"最後の最後までお付き合い" それが、私たち電気保安業界の人間です。

“最後の最後までお付き合い” それが、私たち電気保安業界の人間です。

※この記事は、私がコラム及び業務のアドバイスをしている「キュービクル 保安点検価格比較サイト」内のコラムより一部加筆して転載しています。

いつもと雰囲気が違う、社長からの電話

これは、私が保安業務従事者として働いていた時の話です。とある日曜日のお昼頃、一本の電話がかかってきました。電話の主は、レジャー系の会社を営んでいる社長からでした。

この社長の電話は、自分で無茶をして手に負えなくなるとかかってくることがほとんど・・・。つまり、厄介事の時にしか電話がかかってこない方なので、「また何かやらかしたのではないか」と不安を感じつつ、しばらく携帯を見つめる私。

思い返せば、社長が自分でケーブルを敷設して投光器を設置した際、草むらの中に埋設したのを忘れていたらしく、草刈りの時にうっかり切断してしまったとか、ロビーが熱いから大至急 扇風機を取り付けてくれと夏の終わり頃に言われ、メーカー在庫もない頃に扇風機の注文をした等々・・・。(本当はもっとありますよ!)

防雨対策もしてない場所にリレーを設置して、濡れてリレーが壊れてしまったとか、メーカー側の更新推奨期間が10年と言われているPAS(電柱などに設置してある遮断器のこと)を設置してから25年以上も経っていたので、何度も更新を勧めましたが一切聞いてくれず、結局ある日突然壊れてしまったと連絡があったり・・・。何度も何度も壊れる前に交換しましょうと提案しても、壊れるまで使い続けるような人でした。

ただ、どこか憎めない社長で、「やれやれ、また何かやらかしたな・・・」と思いながら電話に出たところ、あれ?いつもより声が小さい。

普段は、「おう!元気にしていたか?俺だけど!またやらかしちゃってよ!だから助けてくれや(笑)」と、こんな感じの電話で、この後言われる無茶苦茶な要望に半分呆れながら付き合うのがいつものパターンでしたが、この時は少し違いました。

社長 「もしもし?俺ですけど」

  「社長!お世話になっております。どうしました??」

社長 「実はさ・・・」

それは、”会社を閉める”という内容の電話でした。


「会社を閉める」 突然の報告

これまで、私も新設での立ち上げや工場の竣工での立会など、始まりは何度か経験していましたし、他社に変更という話でお別れという経験は何度かしてきましたが、会社を閉めるとなると話は別です。まずは、話を聞かないとどのように作戦を立てればいいのかわからないので、もう少し詳しく聞いてみることにしました。

  「どうして突然閉めるのですか?何かあったのですか??」

社長 「今まで直し直し使っていたメインの機械が、完全に動かなくなっちゃってね・・・」

  「ああ、あの機械ですか??わかりました。今日は申し訳ないのですが予定が入っているため、翌日であれば時間が作れますので、その際に詳しいお話を聞かせてください」

翌日の朝一、私は社長に会いに行きました。

静まりかえったロビーを片付ける社長

いつもなら何台かの車がとまっているはずの駐車場には、今日は社長の車と私の車しかとまっていません。そして、ロビー前の自動ドアには「都合により〇月〇日に閉店いたしました。長い間、皆様には大変お世話になりました」という張り紙が。自動ドアが開くと、社長が1人でロビーを片付けていました。

社長 「いやーーーまいっちゃったよ!まさか壊れるとは思ってなくてさ!!」

昨日よりは若干元気な声でお話を続けてくれる社長。

社長 「最初は、機械が壊れても続けようかと思って商社に連絡したんだよ!!そうしたら、購入費用が1千万超えるって!!老後の趣味の延長でやっていたから、あと5年くらいは何とかもってくれればと思いながらやっていたんだけどな・・・。サラリーマンやってる息子も継がないって言うから、もう思い切って会社閉めることにしたんだわ」

昨日よりは若干元気になった社長ですが、それがかえって哀愁を感じてしまいました。それから色々なお話をしていただきました。ある日、突然親が亡くなった関係で急遽継ぐことになったお話から、今まで接してきたお客様との思い出話など1時間以上、色々なお話を聞かせていただきました。

社長 「長話してすまなかったね!というわけで、最後の最後まで面倒見てくれや!頼むよ!!」

私が最後までサポートさせていただくことになり、嬉しいやら寂しいやら・・・。


最初から最後までお付き合いできる職業

会社整理のため、しばらくは事務所を使いたいとのことだったので、早急に電気を高圧を廃止し電灯に変更する手続きを取り、そして社内の工事部隊に連絡をして電灯で使えるように工事の依頼をかけ、最後の最後に自家用電気工作物の廃止届を関東東北産業保安監督部電力安全課に提出をしました。

社長 「最後の最後まで世話になったね・・・。これで終わると思うと、なんか急に寂しくなっちゃったよ」

社長にそうお言葉をいただき、最後の最後までお付き合いができたことは、本当に保安業務従事者冥利に尽きます。私たちの仕事は、会社がスタートするときにお付き合いが始まり、そして会社を閉める最後までお付き合いする職業です。

ただの点検をする受託者と委託者とのつながりではありますが、実際には時間が空いていればお茶をご馳走になりながら世間話をして、一歩一歩信頼関係を築いていくのもこの仕事の醍醐味ではないでしょうか。これからも、この経験を忘れることなく、一人ひとり大切にお付き合いができればと思っています。

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工業大学電気工学科卒業後、工務店、工事店、電気保安法人、太陽光のO&M会社などを経て、今現在は某電気保安法人にて、営業しております。もちろん、保安業務従事者としての登録済み(受託案件は0件)。
また、お客様と保安業者をつなげるサイト「キュービクル 保安点検価格比較サイト」のコラム及び業務のアドバイスを担当しております。
技術的な話よりも、業界を知らない方向けのお話を中心に執筆できればと思っております。
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