地熱掘削工事の実態
掘削工事といえば、誰もが建設業を連想すると思いますが、石油や地熱エネルギー、温泉などを得るのに欠かせない深度の掘削工事は、ちょっと異質な世界です。
例えば、地熱掘削の現場は基本的に24時間稼働であるため、建設業の中でもダントツに拘束時間が長くなります。
私は大学で地質調査を学び、新卒で地熱掘削の元請け会社に就職しましたが、入社前のイメージとかけ離れた地熱掘削の実態に驚きました。
私が入社後、最初に配属された現場は、九州のとある地熱掘削現場。全長40mの掘削リグで1000mを超える深度の掘削の施工管理を、所長の補助役として担当しました。
――この地熱掘削の現場の実態について、一人でも多くの方に知っていただきたいと思います。
地熱掘削業は拘束時間が建設業でダントツ
まず私が地熱掘削の業界に入って、1番驚いたのが拘束時間の長さです。
掘削工事は、掘削坑の壁面が崩落する恐れがあるため、基本的に24時間稼働しなければなりません。
作業員や施工管理部隊は、昼(8:00~20:00)と夜(20:00~8:00)の2勤交代制。人員が十分な現場であれば3班でローテーションし1班は休めますが、人員不足がデフォルトの掘削業界は2班体制が基本です。
なので現場稼働中は休みがありません。また夜勤中にトラブルがあれば、夜中でも電話が鳴るので、所長は頻繁に呼び出されます。
24時間仕事に尽くせる人でなければきついのが、地熱掘削の世界です。
地熱掘削業は僻地出張の繰り返し
掘削現場は、石油地帯や地熱の存在する火山地帯など、基本的に開発されていない場所が多いです。そのため通常の建設業よりも、さらに僻地での現場作業となります。
大きい現場では工期が短くても半年。僻地に缶づめ状態です。また、宿も相部屋が多いので、プライベートはありません。私の場合はそれに加え、毎日、晩酌を付き合わなければなりませんでした。
所長いわく「家族に会えるのは年100日もない」。——私もゆくゆくは結婚したいので、子育てを完全に任せられる家庭環境が必要な仕事です。
特殊すぎる掘削工事の職人
私と同期入社したA君は、研修の一環で現場作業に従事し、毎日怒鳴られていました。
ある日、ベトナム人の作業員がパイプレンチを現場に置いたまま帰ったことがあり、翌日それを見た職長さんは何も言わずに、A君のお腹を殴りました。結局、A君は翌月退職しました。
――掘削工事の世界は、他の建設業種に比べても、かなりマイナーで古い体質です。
職人さんは気性が荒く、掘削現場での労働環境は、かなり過酷でネガティブな一面もあることは否めません。
しかし、石油や地熱が噴出した際の興奮はたまらないものがあります。労働環境が悪いだけで、掘削業界から人がいなくなるのは残念です。
私は今後、地熱掘削の現状と魅力を多くの方々にお伝えし、改善の方向に持っていきたいと考えています。