地域工務店の未来はどうなるか
千葉県・旭市で自然素材を活用した住宅を提供する地域工務店・あさひワークス株式会社。
代表取締役の市東 英一氏は、在来木造の高品質化・スピード化・省力化のために普及が期待されている、サッシや断熱材等を一体化した「木造大型パネル」のユーザー会「みんなの会」の事務局長も務める。
そんな市東社長に、地域工務店の役割や顧客との向き合い方、大型パネルの今後の行方など、多岐にわたって話を聞いた。
ハウスメーカーとの差別化は必須
――起業されたのはいつ?
市東 英一氏(以下、市東) 起業して10年になります。もともと、地元の工務店に在籍していましたが、千葉県・旭市エリアには自然素材をもとに住宅提供する工務店が少なかったので、受け皿の一つの工務店になりたいとの想いで設立しました。
――地域工務店の課題は?
市東 ハウスメーカーやパワービルダーとの差別化を図ることではないでしょうか。同じような住宅を建築していたら地域工務店は埋没してしまいます。個性や特徴を出すことが大事になると思います。私は自然素材をふんだんに使用した住まいづくりを大切にしています。
また、地域工務店の特徴の一つとして営業マンがいないというものもあります。
そのことでお客様との出会いから引き渡し後のアフターフォローに至るまで、一人のスタッフがずっと担当している場合も多く、このことが強みになっています。
ハウスメーカーでは、営業、設計、現場監督をそれぞれ別の人間が担当し、アフターフォローは別会社が担当することもあります。
しかし、地域工務店では、一人のスタッフが担当しているので、お客様の性格や好みを把握することも容易になります。そのことが、お客様にも安心感を抱いていただけますし、より満足度が高い家づくりも可能になります。
地域工務店の良さは、規模は小さくても丁寧なコミュニケーションを図れる点だと思います。
顧客の要望通り建ててはいけない
――御社は大胆で挑戦的な提案も多い。
市東 お客様の家族構成や趣味、生活スタイル等を伺い、土地を確認した後、こちらからに提案しています。
というのも、私が独立する前の工務店では、お客様の要望を事細かに聞いて、それをすべて満たした提案をするスタイルを採っていました。
しかし、お客様は住宅建築のプロではありません。お客様の要望にのみ沿って住宅を建てると、しばらくしてから「こうしておけばよかった」とお客様が後悔するケースもあります。そうすると、「あなたは住宅のプロなんだから、事前に教えてくれても良かったじゃないか」というクレームもありました。
お客様の要望を満たした住まいが、お客様にとってベストでないことがあるのです。
あさひワークスの施工例
――具体的には、どのような提案を?
市東 現在の住宅の多くはビニールクロスやサイディング、シート貼りの建材を採用しています。このような材料は、建築会社側の都合で決められたものと思っています。
施工が簡単、コストが安い、施工時間が短い、などによる理由が大きい。
しかし、お客様にとって長い間過ごしていく住まいにこのような素材は適しているのでしょうか?
私は適していないと考えます。
空気環境や経年変化による風合いなどを考慮した場合、コスト的には高くなり、工期も長くなりますがますが、長く快適に暮らしていただけるような素材を使った住まいが真にお客様のための住まいとなり、長く愛着が持てるようになると考えます。
また、夏場は風などをうまく取り込み、日差しを遮る。冬場は北風を防ぎながら暖かい日差しを取り入れるなど、エネルギーが掛からない冬暖かく夏涼しい住まいを目指しています。
地域工務店は時間が掛かっても、お客様に寄り添い丁寧につくっていくことを大切にするべきだと思います。
大型パネルは自由度の高い木造建築にも導入できる
――新たに、建築家・伊礼智氏が設計した住宅で大型パネルを導入されたが、その経緯は?
市東 2018年12月に、早稲田大学創造理工学部とウッドステーション株式会社が、早稲田大学西早稲田キャンパス校内で木造大型パネル住宅公開施工実験を行いました。
その後、私たちが木造躯体一式を千葉県旭市へ移築し、見学会を7月29日に開催しました。しばらく、モデルハウスとして使う予定です。
早稲田大学西早稲田キャンパス校内で木造大型パネル住宅公開施工実験を行った
「大型パネル=プレハブ」とイメージされている工務店も一定数おりますし、ある程度形が決まっている建物には導入できても、自由度の高い建物には導入できないと思われている方もおりますが、プレカット工法に対応出来る建物であれば施工可能です。
木造建築の95%以上はプレカット工法ですから、自由度の高い木造建築でも大型パネルは対応可能なんです。今回の見学会で、自由度の高い建物でも大型パネルを導入できると確信を持たれた方も多かったですね。
移築された大型パネルを採用した住宅
――大型パネルの展望については。
市東 かつて木造軸組工法は「手刻み」が基本でしたが、1980年代以降はプレカット工法がその地位を確立しています。今は、大型パネルは珍しい工法と受け止められていますが、令和の時代では一気に普及していくと予想しています。これから、職人や大工が不足していきますから、その中でも木造住宅を供給するためには、大型パネルは必然的に導入が増えていくでしょう。
大型パネルの施工風景
また、大型パネルの普及が進めば、重い壁材を持つような肉体労働から、優れた技術への研鑽にシフトしていきます。若い頃の職人は給料も休みも少ない。他業種で働いている友人などから給料や休みの話を聞くと、「なんでこんな苦労してまで職人をやらなければならないのか」という気持ちも沸き上がってしまいます。職人という働き方を長続きさせる意味でも、大型パネルの導入は必要だと思います。
――市東さんは、大型パネルユーザー会「みんなの会」の事務局長もつとめられているが。
市東 高度成長時代以前は、家を建てる際は地元にいる大工さんに依頼をしていたはずでした。しかし今では、ハウスメーカーに代表されるように、組織として住宅建築を手掛ける会社に依頼することが圧倒的に多くなっていますもちろん、今でも一人親方のように自分で仕事を請け負う人もいますが、絶滅危惧種に近い存在です。
彼らは建築工事に対してはプロですが、資金計画やローンのこと、各種補助金の活用の仕方、法律的な変更点、断熱性などの最新の技術的知識等には疎い方も多いんです。すると、知識不足のために失注している場合もあるわけです。そういった困っている大工さんをサポートするのも「みんなの会」の役割です。
塩地社長から「大工の知識は、工務店やハウスメーカーに負けないレベルに達しているべき」と言われたことがあります。工務店はデザインやお客様対応など、新たな知識をどん欲に勉強しています。受注するためには知識武装も必要です。
工務店や設計事務所にはいろんなネットワークがありますが、大工はそういったネットワークに行く機会がありませんし、取り残されてしまっています。
みんなの会が拡大していき、各地方で地元の課題を大工さんや工務店が互いに共有し合える場に成長していければと思っています。
※みんなの会ホームページ:https://oppartner.jp/minnanokai/
※「あさひの家」完成見学会(10/28開催):https://oppartner.jp/minnanokai/news/219/