建設技能実習のメリット、デメリット
第1回目の記事では、『建設業界の技能実習・特定技能をはじめるルール』についてご紹介しました。本記事では、メリット、デメリットについて掘り下げていきます。
まずは、技能実習のメリットとデメリットを3つずつご説明します。
【メリット1:安定した人材確保】
技能実習は、1つの受入れ企業で3年間もしくは5年間雇用することになります。そのため、3年間他社に移動することなく自社内で人材を確保することが可能になります。
そして、技能実習3年間雇用後、特定技能へ移行することで合計8年間安定して人材を雇用することが可能です。その後、特定技能2号への移行も可能です。
月々の監理団体への管理費、送り出し機関への費用など日本人の雇用にはかからない費用が加算されるため実質日本人よりコストがかかりますが、現状日本人の採用が難しい企業様にとっては、十分なメリットになります。
【メリット2:計画的な採用が可能】
監理団体と契約する中で、求人票を回収してから入社まで約6か月間かかります。「約6か月後に入社すること」が採用の中で把握できるというのは、事業計画が作成しやすい等の企業側のメリットもあります。
現在は、新型コロナウイルスによりに入国時期の変動が出ていますが、新型コロナウイルス発生前は計画通り入国が出来ていました。
【メリット3:特定技能への移行が可能】
特定技能という在留資格ができた2019年から、技能実習2号修了後、特定技能1号への移行が可能となりました。技能実習2号修了後に特定技能1号へ移行した場合、合計で8年間の雇用が可能です。
その先の特定技能1号修了後、特定技能2号へ移行した場合は、特定技能2号の在留期間に上限がない為、永続的に雇用することが可能になります。また、特定技能2号では家族の帯同も可能になる為、特定技能2号の有資格者にもメリットがあります。
法務省の資料を元に作成
【デメリット1:日本語能力】
技能実習生は、現地の送り出し機関で日本語教育を経て日本へ入国します。日本語レベルは送り出し機関での教育内容、実習生個人の能力や国籍により異なりますが、企業側の認識として「簡単な会話可能なレベル」という認識が必要です。
【デメリット2:作業に関してはほぼ未経験】
言語と同様、作業に関しても入国前に送り出し機関で教育があります。そこで技能実習生は、基本的な技術は身につけて入国しますが、日本の現場で作業をするのは初めてになるので企業側も教育が必要になります。
実際の作業レベルは、外国籍の方だからというわけではなく、日本人の作業未経験の方とほぼ同等のレベルになります。
【デメリット3:作業内容が決まっている】
建設では、技能実習生が実習可能な職種・作業が、23職種35作業と決められています。
職種 | 作業名 |
さく井 | パーカッション式さく井工事 |
ロータリー式さく井工事 | |
建築板金 | ダクト板金 |
内外装板金 | |
冷凍空気調和機器施工 | 冷凍空気調和機器施工 |
建具製作 | 木製建具手加工 |
建築大工 | 大工工事 |
型枠施工 | 型枠工事 |
鉄筋施工 | 鉄筋組立て |
とび | とび |
石材施工 | 石材加工 |
石張り | |
タイル張り | タイル張り |
かわらぶき | かわらぶき |
左官 | 左官 |
配管 | 建設配管 |
プラント配管 | |
熱絶緑施工 | 保温保冷工事 |
内装仕上げ施工 | プラスチック系床仕上げ工事 |
カーペット系床上げ工事 | |
銅製下地工事 | |
ボード仕上げ工事 | |
カーテン工事 | |
サッシ施工 | ビル用サッシ施工 |
防水施工 | シーリング防水工事 |
コンクリート圧送施工 | コンクリート圧送工事 |
ウエルポイント施工 | ウエルポイント工事 |
表装 | 壁装 |
建設機械施工 | 押土・整地 |
積込み | |
掘削 | |
締固め | |
築炉 | 築炉 |
塗装 | 建築塗装 |
鋼橋塗装 |
※外国人技能実習機構HPより作成
そして、外国人技能実習機構「移行対象職種情報」にもあるように、作業に応じた作業内容も決められています。その中で、上記の職種・作業に応じた業務区分の条件に適合する必要があります。
業務区分は、下記の4つになります。
- 必須業務
技能実習生が修得等をしようとする技能等に係る技能検定、またはこれに相当する技能実習評価試験の試験範囲に基づき、技能等を修得等するために必ず行わなければならない業務です。全実習時間における作業時間の割合は、実習時間全体の2分の1以上です。
- 関連業務
必須業務に従事する人によって、当該必須業務に関連して行われることのある業務であって、 修得等をさせようとする技能等の向上に直接、または間接に寄与する業務です。全実習時間における作業時間の割合は、実習時間全体の2分の1以下です。
- 周辺業務
必須業務に従事する人が当該必須業務に関連して通常携わる業務です(関連業務に掲げる者を除く)。全実習時間における作業時間の割合は、実習時間全体の3分の1以下です。
- 安全衛生業務
それぞれ、従事させる時間のうち10分の1以上を安全衛生に係る業務に充てなければなりません。例えば、関連業務を全体の業務の90%行うこと等は当然出来ません。
建設特定技能のメリット、デメリット
次に、特定技能のメリットとデメリットを3つずつご説明します。
【メリット1:作業内容の汎用性が高い】
特定技能の作業内容は、技能実習の作業内容と比較して汎用性が高いです。特定技能の作業内容は、国土交通省HPに記載されていますのでご確認ください。
【メリット2:日本語レベルが最低N4以上】
外国籍の方々が特定技能を取得する方法は2つあります。
- 技能実習2号終了後、特定技能1号へ移行
- 技能検定・日本語能力試験を合格し、特定技能1号を取得
※日本語能力試験で求められるのは日本語レベルN4以上
国外からの特定技能希望の外国籍の方々や国内の留学生などは、特定技能の取得条件として最低N4(日本語能力試験)以上の日本語レベルが求められます。
※N4とは、基本的な日本語を理解することができるレベル。
- 読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた日常生活の中でも身近な話題の文章を、読んで理解することができる。
- 聞く:日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば、内容がほぼ理解できる。
【メリット3:専任技術者になることが可能】
一般建設業における専任技術者になる条件として、下記3つの内のどれか1つをクリアしなければなりません。
- 建設業種に応じた国家資格を持っている
- 許可を受けようとする建設業種の実務経験が10年以上ある
- 許可を受けようとする建設業種で定められた学歴+3年以上又は5年以上の実務経験
技能実習から移行し、特定技能2号まで業務を継続した場合は、上記の「2.許可を受けようとする建設業種の実務経験が10年以上ある」に当てはまります。技能実習2号から特定技能1号へ移行した場合は、特定技能2号で2年継続が必要です。
特定技能2号の方が専任技術者になることで、企業側は下記の2つのメリットがあります。
- 建設業許可の取得と維持が可能
※専任技術者がいなくなった場合、許可の維持は不可 - 新しく営業所・支店を出店することが可能
【デメリット1:給料が日本人と同等以上】
特定技能は技能実習と比較して、給料水準が高く設定されます。特定技能も「日本人と同等以上」の給与が求められます。特定技能の方のキャリア年数と、同等のキャリア年数の日本人の方の給与を照らし合わせ、給与設定をします。
受入れ負担金・登録支援機関委託費用など、日本人の雇用にはかからない費用が加算されるため、実質日本人よりコストがかかります。
【デメリット2:転職可能】
特定技能は転職可能です。経験者の採用が可能になりますが、その企業と個人の意向が合わなかった場合は、転職可能になります。自社内で技能実習から移行し、技能実習の期間中に自社を愛してもらう教育やレクリエーションを行うなど、転職の可能性を減少させる工夫が必要です。
【デメリット3:技能実習より採用が難しい】
特定技能の方の募集ルートは大きく分けて4つあります。
- 技能実習から特定技能への移行
- 留学生が技能試験と日本語能力試験を合格し、特定技能へ移行
- 現在海外にいる試験合格者、元技能実習生を集客する
- 現在日本にいる試験合格者、元技能実習生を集客する
理想は、「1.技能実習から特定技能への移行」です。なぜなら、採用が必要なく、技能実習の期間で企業側と技能実習生が良い関係構築ができていれば、転職防止にもつながるからです。
また、即戦力を求める企業様に対しては、3と4のルートが現実的です。
3に関しては、募集の際、技能実習を終えた元技能実習生が再度日本に入国したいと思うことが前提になります。そして、募集をかけることからスタートするので、どの位の期間に何名集まるかなどは不明確になります。
4に関しては、日本で技能実習が修了するタイミングが技能実習生によって異なる為、募集するタイミングの難しさはあります。
そして、建設業界のみ特定技能1号を受入れる企業側が毎月負担しなければならない「受入負担金」というものがあります。技能実習から特定技能1号への移行が最も安価になります。
1号特定技能外国人の区分 | 1人あたり受入負担金の月額 |
試験合格者 (JACが指定する海外教育訓練を受けた場合) |
2万 (参考:年額24万円) |
試験合格者 (JACが指定する海外教育訓練を受けない場合) |
1万5千円 (参考:年額18万円) |
試験免除者(技能実習2号修了者等) | 1万2千5百円 (参考:年額15万円) |
※引用:建設技能人材機構(JAC) 会費等の金額について
建設現場で就労可能な在留資格
技能実習・特定技能以外に、建設業界では就労可能な在留資格が6つあります。外国籍の方を直接雇用する際は、在留カードの確認が必須です。
- 永住者
- 定住者
- 特定活動
- 技術・人文・国際業務
※技術者(CADオペレーター、外国特有の建設様式を日本で建設する際の現場監督等) - 留学生
※勤務時間=週28時間上限 - 家族滞在
※勤務時間=週28時間上限
【3つの確認ポイント】
- 在留カードの有無
在留カードは原則として、常備していなければいけません。 - 偽造の在留カードではないか
近年、偽造在留カードの流出が問題になっています。最近では、偽造在留カードのチェックアプリもリリースされています。
引用:ビザマネHP
- 在留カード表面の就労制限の有無
在留カード表面に就労不可の記載がある場合は、就労できません。
建設業界で上記の技能実習・特定技能を含めた、上記の在留資格保持者が近年増加傾向にあります。2011年から7倍以上(1.3万人→9.3万人)に増加しています。
引用:国土交通省 「建設分野における外国人材の受入れ」
外国人雇用の注意点
外国人雇用が増加していくと、同時に注意すべき点が増えていきます。その点を整理していきます。
【注意点1:雇用してはいけない外国籍の方を雇用すること】
本来、雇用してはいけない外国籍の方を雇用することは「不法就労助長罪」に当てはまります。不法就労助長罪は、事業主へ3年以下の懲役又は300万以下の罰金等の処罰が課せられます。
外国籍の方々が不法就労になる3つのケースが下記です。
- 不法滞在者や非退去強制者が働くケース=本来日本に在留できない方を働かせてしまうこと
例)・別企業で失踪した元技能実習生
・在留期限が切れた方 - 入国管理局から許可なしで働くケース
例)・資格外活動許可を持ってない留学生
・難民認定申請中の方 - 入国管理局から認められた範囲を超えて働くケース
例)・週28時間以上就労する留学生・家族滞在の方
不法就労者を取り締まる為、建設業界では、国土交通省が2024年までに全技能者に建設キャリアアップシステムの導入を促す動きがあります。
【注意点2:技能実習生の失踪】
技能実習生の増加に比例して、失踪件数も年々増加傾向にあります。その失踪の大きな要因になるのは、送り出し機関・受入れ企業・監理団体が適切でないことが挙げられます。
引用:法務省「失踪技能実習生を減少させるための施策」
- 送り出し機関の問題
送り出し機関によってはブローカーが介在している機関も存在します。適切な送り出し機関かどうかを判断するためには、外国人技能実習機「外国政府認定送り出し機関一覧」をご確認ください。 - 受入れ企業の労働環境
受入れ企業での労働環境も失踪の大きな原因の1つです。教育、賃金、言語、差別の問題等が存在します。この問題に関しては、第3回の記事で深堀します。 - 監理団体としての適切な監査・指導
技能実習1号では、毎月監理団体が監査・指導を行います。そこで技能実習が計画通り行われているか否か、技能実習生との面談(特定技能を目指させる為の教育可能)等が行われます。
このような監査・指導を行っていない状況で、毎月多額の監理費を受入れ企業から徴収している監理団体も存在します。2020年に法改正もあり、今一度適切な監理団体を見直すこと、監理団体を比較することを検討してみてはいかがでしょうか。
技能実習・特定技能のメリット、デメリットまとめ
3年後や5年後の将来、建設業界の人材不足はより深刻化します。
例えば、優秀な日本人施工管理技士は海外へ進出する傾向があり、現場作業員も、若者の工業高校への進学率の低下や建設企業への入社率の低下、不法就労者の取り締まりにより、更に減少すると考えられます。
このような将来が予測される中で、外国人雇用は建設業界の新しい常識になってきます。そのため、今回技能実習・特定技能のメリット・デメリットの部分、建設業界で就労可能な在留資格と注意点をご紹介しました。
第3回では、「技能実習・特定技能を適正に行うための必要な3つの理解」について掘り下げていきます。
技能実習・特定技能のお問い合わせは、下記まで
グローバルキャリア職業訓練法⼈:https://gca.ac.jp/profile/
お問い合わせフォーム:https://gca.ac.jp/contact/
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※弊社にお問い合わせいただければ優良団体の紹介が可能です。技能実習から特定技能までワンストップでサポートいたします。