大東建託が開発した「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」を着用しながら進められている、足立区千住の12階建RC造共同住宅現場

大東建託が開発した「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」を着用しながら進められている、足立区千住の12階建RC造共同住宅現場

「全国15万人の命を守る」大東建託が挑む”熱中症重症化ゼロ”

激甚化する夏季の暑さと少子高齢化に伴う深刻な人手不足。現在、建設業界が直面するこの2大構造的課題は、一刻の猶予も許されない。全体の約4割を熱中症による死亡者が占めるという危機的な状況を受け、2026年4月からは改正労働安全衛生法も本格施行。一人親方の保護拡大や高年齢労働者の安全確保対策が事業者に強く義務付けられるに至った。

こうした法改正という時代の大きな転換期において、元請として業界を牽引する極めて先進的かつ実効性の高い安全管理を推進しているのが、土地活用を核とする建設・不動産大手の大東建託株式会社(本社:東京都港区、竹内啓社長)だ。

同社は、雇用形態を問わない「現場一体」の運用体制を確立し、全国15万人の登録作業員の命を守るため、安全大会の「事業主・従業員全員参加型」への完全移行など大胆な組織改革を断行。さらに、株式会社昭和商会との共同開発による「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」の全社貸与と協力会への普及、学術機関と連携した科学的有効性の実証、そして太陽光パネルを搭載した大東建託モデル「ミストファン付き快適トイレ」の試行展開など、現場環境の刷新を試みている。

今回、同社安全管理課の荒川健隆氏に、大東建託独自の取組みの背景と現場における実践について話を聞いた。

“改正安衛法”を見据えた「一体運用」と「事業主・従業員全員参加型」の安全大会

大東建託 安全管理課の荒川健隆氏

――年々、夏季の猛暑は深刻化しており、熱中症対策は喫緊の課題です。

荒川健隆氏(以下、荒川氏) 大東建託では、これまでも啓発用のポスターやピクトグラムの掲出、現場環境の整備、さらにはライブカメラを用いた運用の見える化など、多角的な対策を行ってきました。

しかし、どれだけハードやソフトを整備しても、熱中症リスクを完全にゼロにすることは容易ではありません。とくに、熟練技能労働者の高齢化が進む現場では、リスクが日々高まり続ける一方です。だからこそ、現場や個人の自己管理だけに委ねるのではなく、会社として、そして現場全体の仕組みとして、いかに確実なリスク管理を継続していけるかが極めて重要になります。

――今回の法改正の施行以降での運用についてはいかがでしょうか。

荒川氏 今回の改正労働安全衛生法における大きなポイントは、当社の雇用労働者だけでなく、一人親方や委託先の従業員など、同じ現場で混在して働くすべての人が分け隔てなく安全管理の対象になった点です。

大東建託は、法改正が行われる以前から「一人親方だから朝礼に出なくていい」といったような区分けは一切行っておらず、新規入場者教育や熱中症対策ルールの適用、さらには職長・安全衛生教育の機会提供に至るまで、全員に平等な安全管理を実施してきました。現場に関わるすべての人を等しく守るという姿勢は、元請としての当然の責務であるという考え方が根底にあるためです。

そのうえで、今期からはさらに一歩踏み込んだ取組みとして、毎年上期・下期の年2回実施している「安全大会」のあり方を刷新しました。これまでは主に事業主や一人親方、職長が参加し、そこから各従業員へ安全指示を伝達していくという方法を採用していましたが、今期の下期からは、現場を休止して「事業主・従業員全員参加型」へと完全移行します。

安全大会の様子(クレーン作業)

雇用形態に関わらず、現場で働くすべての人が同じ場に集まり、過去の災害事例の共有や具体的な現場対策を学ぶ。この全員参加型の体制を徹底することで、施工パートナーである大東建託協力会の登録作業員約15万人全体の安全意識と、現場の安全力の底上げを包括的に図っていきます。

――お話にあった高年齢労働者の安全確保という点でも、随分と前から教育を継続されていますね。

荒川氏 ええ。2016年から年1回、65歳以上の作業員(今年度中に65歳に達する者を含む)を対象とした「高齢者教育」を各支部で継続して実施しています。

この高齢者教育における最大の目的は、長年の経験によって熟練した技術を持ちつつも、加齢に伴って必然的に生じる運動能力の低下や健康リスクについて、ご自身に「気づいていただく」ことにあります。「昔は当たり前にできた体勢が今はきつい」「段差につまずきやすくなった」といった身体の変化を自覚してもらうための場として活用しています。

現在は対象年齢を60歳以上に引き下げるべきかどうかも含めて、部内で検討を進めているところです。


「涼しさ」を科学する。昭和商会と生んだ「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」

――熱中症対策のなかでも、「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」が大きな注目を集めていますね。

荒川氏 約1年前、現場からの切実な要望が製品開発のスタートでした。当時、「ファン付き作業服」と、冷たい金属端子で身体を冷やす「ペルチェ素子内蔵ベスト」がそれぞれ別々に存在していましたが、現場管理者はフルハーネスをはじめとする多くの装備を背負って業務を行う必要があるため、両方を重ねて着るとかさばり、現場での動きが著しく制限される課題がありました。

そこで、安全管理課から現場用品の総合卸商社である昭和商会様に「この2つの機能を1つのベストに統合できないか」という提案を行って、共同開発がスタートしました。完成した初代モデルは2025年に全社員に配布し、大東建託協力会の会員様向けにも購入費の補助金支給を始めました。そして、1年間現場で運用する中で集まったさまざまな意見を取り入れ、今期大幅なリニューアルを施したのが最新の「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」です。

「ファン付きペルチェ式冷却ベスト」

――どのようなリニューアルを?

荒川氏 主に4点あります。まず1つ目は「ベストのカラー」です。色によって直射日光下での太陽光の熱吸収率は大きく異なるため、従来の紺色から、シルバー系にすることで、輻射熱の影響を大幅に低減しました。

2つ目は「ファンの能力向上」です。より強力な風量を確保できるよう、ファンの基本性能を引き上げました。

3つ目は「バッテリーの軽量化と統合」です。昨年はペルチェ用とファン用で計2個のバッテリーを搭載しなければならず重さが課題でしたが、今期は1.5個分相当の重量に抑えた1つのシステムで、両方の機能を同時に回せるように改良しました。

4つ目が「ペルチェ素子の配置自由度の向上」です。昨年までは脇の下だけを冷却する構造でしたが、今期からは着る人の好みに合わせて、襟元(首元)にもペルチェ端子を付け替えられる仕様にしました。

このように、現場の声を忠実に反映させることで、実用性を極限まで高めた作業着へと進化させています。

――体感だけでなく、科学的な有効性についてはどのように実証されましたか?

荒川氏 単に「冷たくて気持ちがいい」という主観的な感想だけでなく、学術的な知見から製品の真の効果を検証するため、立教大学スポーツウエルネス学部の石渡貴之教授、安松幹展教授、そして環境生理学および熱中症対策の権威である松山大学人文学部の田中英登教授(横浜国立大学名誉教授)に委託し、共同で実証実験を行っていただきました。

実験では、気温32℃・WBGT 28℃という暑熱環境を再現し、被験者に軽運動(歩行)を行ってもらいながら、身体の生理反応や心理変化を精密に測定しました。従来のファン付き作業服は外気を取り込んで汗を蒸発させる「気化熱」に依存するため、気温が皮膚温を超えるような高気温下では熱風を吸い込むことになり、冷却効果が限定的になるという弱点がありました。

しかし、気化熱ファンと「ペルチェ素子による直接冷却」を組み合わせることで、ペルチェ端子が直接触れている部位だけでなく、非接触部位である「上腕部」の皮膚温度の上昇までも約0.5℃抑制できるという結果がデータとして実証されました。

この実験結果を受け、監修いただいた石渡教授からは「使用者の好みに合わせてペルチェの設置箇所を自由に変更し、人体に正しく接触させることで、より高い効果が得られる」との評価をいただき、田中教授からも「厚生労働省が進める建設現場の熱中症対策に大きく貢献する価値ある取組み」という大変心強いコメントをいただくことができました。

――かなり高性能な冷却ベストですが、どのように現場への普及促進をしているのでしょうか?

荒川氏 まず、4月に当社へ入社した約70名の新入社員や中途採用の社員をはじめ、すべての現場監督に対しては会社から新タイプを直接貸与・配布しています。すでに昨年の旧タイプを支給されている社員に対しても、現場で長年使用して壊れた際などの交換時には、順次この新型モデルへと切り替える運用を行っています。

一方、協力会社への提供については、大東建託の協力会社向けに安全備品などの販売を行う「すまちく建材店」というWEBサイトを窓口に対応しています。大東建託協力会に所属している事業者から協力会費をいただいて運営しているため、その原資をもとに「独自の補助金」を上乗せして特別価格で販売しています。

具体的な累計販売個数については、まだ今期のリリースから間もないため詳細な数字までは把握できておりませんが、昨年の旧タイプの段階でも数百単位での注文がありました。

“サウナ”からの解放。ソーラー駆動の「ミストファン付き快適トイレ」

――熱中症対策のもう一つの目玉として、現場用の仮設トイレを刷新し、大東建託モデルである「ミストファン付き快適トイレ」を試行設置されていますね。

荒川氏 この仮設トイレの刷新は「休憩・リフレッシュ環境の改善」を狙ったものです。建設現場でトイレを使用するタイミングというのは、朝の到着時、10時の休憩時、お昼前、そして15時の休憩時と予測がつきます。従来の仮設トイレはプラスチック製の密閉された空間のため、真夏には室内に熱がこもり、まるでサウナや温室のような過酷な高温多湿状態になっていました。

そこで、単に衛生的なだけでなく、快適に過ごせる空間づくりを目指しました。実は、外壁に光触媒コーティングを施してアンモニア臭などの不快な臭いを抑制する「快適トイレ」自体は、昨年10月以降の契約物件からすでに標準導入を進めていました。今回はそれをさらに進化させて、天井部に「太陽光パネル」を搭載した独自の試行モデルです。

このモデルの最大の特長は、現場に外部電源がない状態でも、太陽光パネルによる自家発電によって、室内の「強制換気扇」と「ミストファン」を完全に省エネ運用できる点にあります。これにより、用を足すわずかな時間であっても、こもった熱気や臭いを一掃し、ひんやりとしたミストによる確実なクールダウン空間を提供することが可能となりました。

快適トイレに設置されているミストファン

また、現場で活躍する女性現場監督や女性技能労働者の増加という時代の変化に合わせ、防犯面とプライバシーに配慮した「二重ロック」構造を採用し、アメニティが置ける収納ボックスの設置や室内外の抗菌加工を施すなど、男女問わず誰もが安心して清潔に使用できる設計を徹底しています。

天井部に設置した太陽光パネル

――「ミストファン付き快適トイレ」の試験現場での評判は?

荒川氏 実際にこの試行モデルを設置して運用している現場にヒアリングを実施しました。最も多く聞かれたのは、「真夏でもトイレに入るのが苦にならなくなった」という非常に率直かつ喜びの声です。私も現場の叩き上げとして20年以上建設業界に身を置いていますから、夏の仮設トイレに入った瞬間のあの”ツン”とする凄まじいアンモニア臭や、一気に汗が吹き出すような不快感は身に染みて知っています。

「ここまで現場の環境を快適に変えようと考えて、配慮してくれていることが本当にありがたい」という感謝の言葉を直接いただき、実施してよかったと心から実感しています。

また、女性の現場監督や作業員からも、「二重ロックがあることで安心して利用できる」「女性への配慮がしっかり感じられる仕様になっている」といった好意的な意見を数多く集めることができました。

「ミストファン付き快適トイレ」の試行モデルについては、東京都新宿区大久保のRC造ホテル・共同住宅現場(101戸)等、都内2箇所の現場に先行して設置を予定しています。

今後も、実際に使用した方々から寄せられた様々な改善点や意見を精査し、さらなる展開の拡大を行っていくつもりです。


「経験値の過信」を防ぐ。独自休憩ルールと遠隔見守りカメラ

――独自に導入している休憩のルールはありますか?

荒川氏 どれだけ優れた冷却装備や快適なトイレを用意しても、現場で正しく運用され、作業を「止める判断」が実行されなければ意味がありません。現在、大東建託の現場では、環境省が推奨する暑さ指数(WBGT値)が28℃以上の「厳重警戒」に達すると予測される日の朝、すべての現場管理者がスマートフォンなどで「アラートメール」を受信する設定を義務付けています。そして現場に設置の黒球付熱中症計のアラート発令時には、当社独自ルールとしてWBGT値28以上の場合、「1時間おきに15分から20分程度の休憩を必ず挟む」という運用を現場へ義務付けています。

しかし、この取組みをスタートした当初は、現場の職人さんたちの「経験値への過信」という壁にぶつかりました。「WBGTが28℃を超えていても、まだ自分の体は動くから大丈夫だ」「切りのいいところまでやってしまいたい」と、作業を継続しようとする傾向がどうしても見られたんです。職人さんたちは日給月給制や出来高制で動いている側面もあるため、やった分だけ報酬になるという心理から、仕事に熱中してしまうのは無理もないことではあります。

しかし、熱中症の恐ろしさは、そうした目に見えない疲労や脱水の蓄積によって、ある瞬間を境に一気に重症化・重篤化する点にあります。プールで1時間泳いだら必ず一度全員を水から上がらせて休憩させるのと同じように、強制的に身体をクールダウンさせる時間を設けることは、科学的にも絶対必要な措置なんです。熱中症は防ぎ得る「労働災害」であることを分かってもらうため、朝礼や昼礼、さらには、毎月開催の災害防止協議会や安全大会の場を通じて、根気強く、何度も繰り返し伝達を行ってきました。

その結果、現在では現場全体にこの意識が徐々に浸透しており、アラートが鳴った際には自発的に作業をストップさせる体制が実行されつつあります。昨年もいくつか熱中症の事例自体は発生してしまったものの、初期の適切な休憩と処置により、重症化・重篤化を防ぐことができたのは、この繰り返しによる大きな成果だと捉えています。

――こうした取組みの現場での運用は、どのように確認しているのでしょうか?

荒川氏 全国の施工現場に計730台の「遠隔見守り用ライブカメラ」を配備しています。このカメラは、資材の搬出入や工程の進捗確認といった通常の現場管理だけでなく、安全管理における極めて貴重なツールになっています。各拠点の管理職が複数現場をオフィスから一括で見守るだけでなく、複数の現場を掛け持つ担当監督が、外出先から自身のスマートフォンで現場の安全状況をリアルタイムに確認・監視できる体制になっています。

全国の施工現場に計730台に配備されている「遠隔見守り用ライブカメラ」

歩み寄るのは元請から。多言語ツールで外国人作業員の命も等しく守る

――大東建託では、多くの外国人作業員が従事されていますが、どのような安全・熱中症対策の工夫をしていますか?

荒川氏 2025年度の実績では、外国人作業員数は7,970名に達しており、全体の12.2%を占めています。彼らの安全を預かる立場として、言語の壁をいかに乗り越えるかは非常に重要なテーマです。

具体的な対策では、現場内に最大7ヶ国語に対応したピクトグラム付きの熱中症啓発看板や禁止事項のポスターを掲出しています。「めまい」「吐き気」「意識障害」という危険なサインや発症時の応急処置フロー、緊急連絡先をイラスト交えて多言語で分かりやすく表現したものです。

安全管理課が現場パトロールに赴いた際にも、外国人の作業員に直接ポスターを指差しながら「この文字の意味、分かる?」と声をかけるようにしており、「これなら分かります」という笑顔の返答をもらうと、現場への歩み寄りとして作って本当に意味があったと実感しますね。

ベトナム語の熱中症対策を促進するポスター(対策1:こまめに水分・塩分を補給しよう! 対策 2:涼しい場所で休憩しよう!)

さらに一歩進んだ取組みとして、外国人作業員の中でとくに割合の多い「ベトナム語」と「インドネシア語」の2ヶ国語に対応した「送り出し教育ツール動画」を独自に制作し、事業主の教育にも元請として安全ツールを提供しています。

動画には、一般的な建設現場への入場ルールだけでなく、大東建託独自のハウスルールや熱中症対策の細かな決まりごとが盛り込まれています。これを協力会専用のWEB掲示板にアップロードして、各会員事業主が外国人を雇用・配置する際の教育用資材として自由に活用できるシステムを構築しました。

彼らが日本に技術を学びに来てくれた大切な仲間であるからこそ、単に「早く日本語を覚えなさい」と突き放すのではなく、元請の側から教育環境を整備して歩み寄っていく姿勢こそが、外国人労働者の災害ゼロを達成するためには不可欠ですから、「送り出し教育」でも積極的なフォローとサポートを行っています。

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――最後に、今後の抱負と建設業界全体の安全向上に向けたメッセージをお願いします。

荒川氏 私自身、安全管理課という部署でこうした大役を担わせていただいていますが、
数年後には現場の管理者となります。しかし、どの立場であっても、現場の命を守るという意志は変わりません。

私たちが実践しているこうした一連の取組みが、いずれは宝のように磨かれ、大東建託の現場だけでなく、日本の建設業界全体における「当たり前のスタンダード」になっていくことを願っています。

建設現場で働く皆さまが、夏になれば当たり前に涼しい高性能な作業着を着て、快適で綺麗なミスト付きのトイレを利用し、AIやウェアラブル端末に見守られながら、誰一人命を落とすことなく健康に家へ帰る。そんな安全な職場環境を業界全体が一体となって作り上げることができれば、これほど嬉しいことはありません。

これからも施工パートナーの皆さまと手を取り合って、労働災害ゼロ、熱中症による重症化ゼロの達成に向けて、一歩一歩着実に挑戦していきたいですね。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。