足場の解体撤去問題
これは、私が中国地方で発電所工事の安全専任者として関わっていた頃の話だ。現場は最後の追い込みの時期。
元請けの下に入っていた7社ほどのサブコンは、私がいた電気の配線および計装関係の会社を含め、一番忙しい時期だった。特に、いくつかある建屋の中のボイラー棟と呼ばれる、最高高さ80mの鉄骨むき出しのプラント棟の中が一番工事が錯綜していた。
鉄骨構造体の中を縦横無尽に走る、様々な機械配管や電気ケーブル、電線管を取り付けるために設けられた各社の仮設足場の解体撤去は、各社が独自に設けただけに、解体時期やその足場を利用している他業者との間でトラブルが絶えなかった。
それぞれ別のサブコンが構築した足場だが、近接する場合は、どうしても補強のために所々単管パイプで繋いで強度を確保する必要があり、接続部が解体時にドンドン取り払われ、足場自体の強度がドンドン落ちていた。
さらに、込み入った作業が近接して行われている現場では、足場の解体自体が非常に危険の伴う作業となっていた。
足場の解体のみならず、最後の仕上げのために止む無く高所での作業が発生した時には、外壁など一切ない鉄骨構造体の建屋だけに、作業者がちょっとバランスを崩しただけでも、大きな事故に繋がる可能性が非常に高い状況だった。
楊重監視人のツボ
各サブコンがそれぞれに組み立てた足場は、至る所で解体作業が始まり、建屋の周囲につけた4~5台の70トンクラスのレッカーによって、毎日建物の各部から仮設材の搬出が行われていた。
それだけの数の楊重作業が同時に行われる現場を想像してもらえば分かると思うが、吊り荷が同時にあっちこっちで動いている。それぞれに楊重監視人が付き、楊重時にはサイレンを鳴らすのだが、一番大切なのは、その下の状況を見ながら合図をすることだ。
吊り荷そのものの安定はもちろん大切だが、その現場で最重要なのは、吊り荷の下を行き来する人間と車両に対する適切な合図と指示である。2~3回楊重を繰り返せば、その吊り荷の経路はほぼ一定の経路をたどることが分かる。
つまり、その経路下に最も注意しなければいけないわけで、そこに神経を集中させなければならない。また、必要に応じて、危険なところには立ち入り禁止の区画をしたり、安全通路を変更しなければならないのは言うまでもない。
ただ何となく楊重を見てるだけでなく、絶対に吊り荷の下は誰も通さないぞ!くらいの気持ちで楊重監視人をやらねばならない。
安全担当の役割
足場の解体で今回一番感じたのは、やはり足場は組み立てた人間が解体するのが一番良い!ということだ。
通常の下から組み立てていく足場であれば、一般的な足場職人でも問題無いだろうが、ちょっと複雑な上から吊ってある足場などは、チェーンで吊ってある部分などがあり、どこが利いてるのか見極め、解体順を考えるだけで時間が掛かる。
ましてや、その場所が地上30mの高さであれば、見てるだけでも怖い!端からユックリ解体していくのだが、一つずつ一本ずつ落さないように外していくさまは、まさしくプロの仕事だと感じた。
当然、ネットを張ったり、下部には立ち入り禁止表示をするのだが、もし万一、安全フックが外れ墜落した場合を想像すると、その時私は一体何が出来るのか見ていて考えた。
前回の記事でも書いたが、仮にそんなことが目の前で起きても、私は結局墜落していく人間を見ながら何も出来ないだろう。考えただけでもゾーッとして怖い。そう考えると、安全担当という仕事は割の良い仕事ではないと思えてくる。
今回は良い経験になると思い割り切ってやったが、突き詰めて考えると、大変な責任のある仕事だとつくづく感じた現場経験だった。
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