23回の屈辱を経て「行政の土木臨時職員」として働くコマチアイコン(仮名)さん

「私も現場に連れてって」女性が安心して働ける土木の職場に

建設業界でも土木技術者(女性)の雇用を増やすために様々な政策が導入されている。しかし、現場目線からすると、そのほとんどが建設業の現場事情を理解されていない方々が机上で考えた「単純なハード面」ばかりに思える。

例えば、現場に設置する仮設トイレの美化。所詮どんな設備投資をしても仮設トイレという不安はぬぐえないのではないか。

専用シャワー(女性)も色々面倒だと思う。現場管理で多忙な中、いつ利用するのか。清掃はだれがするのか。公共の目にさらされている建設現場では、女性専用であることが却ってセキュリティーの面での心配もあると思わないか。

女性が求めているのは、お金をかければ解決するハード面だけの対策なのだろうか。他にやるべきことがあるのではないか。どうしたら日本の建設現場も、あまたの女性が働く姿を見ることができるようになるのか。

長年、土木業界で働いてきた男として、女性から「私も現場に連れてって」と言われるような幅広い年代にとって魅力のある業種にする方法を考えてみたい。


行政の土木臨時職員として働くコマチアイコン

男性には関係ない。そんなことを言わずに、女性のライフイベント毎に待ち受ける不安を、まずは知ってほしい。働く女性に対する厳しい社会的圧力のような現実を。

これは製造業の事務職を10年間、医療事務員として5年、現在は行政の土木臨時職員として働くコマチアイコン(仮名)さんが実際に経験した話だ。

働き方改革で、女性の活躍推進を進めるという華やかな政策を進めている一方で現実は厳しく、今でも女性の就業にはライフイベント毎に3つの大きな障壁が待ち受けている

婚姻

10年間働いて愛着のあった製造業の事務職だった。仲の良い同僚にも恵まれていた。それが結婚したら、女性にそぐわない現場へ部署移動となる。怪我をしたり体調を崩したら大変だ。自ら退職した。

「いやなら辞めてください」的な事実上の解雇だった。この会社の経営者は家庭を持てば家事や育児で仕事が疎かになっては困ると考えていたのだろう。

アイコンさんが退職直後、新たな事務員の求人報告が出されていたという。採用された方は、未婚の女性だった。

育児

努力家のアイコンさんは、婚姻すれば解雇されることを予想していた。用意周到で勤務中に医療事務の資格を取得する。数社、調剤薬局の面接試験を受けようやく採用された。既婚者でも採用してくれたことを喜んだ。

・・・5年間後。信じられない事に、子供ができると同時に解雇となってしまった。白衣を着て人の役に立てるとやりがいを感じて勤務した医療関係の仕事。2回目の屈辱。「なぜ、医療の現場でもこんな事に」悔しさに涙した。

復職

ある程度の学歴や社会経験があっても育児中であれば採用のハードルは高くなり、書類選考の時点で落とされてしまう。事務系正社員の求人には多くの女性が就職を希望する。

採用の順位は当然、独身女性が優先となるケースが多いようだ。運良く面接にこぎつけても、まず始めに「お子様はいますか?」と質問されてしまう。これで23回目。返送される履歴書が涙で濡れた。

「もうやめよう、正社員は無理。時間の無駄」と5年契約ではあるが行政の臨時職員に就くことに決めた。

職場の配置転換で自主退社に追い込まれる。出産や産後休暇で休職する社員は退社させ、繰り返し代わりを雇用する。子供がいれば、家庭の用事で仕事を頻繁に休まれては困るので採用は断るのか。これは雇用に関する決まりに反していないか。女性であることを理由に男性と差別的に取り扱われることは禁止されているはずなのに。

働き方改革の前に男性の考え方を改善すべし

国で定められている「当たり前」が通用しない現実。理不尽で悲しい思いをしている女性は大勢いると思い同情する。

優れた社会スキルを持った女性が「働きたくても働けない」。これが事実であれば社会的な損失だと思う。婚姻や育児が理由で社会の歯車に戻れない焦り。経験した者でなければわからない。建設業に従事される女性にも、将来の不安やこのような悲しい思いは決してさせてはならないと思う。

反面、働くごく一部の男性はどうだ。家事も育児も女性まかせ。洗濯も料理もできない。仕事や役職だけで社会的身分を評価される。「俺がやった現場だ」とカリスマ気取り。自己満足に浸って仕事やゴルフ、飲み会しか頭にない。

働き方改革の前に男性の考え方を改善したほうがいい


政府主導の土木業から女性雇用の増進を

行政は一億総活躍、女性活躍推進法を進めている。さらに建設業では5年間で女性雇用の倍増計画もあった。表面的に思える目標に向かっていたようだが本気度が見えない。効果はあったのだろうか。

優秀な女性が「働きたいのに働けない」。これは「働き方改革」以前の問題だ。建設業でも「ジェンダー問題」を打破しない限り女性の雇用は増えない。

産業別就業者構成割合で全産業の約10%を占める建設業。就業者は約500万人で全産業の8%ともいわれている。この政府主導業界から女性の不安を一切排除した、思い切った政策を打ち出し、本気で女性雇用の増進を進めてみたらどうかと思う。

仕事の注文主である、お役所が決めた施策を推進されれば、やらざるをえない。この業界の取り柄を踏み台にできればいいと思う。

行政が民間業者の技術方針に関与と協力が可能な業界の強み。他産業には類いまれな半行政指導型の方式を逆手に取りたい。斬新な女性雇用政策を立案して情報化施工やアイ・コンストラクションのように民間に浸透させてみたらどうか。

建設業が率先してライフイベントの「働けない現状」を改善すれば、女性雇用面で他産業にリードを取るばかりではなく、思わぬ建設業界のイメージアップが期待できるかもしれない。

年号も変更され新しい時代に入った。建設業業界は「男女」から「女男」へ。「私も現場に連れてって」といわれるような幾万の女性が安心して働ける、女性を尊重した魅力ある職場を創っていくことができればよいと思っている。

※施工の神様は「現場の声」や「建設業界での体験談」を広く募集し、掲載しています。ぜひ、お気軽にご寄稿ください。施工の神様 体験談募集中

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地場業者の一介の土木技術者ですが、日々最先端の技術を追求しています。一級土木施工管理技士、コンクリート技士。技術系の受賞経験多数。
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