工事成績評定90点を目指した道路改良工事
小さな町の商店街で道路改良工事の現場を担当したときの話です。それはメインストリートの排水構造物や舗装の打ち換えをする工事で、道路沿いには商店や事務所がたくさん建ち並んでいました。
私は、担当する現場が決まると、まず工事成績評定を何点もらうか決めているのですが、その理由は、良い仕事をしたバロメーターにもなるし、個々に条件の違う現場において、自分のすべき仕事が明確になるからです。
当現場では、工事成績評定90点を目標にしました。この現場では、品質管理や安全管理などはもちろんのこと、地元・沿線に対する手厚い対応や明確な工程管理に、特にウェイトを置く事が挙げられました。
パン屋の定休日に合わせて施工実施
私はまず、数百軒はあるお店や事務所などに、工事の内容を書いたチラシを持って、一軒ごと挨拶に回りました。
現場に従事したことがある方にとっては、「あるある話」かと思いますが、地元の方が関係する工事を進める場合、必ずと言って良いほど少し口煩い方がいらっしゃいます。この現場も例外ではありませんでした。
当工事に置ける厄介なクレーマーは、メインストリートにあるパン屋の店主でした。お店に挨拶に伺った時の第一印象は、かなり閑散とした不人気店。しかも、僅か数百メートル離れた所にもパン屋があり、明らかにそちらは繁盛店でした。
挨拶に行った際の店主の第一声は「ウチの店、潰す気?お店の前は仕事しないで」でした。
私は誠意を込めて説明した後で「どうしたら、仕事をさせてもらえますか?」とお願いしました。すると店主は「店が休みの日だけ、やるならいい」と言うので、平日の1日だけある定休日を利用して、そのお店の前の工事を行いました。
古い側溝を撤去して、新しい物に換えるだけなのに、3週間もかかりました。そして、その都度、進捗の状況や次回の予定なども店主に伝えていました。
しかし順調に工事が進み、最後の舗設だけというところで、再度説明に行くと、その日は特に虫の居所が悪かったのか、こんな事を言われました。
「もうこれ以上、勘弁してよ!発注者を呼んで来いっ!」
その後、発注者の監督員と一緒に説明に行ったのですが、今度は怒鳴られてしまいました。「アンタは、どうせウチの店の事なんて、どうでもいいと思っているんだ!もう工事なんか止めてくれよ!」
お店の外に出た瞬間に、発注者の前でしたが、涙が込み上げてきました。誠心誠意を尽くして、地元の対応に当たっていただけに、そんな風に言われた事が、本当に悔しかったのです。
家族連れでクレーマーを説得し、工事成績評定の地元対応は満点
気が抜けたような状態で家に帰ると、妻に何かあったのか聞かれました。出来事を一通り説明すると、妻から「仕事が休みの日に、家族でパンを買いに行ったら?」と提案されました。
本当は、あの店主の顔も見たくなかったので、最初は行く気がしなかったのですが、自分の小さなプライドのようなものを捨てて、休日に家族を連れて買いに行くことにしました。 すると、子どもを連れて行ったせいなのか、いつになく柔らかい口調の店主。「個人店舗は、大変なんだよ。あと、もう少しなんだろう?工事また頼むよ」
店主から理解を得た後、舗設等の作業を進め、無事に工事を完成することができました。工事成績評定は89点。出来ばえの項目で些細な減点があり、目標点にあと一歩届きませんでしたが、地元への対応や工程管理などは、見事にパーフェクトでした。
色々な現場で、沢山の地元の方々と接してきましたが、この現場は特に記憶に残る現場でした。そして、施工管理の仕事は自分一人の力だけで行うものではなく、「他人の力を借りる事も時には必要」という事を実感させられた現場でもありました。
妻の発案がなければ、後味の悪い形で工事が終わっていたかもしれません。誠意を見せるために家族連れで住民対応することも、ときには施工管理の一手段として覚えておいても良いかもしれません。
89点も頂いたのですか。表彰ものですね。どこの地方か知りたいです。