最近増えている “PCB処理問題”
最近じわりじわりと増えてきた、PCB(ポリ塩化ビフェニル)の処理問題。じわりと増えている理由は、処分期限が迫ってきているからです。
PCBは、以下のような特徴があります。
- 水に溶けにくい
- 沸点も高くて熱で分解しにくい
- 不燃性で電気絶縁性が高い
- 対薬品性に優れており、化学的にも安定している
電気機器の絶縁油としてはかなり優秀で、実際にキュービクル内に入っているトランスやコンデンサ、蛍光灯の安定器の絶縁油として使用されていました。
しかし、このPCBは、生体に対して毒性が高いことが判明しました。PCBが原因で癌が発症したり、皮膚障害、内臓障害、ホルモン異常を引き起こすなど、これまで多くの問題が指摘されてきました。
今現在は、製造・使用・輸入すべて禁止されているので、新しくトランスを購入してもPCBは入っていません。しかし、問題は、実はまだPCBが含まれているのにそれを知らずに使用し続けている方や、もしくは知ってて処理を先延ばしにしている方がたくさんいるということです。
PCBが処理されないまま、中古の物件として施設ごと売りに出され、それを知らずに購入し、物件の設備の一部にPCBが含まれていた、なんてことも最近増えてきています。まさか、私のお客様まで巻き込まれることになるとは・・・。
機械設置業を営むD社長
従業員20名の会社を営むD社長の仕事は、機械設置業です。引く手あまたなため、県を飛び越えてお仕事をされています。
実は、私と同級生という縁もあり、今働いている会社で保安業務の外部委託を担当させていただきました。
そんなある日、D社長から「業務拡大のため、新たに作業場を購入した」と連絡があったので、さっそく現地に向かいました。
「知らずに購入した」では済まされない
中古の物件を購入したとのことで、受電する前に精密点検を行いました。設備の銘板を確認している時、検査員があることに気づきました。
「このコンデンサ!もしかして、PCBが入ってる可能性があるな!キュービクル自体は割と新しいんだけど、コンデンサだけが中古品使ってるわ」
設備自体は全く問題なく、今からでも受電できる状態であることは確認ができましたが、コンデンサだけがPCBが入っている可能性があると判明。急いでD社長に説明をしました。
D社長は、状態が良さそうだから購入したのに、まさかこんなところで大金がかかる可能性が出るとは夢にも思っていなかったようで、最初は「購入したばかりなのに、なんでお金がかかるんだよ!」と激怒。
もちろんその気持ちにも理解を示しつつ、「このコンデンサだけが中古品を使用しているため、受電する前にコンデンサを更新してください。費用がかかってしまいますが、トランスとコンデンサのPCB検査をしましょう」と辛抱強くD社長を説得しました。
検査結果は・・・
どうにかD社長にご納得いただき、コンデンサだけ新しいものに更新(トランスなどはオイルを抜くことはできるのですが、コンデンサだけは密閉されているため、一度穴をあけて検体を取ると使えなくなる)し、問題のコンデンサも含めた絶縁油を検査機関に送って調べてもらいました。
結果は、やはり黒。コンデンサだけがPCBを含んでいました。しかし、不幸中の幸い、低濃度だったため処理するにも(高濃度と比較して)あまり費用がかからないことが分かりました。
低濃度と高濃度の違い
低濃度と高濃度の違いは、0.5超~5,000mg/kgまでが低濃度PCB、5,000mg/kgを超えると高濃度PCBとなります。
低濃度の場合は、全国で33社が処理を受け付けていますが、高濃度となると、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)でしか処理ができないため、輸送費を含めるとものすごい高額になります。
今回は低濃度だったため、弊社の協力業者に搬出から処理までお願いをしました。
処理期限に要注意!
その後、D社長と飲みに行った時、今回の話題が出ました。
「俺も、何も知らずに怒ったりしてすまなかった。あの後に調べてみたんだが、処理期限というのがあったんだな。その期限を超えるともっとややこしくなるというのを、もっと強く教えてくれれば怒らなかったのに!」
そう言われて、私もしっかりと教えればよかったと反省しました。このPCB問題のもう1つの恐ろしさは、処理期限が設けられていることです。その期限を過ぎると、3年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。
一部エリアでは、すでに受付期限が終了しており、近くで処理ができず、さらに遠くの処理場に持っていかなくてはならないという事象が起きています。詳しくは、環境省のポリ塩化ビフェニル(PCB)早期処理情報サイトをご確認ください。
「まさか、中古で購入した物件にこんな爆弾が残されているとは、本当に夢にも思わなかったよ!余計な出費があったのは痛かったが、でも隠したままだと不安だったよ。その不安のまま仕事をしたくなかったから、結果的には処理できてよかったよ」
D社長は、私にそう言ってくれました。この言葉が出るくらいなので、D社長は今後もどんどん事業を拡大されるんだろうなと思います。
幸い、私の会社は、全てのお客様がこのPCBの問題に対して協力してくださったため、すべての設備にPCBが入っていない、もしくは処分済みであることが確認できています。
しかし、日本中には、まだ先延ばしにしている会社も多いと思います。また、D社長のように、中古で購入した物件にPCBが入っており、購入してから余計な費用が発生してしまったという話を耳にすることも増えています。
「知らなかった」では済まされない問題なので、不安がある方は、外部委託をお願いしている担当者に問い合わせをするか、もしくは処理してくれる会社を調べて、その会社にお願いをすると良いと思います。
処理期限が近くなると問い合わせが殺到する可能性があるため、出来る限り早めに計画を立てて処理することをおすすめします。