く語った。

また、今後の取り組み方針として以下の3点を提示した。

  1. 時代のニーズに応える革新への挑戦
  2. 連携による価値の創出
  3. 透明性の高い組織運営

これらを念頭に置き、AI時代においては学会内部に閉じこもるのではなく、周辺分野の人々と積極的に連携し、新たな価値を生み出すプラットフォームとしての役割を強化していく。現在進めているプラットフォーム化の取組みをさらに拡充し、本部と支部の一体的な運営、ならびに透明性の高い組織運営を志向するスタンスを示した。

 

さらに、部門横断的な検討課題として以下の5点を挙げた。

  1. DX推進:デジタルワークフローと信頼できるデータ(AI)
  2. 技術者教育:リスキリング(ICT+土木+人間力)
  3. 運営体制(柔軟な組織運営)
  4. 財務戦略:見える化とメカニズム
  5. エコシステム(異分野連携):新たな価値創出

小澤会長は「次の世代が入会しやすい学会にしていきたい」と語り、「土木学会に最高の景色を」という言葉で総会での挨拶を締めくくった。

次期会長にはJR東日本の熊本氏

熊本義寛氏(東日本旅客鉄道株式会社シニアフェロー)

同総会では、次期会長として熊本義寛氏(東日本旅客鉄道株式会社シニアフェロー)の就任も決定した。

鉄道土木畑を歩んできた熊本氏は、「45年以上の鉄道人生のうち、3分の2は首都圏のプロジェクトに関わってきた。2011年の東日本大震災以降は三陸地域の被災エリアや福島第一原発周辺の復旧・復興に従事し、2016年からはインドの高速鉄道プロジェクトを継続して担当している」と自身の歩みを振り返った。

土木学会においては、関東支部の技術情報部会や本部建設マネジメント委員会などで尽力してきた。熊本氏は次期会長の役割について「会長の命を受け、重要事項の企画立案に参画し、関係業務を統括管理することにある。この1年間は、会長、理事、各委員、事務局、そして市民の皆様のニーズをしっかりと勉強させていただきながら、準備を進めていきたい」と抱負を語った。

学会活動の「棚卸し」、会員が主体的に挑戦できる環境へ

小澤会長は、就任当日に執り行われた記者会見において、自身が長年取り組んできた「建設マネジメント」の思想を、学会の組織運営(マネジメント)へと応用する方針を強く打ち出した。

また、少子高齢化やDX・AIの急速な進展、カーボンニュートラルの実現といった建設業界を巡る構造的課題に対し、徹底した現場重視の姿勢で対峙していく決意を示している。会見の内容は次の通り。

――会長就任のあいさつの中で「3つの方針」が示されていた。具体的な取組みは。

小澤会長 現在、「JSCE2025」をもとに、学会活動全体の「棚卸し」を進めている。そのうえで、空いた隙間に新しい活動を取り込める組織運営の見直しに着手した段階だ。

見直しの先にどのような新しい活動へのアプローチが生まれ、それが具体的に何になるのかという点については、ぜひ1年後の成果を見ていただきたい。改革のプロセスを通じて、活動に参画する会員が、自ら主体的に新しいことにチャレンジできるような環境を整備していく。

――今回の会長重点事項として「学会運営のあり方」が提案されているが、「建設マネジメント」の知見から、今度は「学会のマネジメント」へと意識を展開して取り組むという理解でよいか。

小澤会長 まさにそのような意識で取り組んでいる。これまで建設マネジメント委員会において、インフラ事業を対象に「どのようなマネジメントが最適か」を考えてきた際、一貫して最も重視した点は「現場にとって良いものをいかに整備するか」ということであった。その目的を達成するために、制度や仕組みをどう構築すべきか、そして現場で実際に活躍する「人」をいかに適材適所で活かしていくか。これこそが本質であると考えてきた。

今回、その対象を「学会」へと移し、組織マネジメントを考えた場合、まずは全国の各支部や現場で、それぞれどのような活動が実践されているのかを正確に把握する必要がある。私のこれまでの経験だけでは、学会のすべての活動領域が見えているわけではない。そのため、次期会長としての準備期間を通じて最も注力してきたのは「現場の声を聴くこと」だった。

土木学会には、北海道から九州・西部まで「8つの支部」が存在する。かつ、その活動分野はいわゆる調査研究にとどまらない。地域に根ざした独自の取組みをはじめ、国際交流、広報活動、そして「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)委員会」など、極めて多様な活動が展開されている。したがって、それぞれの現場に関わる方々がどのような方で、どのような思いを持って活動されているのかを丁寧にヒアリングした。それらを踏まえ、これから私自身がどこをどのように見直していくべきかという具体的なグランドデザインを、現在、学会の理事とともに組み立てている状況だ。

現場を回る中で気づいた具体的な例を挙げると、現在、8つある支部のうち「6つの支部」において、女性の事務局長が組織を支えてくれている。全支部に共通しているのは、事務局長の方々が学会に対する非常に熱い思いを抱いているという点だ。個人のタイプや就任の経緯はそれぞれ異なるが、そうした個々人の強い熱意に支えられているからこそ、現在の各支部がうまく機能しているのだと実感している。しかし、これを将来にわたって「持続可能な体制」にしていくためには、個人の熱意だけに依存するのではなく、組織としての工夫を凝らさなければならないと考えている。

AI時代にこそ「人間力」を高める

――会長として、全国の土木技術者にどのようなメッセージを送りたいと考えているか。また、これからの時代に求められる「土木技術者像」は。

小澤会長 あえて一言で表すなら、「これからの土木学会をどのように育てていくか、ぜひ一緒に考えてもらえないか」という呼びかけだ。見直すべき慣習は果敢に見直し、新しく始めるべきものは、それぞれの現場でぜひ一緒にスタートさせよう、という強い思いを投げかけてきたつもりだ。

これからの土木技術者がどのようなスキルを身につけ、どうあるべきかという技術者像については、非常に難しく、かつ極めて重要なテーマだ。これだけAIが急速に進化する社会において、大学教育の段階で何を教え、どういう人材を育てるべきか。現在、世界中の教育・研究機関で活発な議論が交わされている。AIの活用により、知識や過去の経験知を得ること自体は非常に容易になった。

一方で、現時点におけるAIには「自ら下した判断に対して責任を取ってくれるわけではない」という決定的な限界がある。また、AIから得られる情報がすべて正しいとは限らず、一見もっともらしい誤情報(ハルシネーション)が返ってくるリスクも孕んでいる。このような状況下で、非常に便利ではあるものの不確実性を伴う道具をいかに上手に活用し、人間として社会にどう貢献していくべきか。そして、それを実現できる人材をどう育てるのかが、今まさに最大のテーマとなっている。

各方面では、高度なデジタルツールを使いこなしながらも、最終的には自らが責任を持って新しいものを生み出し、それを実際に現場で動かすことができる「人間力の高い人材」の育成が叫ばれています。実際に現場で経験を積み、人格を高めるための様々なアプローチを身につけることが不可欠です。これらに関する方法は、過去から膨大な蓄積が存在します。今一度それらの「原点」に立ち返り、人間力を高めるための育成方法を再考する必要があります。哲学や人間の価値観を形成するための教育の在り方について、ぜひ学会としても真剣に検討したい。

各方面では、高度なデジタルツールを使いこなしながらも、最終的には自らが責任を持って新しいものを生み出し、それを実際の現場で動かすことができる「人間力の高い人材」の育成が叫ばれている。現場で経験を積み、人格を高めるための様々なアプローチを身につけることが不可欠だ。これらを培うための手法については、過去から膨大な蓄積がある。今一度それらの「原点」に立ち返り、人間力を高めるための育成方法を再考する必要がある。哲学や、人間の価値観を形成するための教育のあり方について、ぜひ学会としても真剣に検討したい。

就任記者会見でプレスからの質問に答える小澤会長

ICT・DX教育の「格差」を埋める

――今年度から開始される「土木ICT・DX教育の実展開を通じた教育人材育成プロジェクト」とは。

小澤会長 本プロジェクトの背景には、「ICT教育特別委員会」の存在がある。デジタル化やDXの波が建設産業に押し寄せてきた際、土木分野の若い世代や、すでに現場で活躍している社会人技術者に「最先端のスキルをどのようなプロセスで身につけてもらうのが最適か」を検討するため、特別委員会が設置され、私も顧問として参加していた。

その検討の過程で浮き彫りになった課題が、現在の大学教育のカリキュラムだけでは、必ずしも十分なICT・DX教育をカバーできていないという現状だ。また、実務に就いている社会人の教育という点でも、大手のゼネコンやコンサルタントでは一定の社内教育体制が整備されているものの、建設産業全体という広い視野で見ると、十分な教育機会が行き渡らず、格差が生じていた。

土木学会はこうした現状を重く受け止め、必要なスキルを体系的に身につける方法を検討するため、教育部門の委員、実務を担う会員、企画部門の会員、そして技術推進機構からの支援も受け、本特別委員会を立ち上げた。土木技術者としてICTのスキルをどう身につけるべきか、大学教育や実務者のリスキリングにおいて「何を、どういう手法で教えるべきか」が議論の核となる。学会として、そうした人材を育成するための標準的な「教材の作成」や「教育サービスの提供」にまで踏み込むべきかどうかも含め、現在、具体的な議論を進めてもらっている。

なお、この議論を始めた数年前の段階では、生成AIなどの技術は今ほどの驚異的なレベルには達していなかった。したがって、当時の想定からさらに一歩踏み込み、現在は全く異なる次元の、新たな技術進展を踏まえた議論が必要になると考えている。

DXが拓く多様な人材の現場参画

――ベテラン層の引退に伴い消失の危機にある「暗黙知」をどのように伝承し、AIをより良く進化させていくべきと考えるか。

小澤会長 「暗黙知をいかに引き出すか」という点自体、極めて高度なスキルが要求される。ベテランの技術者にただマイクを向ければ、自然に暗黙知が言葉となって流れてくるわけではない。

これに関して、私が「ケースメソッド」を用いた教育を実践する中で得た知見がある。未経験の若い世代に対して過去の具体的な事例(ケース)を用いて教える際、その議論の場に経験豊富なベテラン技術者にも同席してもらうという手法だ。すると、若い世代の疑問や議論が呼び水となり、ベテランから自然と「あの時の現場ではこうだった」という暗黙知が引き出され、共有される環境が生まれることが分かっている。

つまり、熟練者が自らの経験や知恵を「出しやすい環境」をいかに上手く作るかが鍵であり、こうした「暗黙知を引き出すための手法」は非常に有効だ。将来的には、そうした暗黙知を引き出すプロセス自体をサポートするAIを構築することも、一つの有効なアプローチになるかもしれない。

――人口減少下における地域やインフラの守り方、持続可能性についての所感を。

小澤会長 建設産業の担い手が減少し、インフラの維持管理が極めて困難になりつつある地域において「いかに社会機能を維持していくか」という問題は、本質的には「コミュニティの在り方」そのものの問題であると考えている。すなわち、建設産業という単一の産業にとどまらず、地域コミュニティ全体でどうインフラを守り、維持していくかという視点が不可欠だ。

従来の「建設産業をどう維持するか」という枠組みを超え、地域全体をどのような形で守っていくべきか。その新しい手法を、住民とともに考える「対話の場」を構築する必要がある。実際、すでに人口減少が危機的な局面に達している一部の地方自治体や集落では、非常に先進的な取組みが始まっている。たとえば、行政や民間業者だけに頼るのではなく、住民自らが軽微な道路補修を行うなど、自分たちでできる範囲のインフラは自分たちの手で守るという自発的な活動が実践されている。

これがすべての地域における唯一の正解というわけではないが、やはり今後は「社会や地域住民との丁寧な対話」を重ねながら、時代に即した新しいインフラの守り方を模索していくことが不可欠であると考えている。

――今回の定款変更によって、理事に「女性2名以上」を選任する規定が盛り込まれた。多様な人材の参画を促すポテンシャルは、土木学会に十分にあると考えるか。

小澤会長 土木学会としても、最先端の技術を活用しながら、多様な人々が様々なチャレンジを行える「機会の場」をいかに積極的に創出していけるかが極めて重要だと考えている。

一例を挙げると、現在、私が所属する大学の演習において、社会基盤(土木)専攻の学生と、ロボットや機械工学を学ぶ精密工学専攻の学生を対象とした、合同の体験型演習を実施している。そこでは毎回、驚くような提案が生まれる。

演習のコンテストで優勝したチームには、将来的に実際の工事現場で本物の建設機械を動かせるような機会を提供できればと考えているが、こうした経験を通じて「土木の世界はおもしろそうだ、この業界で働いてみたい」と興味を持ってくれる優秀な人材は、分野や性別を問わず、あちこちにたくさん存在していると確信している。

男性か女性かという属性に囚われることなく、多様な背景を持つ多くの方々に対し、実際に土木の最先端に触れてもらい、「ここで一緒に働いてみないか」とアプローチできるような導線を、土木学会としても強力に繋いでいきたい。これは現在、我々が準備している様々な取り組みの一例に過ぎないが、今後、より具体的な形で広く披露できるタイミングが来ることを楽しみにしている。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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