「工事写真業務=残業」の時代が終わる
工事の工程で必ず行う工事写真撮影は、発注者への品質証明のためにも欠かせない重要な業務だ。現場によっては、1日で数百枚、合計で数千~数万枚撮影することもある。
従来は黒板にチョークで情報を書いて、黒板を持つ人と写真を撮る人の2人がかりで撮影していた。さらに事務所に戻ってからはパソコンで大量の写真を整理し台帳に工事情報を入力するなど、1枚1枚こなしていく作業は膨大で残業は増える一方だった。
しかし、ここ数年で工事写真業務の効率化が急速に進んでいる。数年前から「電子小黒板」の現場への導入が始まると、受発注者双方の業務効率化を目的に、今年の3月には国交省が「今年度以降発注のすべての営繕工事において電子小黒板を”原則導入”」と発表した。
将来的には「電子小黒板でないと受注できない」なんて時代も来るかもしれない。だが、まだまだ「木製黒板にチョーク」の現場は多く存在している。
そこで、電子小黒板シェアNo.1の「蔵衛門」シリーズを開発・販売している株式会社ルクレの伊東桃子さんに、「そもそも電子小黒板って何?」という基本的な部分から話を聞いた。
工事写真の作業時間が最大85%削減
――そもそも、電子小黒板って何ですか?
伊東 工事写真の撮影に使用する黒板を、デジタル化して撮影できる端末やアプリケーションのことです。建設業界の人手不足が深刻になる中、工事写真業務の効率化を目的に2013年ごろから使われ始めました。
当初は「黒板をデジタル化すると、改ざんができるのではないか」という発注者からの懸念もあったんですが、今では改ざん検知機能を搭載している製品も増えてきているので、理解も深まっています。
――導入が進んでいったきっかけは?
伊東 2017年に、国交省が直轄工事での利用を認可したのが大きいですね。操作が簡単で導入しやすいのと、すぐに効果を感じられるのも理由の一つだと思います。
――電子小黒板のメリットは?
伊東 主に「業務効率化」「写真品質の向上」「安全性の確保」の3点ですね。
「業務効率化」の面では、従来の木製黒板とデジカメを使用した撮影方法ですと、黒板を持つ人と撮影をする人の2人が必要でした。
これが電子小黒板だと、撮影画面に小黒板を投影しながら1人で撮影ができるようになります。
電子小黒板による撮影のイメージ。画面に黒板を投影しながら、一人で撮影できる
それに、木製黒板は何枚も持ち運べないので、現場で黒板の内容を書き換える必要があります。電子小黒板だと複数の黒板データをあらかじめ登録しておけるので、現場では黒板を選ぶだけです。
電子小黒板のイメージ。文字の色や配置を変えることもできる
さらに工事写真管理ソフトと連携することで、工事台帳も自動で作成できます。写真は工事場所や工種ごとに自動で仕分けられ、黒板に書いた内容は台帳へ自動的に反映されるので、台帳作成の時間を格段に短縮することが可能です。
――工事写真業務が根本的に変わりますね。
伊東 そうですね。最近では、事務員の方が黒板と台帳の作成を担当して、現場監督は撮影のみを行うといった分業の体制をとっている企業もあります。
自社製品のPRとなってしまい恐縮ですが、「蔵衛門」シリーズの場合だと、最新機種の電子小黒板「蔵衛門Pad」と工事写真管理ソフト「蔵衛門御用達2020」を併せて使用すると、従来と比べて作業時間が最大85%削減できた現場もあります。
国交省発注の営繕工事で原則導入に
――「写真品質の向上」とはどういうことですか?
伊東 電子小黒板だと、雨でチョークの文字が消えたり、日光やフラッシュで白飛びする心配がなくなります。
それに、黒板にピントを合わせる必要がないので、対象物がボケずに全体を綺麗に写せるんです。どんな環境でも高いクオリティを担保した工事写真を撮影できます。誰が書いても視認性の高い黒板での撮影が可能です。
――最後に「安全性の確保」とは?
伊東 従来の方法では、撮影時に写真の構図を調整するために後ろに下がって穴に転落したり、高所で黒板が風に煽られたはずみで足を踏み外し落下するといった危険がありました。
電子小黒板だと画面上で黒板の位置や大きさを自由に調整できるので、最初に決めた立ち位置から移動せずに撮影ができます。サイズもコンパクトなので風の影響も受けません。
――こうしたメリットが、国交省が原則導入の方針に舵を切った理由?
伊東 そうですね。先ほども触れましたが、2017年に国交省は電子小黒板の直轄工事での利用を認可していますし、さらに今年3月にはi-Constructionを本格的に推進するにあたり、今年度以降に発注するすべての営繕工事で”原則導入”とすることを発表しました。
今年は工事写真業務の過渡期
――実際のところ、電子小黒板はどれくらい普及しているんですか?
伊東 国交省や農林水産省、NEXCOをはじめ、全都道府県やほとんどの政令指定都市で使用が認可されています。今年に入ってからは下水道事業団が認可したことで、上下水道工事でも導入が広がっています。
こうした背景から、電子小黒板の試験導入をはじめる企業は増えてきていて、全国の建設業・設備工事業者の半数以上が導入しているという調査結果も出ています。特に、大手ゼネコンでは全社導入の動きも活発になっています。
電子小黒板の導入企業が増えたことで、現場ニーズも多様化しています。それに伴い、私たちのもとにも機能追加など様々なご要望が届いており、弊社でもそういった現場のみなさんの声を元に新製品や新機能を開発し、発表しています。
――電子小黒板は一般的になると思いますか?
伊東 黒板にチョークで書いて、デジカメで撮影するという従来の方法に代わって、工事写真撮影のスタンダードになっていくと思います。まさに今が電子小黒板に移行する過渡期だと感じています。
国は”2025年までに生産性20%向上”という目標へ向けて、色々なITツールの導入を積極的に推進していますが、いくら効率化に繋がるといっても、現場に受け入れられなければ意味がありません。現実的に運用していけるのか、従来の方法と比較して、現場が期待する以上の費用対効果を生み出せるか、といった点が重要です。
そういった点では、電子小黒板は他のITツールに比べて操作が簡単で効果をすぐに感じられます。実際に、「2万枚もの写真を目視で仕分けていた作業がなくなり楽になった」「黒板が綺麗で台帳が見やすいと、発注者に褒められた」など前向きなお声をいただくことが多く、現場の方に受け入れられているなと実感しています。
――導入するときのポイントは?
伊東 電子小黒板の存在は知っているけれど、運用面や導入コストなどの不安から、様子見をされている企業様もいらっしゃいます。
無料の電子小黒板アプリもございますし、まずは試しに使ってみていただくのが良いと思います。より具体的に導入を検討される場合は、各ベンダーに問い合わせて実機を使ったデモを依頼したり、コストの相談をしていただくのもおすすめです。
ラーメンの写真撮るときに黒板に店名と食ったメニューと感想書いて記録するという便利な使い方もできる