中堅ゼネコン、エム・テック破綻 冨士工に吸収合併構想も

中堅ゼネコン、エム・テック破綻 冨士工に吸収合併構想も

埼玉県に地盤を置き、土木に強い中堅企業のエム・テックは10月1日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し同日、保全命令を受けた。負債総額は債権者887名に対して、約253億4,000万円。債権者説明会は10月4日、ベルサール東京日本橋(東京都中央区)で開催された。

エム・テック告示書

建設業界が好調である中、なぜ破綻したのか。今回、第一報を報じた東京商工リサーチ情報本部情報部の増田和史氏や、建設業界関係者による解説のもと、民事再生に至った「内幕」を追った…。


下請への未払いで芳しくない評判

まずはエム・テックがどのようなゼネコンか説明しよう。創業者の松野浩史氏はPC橋梁で本州四国連絡橋工事プロジェクトリーダーとして瀬戸大橋を担当し、その完成とともに独立して、1988年に会社設立した。橋梁工事に強い実績を持つ。

2009年には元東証一部上場企業だった勝村建設が2度目の民事再生で倒産した際、スポンサーとして名乗りを上げ、注目を浴びた。その後、全国区の知名度になり、日本建設業連合会などにも加盟した。国土交通省など官公庁工事の受注に強い。

エム・テックが入居しているビル

しかし、松野氏の個人的なパーソナリティーによるのか、建設業界内での評判は極めて悪かった。というのも、下請に対する未払い金が多く、なかなか払ってくれないというクレームもかなり寄せられていたようだ。現在の社長は、向山照愛氏だが、向山氏は勝村建設最後の社長でもあり、エム・テックと合わせて2回目の倒産劇を迎えることになった。


創業者のワンマン経営がアダに

エム・テックの関係者は言う。

「創業者の松野氏はワンマンで、下請への10万円くらいの支出でも了解が必要だった。下請からは当然評判が悪い。向山社長に代替わりしても実権は松野氏が握り続けた。向山社長は傀儡と言って良かったんです」

売上高は悪くなかった。第28期では売上高約245億6,000万円、第29期が約242億2000万円、第30期は244億2,000万円。しかし経常利益は第28期が6.9%、第29期が1.9%、第30期が1.3%と悪化していた。

それに建機・トラック販売のPROEARTHが151億円の負債を抱え、東京地裁に民事再生法の適用を申請した(その後破産)。その際、エム・テックがスポンサーに名乗りを上げた。しかし、その後スポンサー企業を下りて話題になっていた。

30年3月、一部の公共工事で手続きの不備や施工上の問題が発生、東京地検から港則法違反で起訴された事で200以上の自治体から指名停止処分を受ける不祥事が発生。これを機に新たな公共工事を受注できなくなり、資金調達にも支障を来した。

一連の経緯を経て金融機関はエム・テックに対して厳しい姿勢に転換、資金繰りも厳しくなり、今回の措置になった。

冨士工がエム・テックの新オーナーに

関係者によるとエム・テックは8月時点で現金が枯渇していたようだ。そこで、松野氏は冨士工と折衝し、借金を申し出た。

「松野氏は冨士工に当初5億円、続いて10億円の追加融資をお願いし、その代わりエム・テック株過半数を担保にしていました。しかし、9月末の決済が乗り切れない状態になり、株が厳密に言えば冨士工会長会社の拓正に移転した時、民事再生に同意してもらいました。ですから、約15億円でエム・テックが冨士工に渡ったとも言えますね。エム・テックの大安売りです」(エム・テック関係者)

しかし、不良債権がどれだけあるかという声もある。都内の建設業界紙で業界事情通は言う。「冨士工も最近いい話を聞いていないが、不良債権がどれだけあるか予想も付かないが、15億円でエム・テックが買えるのはいい買い物だ」

特に冨士工は建築に強い。ここで土木に強いエム・テックを傘下に入れるのであれば、メリットは大きいと言える。

今後、エム・テックは、総務系などの管理部門をリストラし、PC橋梁などの技術者は残ることが予想されるが、これはエム・テックがかつて勝村建設に行なったことでもあり、歴史は繰り返す。当時、勝村建設も水道系、住宅系などの技術者がエム・テックに残ったが、総務系はリストラされた歴史がある。

そして勝村建設の2度目の民事再生の申立人代理人弁護士は栃木義宏氏と柳澤憲氏。今回のエム・テックも同様、こちらでも歴史を繰り返した。


魅力的なエム・テックの技術人材

ある建設企業の技術者は言う。

「エム・テックは建築・土木で資格者・経験者は100名以上いる。実は、ある企業からは、この人材に魅力を感じて、引き抜きの話もある。しかし、冨士工は、1人1人引き抜くよりも会社ごと買ったという感じだね。なかなか頭がいい」

ちなみにエム・テックは9月6日に取締役会を開き、天下り組や創業者一族はすべて退任した。

10月4日の債権者説明会には創業者の松野氏は欠席。この姿勢に対しても批判が飛んだ。実は、同族系やオーナー系は攻めの時は、マスコミなどに登場するが、弱くなると雲隠れするケースが多い。ここがオーナー系建設会社の弱点とも言える。

下請からは、「松野氏は出てきて弁明すべき。倒産すべくして倒産した。この弁済計画は納得いかない」と怒りを隠せない。さらにショックなのが弁済は3%の提示のみだったことだ。たとえば1000万円の資機材を納入していれば30万円しか返ってこないということで、下請や資機材納入会社は一様にショックを受けている。

ショックを隠せないエム・テックの下請

一時期、エム・テックと取引をしていた足場会社は、その後取引を停止した。逆にライバル会社の足場会社はエム・テックの取引にのめり込み、かなりの苦境に陥っている。

取引を停止した会社のいい分は、「エム・テックの取引はギャンブル。カネが返ってこない場合もあり、ウチは一定のルールに基づき、与信も行なった結果、取引を停止した。ライバル会社が取引にのめり込んだのはやはり、イケイケどんどんの社長のパーソナリティーが裏目に出た。4,000万円以上の損失が出たのはショックだと想像している」

また、別の下請は取引については、「正直に言うと、ババ抜きの面も否めない。エム・テックはまさにババであったが、ババであったことに気がつかない下請もあったことは気の毒に思う」とのコメントもあった。

東京商工リサーチの増田氏は負債総額約253億円の大規模建設倒産について、「恐らく連鎖倒産も発生するのではないか」と分析する。今年の建設業の倒産で最大規模は負債総額24億円だったが、今回のエム・テックはその10倍。活況を呈する建設業にあって、いかに異例の倒産劇だったかを物語っている。

「指名停止があったにせよ放漫経営に近かった。ですから建設業全体の問題ではないと思います」(建設業界紙記者)

「負債総額が253億円あっても、手持ち工事を300億円抱えているというのは冨士工にとっても良いこと。工事を遂行し、身ぎれいにすれば再建案も場合によってはスムーズに進む可能性がある。もちろん、再建は下請業者などの犠牲があって進むということを忘れるべきではないと思いますが」(増田氏)

名門・勝村建設の遺伝子を引き継いだエム・テックだが民事再生で多くの工事がストップし、中には東京五輪の関連工事もある。それを冨士工が引き継ぐ可能性がある。ただし、冨士工の楚山 和夫社長も、「今回の説明会ではじめて聞く話もあり、少々怒っている」と発言しており、100%スムーズに再建が進む確約ができないのが実情。場合によっては、財務があまりにも酷ければ破産する可能性がある。放漫経営の行き着く先の見本とも言えたエム・テックの民事再生劇であった。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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