超高層ビルが揺れる「長周期地震動」の怖さ
油圧機器メーカーKYBによる「免震・制振装置」の検査データ改ざん問題が報道された。
高層ビルの最上階ですばらしい眺望を楽しんでいる時に、「地震が起きたらどうなるんだろう」とふと考える人も増えたはずだ。
しかし、データの改ざんがなく、ちゃんと設計されているビルでも、いざ大地震が起きれば高層階は揺れるはずだし、そんなところにいたら、飛んできたモノにぶつかって怪我をするかもしれない。
地震動を相殺する大成建設の「T-Mダンパー」
超高層ビルがもっとも揺れるのは、ゆっくりした地震動によって高層ビルが大きく揺れる「長周期地震動」がきた時。
2011年の東方地方太平洋沖地震では、震源地からかなり距離のある東京や大阪にもこの「長周期地震動」が伝わって高層ビルが大きく揺れた。
この「長周期地震動」に有効な対策として、大手ゼネコンの大成建設は、5.6tの巨大なおもりで地震動を相殺できる「T-Mダンパー」を開発した。
地震時に、建物のゆれに対して逆方向に振り子がゆれることで、建物の振動エネルギーを吸収してゆれを抑えることができる。
大成建設が開発したT-Mダンパーの原理図
なんと、高さ200m(50階建て相当)の超高層建物の場合、最大30%のゆれを低減できるという。複数設置すればかなりの効果が期待できる。
3段に配置した振り子が3.3秒に1回の周期で揺れる
振子式大型制振装置「T-Mダンパー」の設計のベースになったのは、もともと大成建設が高層建物の「風ゆれ対策」に使っていた多段階振子装置。3段に配置した振り子が、3.3秒に1回の周期で揺れて地震を吸収する仕組みで、その性能を生かし、よりパワフルな地震用に作り変えた。
屋上設置型で新築・改築どちらにも設置可能だ。
ダンパーで対策をした場合の効果
東京都内は高層ビルが建築ラッシュだが、2017年、国土交通省が高層ビルに対して、南海トラフ地震で発生するかもしれない長周期地震動に対する検討を義務付けた。
今後着工する建物を含めて、全ての高層ビルで長周期地震動への対策が必須となり、ダンパーの出る幕も増えそうだ。
T-Mダンパー 実証実験で性能保証
大成建設は今年に入り、三菱重工機械システムと共同で、「T-Mダンパー」の性能実験を行い、改めて性能を実証した。
T-Mダンパーの大型試験装置
使用したのは前後・左右・上下の3軸方向に振動を加える実験装置。「T-Mダンパー」の3分の1の大きさの試験装置を制作し、装置で加震して振子の周期や作動状況を検証した。
結果として、「T-Mダンパー」は揺れに対してスムーズに作動し、シミュレーション解析結果どおりの振子周期であることが確認できた。数値解析で想定した作動状況とも一致し、安定した制震効果が得られることも確かめられた。
効果が確かめられた「T-Mダンパー」は、南海トラフ地震への備えとして、高層ビルへの設置がますます広がるだろう。