サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)の改良工法
とある「契約後VE方式」の工事現場で、地盤改良に対する発注者の要求レベルが非常に高い、という困難にぶち当った。
しかし、私は地盤改良の専門知識をもとに、サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)の弱点を改良し、入札後VEに十分に対応することができた。
それだけでなく、この契約後VE方式の現場では、新工法として地盤改良工法の発展に寄与することもできた。
サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)の弱点を改良した、当現場での施工方法について紹介したい。
契約後VE方式の地盤改良工事
この工事は、契約後VE方式により行われ、施工方法は効率的で安価なものに限定された。
施工箇所の地盤は、N値3~10で細粒分含有率5%程度の非常に緩いマサ土である。
そのため、粒度分布による液状化判定では「特に液状化の可能性あり」と判断された。また本工区では、重要港湾として岸壁背面の恒久的な液状化対策も必要とされた。
標準断面図
土の性質改良を原理とする工法の選定
恒久的な液状化対策としては、液状化の発生そのものを防止する対策が必要とされた。その中でも土の性質改良を原理とする工法である。
土の性質を改良する液状化対策工法の候補としては、密度増大工法、固結工法、置換工法、地下水位低下工法が考えられた。
しかし固結工法は、工費とランニングコストの面で現実的でなく、置換工法は工費と土砂処分場所の確保の面で、地下水位低下工法は本工区が海に面しているため、締め切りに対する工費とランニングコストの面で採用することができない。
そこで、密度増大工法について検討したが、施工実績が最も多く、大深度(20m以上)に対応できるサンドコンパクションパイル工法(SCP工法)が妥当であると考えた。
効率的で安価なSCP工法への改良
しかし、サンドコンパクションパイル工法(SCP工法)にも弱点がある。バイブロハンマーの振動により、振動棒先端部周辺で過剰間隙水圧(人為的な液状化現象)が発生し、振動エネルギーを周辺地盤へ効率的に伝達できない点だ。これでは締固め効果が広範囲に及ばない。
そこで私は、過剰間隙水圧の上昇を打設時に吸水することによって抑制する吸水装置を振動棒先端部に取り付ける改良を行った。
以下に、振動棒先端の吸水装置の改良点を示す。
- 吸水装置は、連続吸水が行えるように装置を2セットとし、作動タイミングは、一方が吸水しているときは他方は排水するようにした。
- 大深度排水を可能にするため、真空ポンプで吸水した水を切替えバルブにより空気圧縮機に切替て地上に排出した。
- 吸水部の目詰まり対策として、実験により給水筒を長さ40cm・φ50mm、吸水孔をφ6mm・間隔20mmとした。
振動棒先端部の吸水装置
SCP工法と改良型工法の比較実験
上記の改良型工法の効果について、SCP工法と比較するため、現地で実験を行った。
施工箇所が設定された地震動により液状化しないためには、改良後N値を10以上にしたい。そのためSCP工法での設計上の打設間隔は2.1m(正方形配置)とした。
そこで、SCP工法の打設間隔を1.5m、2.1m、3.0mとし、一方、改良型の工法は吸水効果を考慮して2.5m、3.0m、3.5mとして実験を行った。
結果は下表の通りである。
試験施工結果
SCP工法では2.1m、改良型工法では3.0mが妥当な打設間隔であると判断した。 そして工事は、改良型の工法により打設間隔3.0mで施工。施工途中と施工完了後の標準貫入試験による確認ボーリングではN値10以上となり、この改良型の工法を採用すれば、砂杭打設間隔を拡張しても改良効果が十分であることが実証された。
砂杭本数はSCP工法の半分、工費は8割弱で施工
結果として、砂杭本数はSCP工法の半分、工費は8割弱で施工できた。
周辺には岸壁前面にケーソン構造物があり、当初から打設による影響が懸念されたため、挙動観測を行いながらの施工であった。しかし、打設完了後のケーソンの変位は水平変位陸側へ20mm、鉛直変位-18mmで岸壁の機能には影響しなかった。
ただし、変位量が更に厳しく制限される施設の近接施工を行う場合は、振動を伴わない静的装置への改良が必要となる場合もあると思われる。
以上、地盤改良の専門的知識をもとにSCP工法の弱点を改良し、入札後VEに十分対応すると同時に、新工法として地盤改良工法の発展に寄与した事例を紹介した。
地盤改良工事におけるアイディアの一助になれば幸いである。