虚偽書類が増える建設業界の闇
施工管理技士が作成する書類は工事の届出や、産業廃棄物関連など多岐にわたる。そして、そうした施工管理の書類の中には、いわゆる虚偽書類が大量に出回っている。
例えば、大阪府東大阪市が発注した2017年度の水道工事では、施工業者が虚偽書類を提出していたことが発覚した。不正行為を働いたとして処分を受けた業者は17社にも上り、半年間の入札参加停止処分を受けている。
東大阪市役所では、上下水道工事において地面を掘削した後、埋め戻す際に改良土を使用するように取り決めていた。しかし、施工業者は建設発生土をそのまま埋め戻し、市役所には改良土を使用したとする虚偽の証明書と伝票を提出していた。
これだけではない。つい最近も前田道路が加担した形で、堺市発注の上下水道工事で同様の事件があった。
では、なぜ施工業者は虚偽の書類を提出したくなるのか?現場目線で建設業界の「闇」をのぞいてみたい。
公共工事の費用削減に伴う施工業者の利益率減
まず施工業者が虚偽書類を作成したくなる一番の要因は、施工業者の利益が上がらないという点である。不正は絶対に許せないが、私自身、虚偽書類を提出したくなる施工業者の気持ちは分かる。
事実、公共工事の経費を削減され、普通に工事をしてしまうと赤字になってしまう工事が多いのである。厳密に言えば、利益の出る工事のほうが少ないと言える。「経費が削減されているのだから、少しでもどこか材料などで費用を浮かせて赤字を避けなければ会社が成り立たない」という思いが現場にはあるのだ。
私は、施工業者が虚偽書類を提出してしまう背景には、工事の直工費自体が下がってしまったことが深く関係していると考えている。
進歩し過ぎた施工現場の情報デジタル化
また最近では、デジタル技術の進歩が書類偽造に一役買ってしまう可能性も高まってきた。ICT技術は非常に便利なのだが、虚偽書類を作成しやすくなっているのは事実である。例えば「工事写真」が一番分かりやすい例である。
実際、工事写真にまつわる虚偽書類で処分を受けた施工業者が出てきた。道路舗装工事において、昼間に施工を行っていたが、写真編集ソフトのフォトショップを使用して背景を夜にした。そして夜間に施工したことにして、費用を不正に多く受け取っていたのだ。告発があって全てが明るみに出たので、この施工業者は処分を受けたが、虚偽書類を作成しやすい環境になってしまったことは事実である。
写真を編集するフォトショップや、ワードやエクセルの機能をふんだんに使用すれば、社員などの印鑑も偽造できてしまう。建設業で有名な写真整理ソフト◎◎◎でも、黒板の誤記などを写真の画面上で塗りつぶし、文字を差し替える事が出来る。元々この機能は便利なのだが、その気になれば間違った使い方もできてしまうから考えものである。
デジタル技術の進歩に伴い、われわれ施工業者の良心も問われていると言えよう。
デジタルに頼りすぎも危険
また最近の多くの企業で「オンライン会議」が取り入れられている。大手のゼネコン会社では、検査時などでも使用することがあり、時間の効率化として注目を集めている。
しかし、現場にいない人間を騙すことは簡単だと思わないだろうか。虚偽書類を作成する人間の心理として監視が甘ければ、バレる危険性が少ないと思うはずだ。東大阪市の偽造事件を例に想像してみても、埋め戻しの状況確認がオンラインだけの場合、表面に改良土を使用して、下のほとんどを掘削土にしておけば欺くのは簡単である。
虚偽書類の作成を未然に防ぐのであれば、工事責任者が検査などはしっかりと立ち合い、「実際に目で確認する」ことが重要である。
素晴らしい技術が進歩していく一方で、検査などもオンラインで済ましてしまうのはいかがなものだろうかと考えている。
虚偽書類は施工業者の悲鳴
虚偽書類が増えていくのは、ある意味「施工業者からの悲鳴」だと私は考える。不正に肩入れするつもりはないが、はっきり言って、私自身、今の工事単価の厳しさに頭を抱えている。こういった背景を払拭しなければ、不正に手を染めてしまう業者は、いなくならないであろう。そして犯罪行為の時ばかり、建設業が大きく報道され、さらにイメージが悪化する懸念もある。
工事の材料費は上がっているのに、従来よりも安く施工してくれという担当者が多いのだから、施工業者は赤字だらけである。 虚偽書類を許してはならない一方で、工事単価の見直しも大きな課題なのではないだろうか。
と同時に、技術者としての倫理を今一度、胸に刻みたい。
土木技術者倫理規定の倫理綱領
土木技術者は、
土木が有する社会および自然との深遠な関わりを認識し、
品位と名誉を重んじ、
技術の進歩ならびに知の深化および総合化に努め、
国民および国家の安寧と繁栄、
人類の福利とその持続的発展に、
知徳をもって貢献する。(公益社団法人 土木学会 土木技術者の倫理規定より)