体育館の解体工事における工期短縮の実例
職長会の会長をたくさん経験してきた私の経験の中から、ちょっとした実践的アイディアを紹介します。施工管理技士の皆さんにとって、工期・コストを抑えるヒントにつながれば幸いです。
今回は解体工事におけるベント(仮受構台)の組み立てについてのアイディアです。
事例となる現場は、体育館の解体工事。最大高さ18mのダイヤモンドトラス鉄骨を解体するため、ベント16基を組み立てていきます。ベントには、ヒロセ技研の資材を使用します。
まず検討会で決定した作業手順は次の通りでした。
- ベントの上から2段目に、H鋼(H形鋼)を仕込んで組み上げる。
- そのベントに仕込んだH鋼を、体育館内部の鉄骨屋根(下弦材の亀甲状の交点)からチェンブロックで引き揚げ、H型にセットする。
- 出来上がったベントのH鋼中央部分に油圧ジャッキをセットし、鉄骨屋根を受ける。
・・・しかし、実際の作業に当たっては、次のような問題が浮上しました。
- 問題1 上から2段目に仕込んだH鋼を引っ張りだして、上部にセットする手順は危険極まりない。
- 問題2 上部H鋼のセット作業は、1カ所3人で半日以上の時間を要する。
- 問題3 昇降階段や床(布板)があると、それらが邪魔をしてH鋼の引き上げができない。
- 問題4 逆に昇降階段や床(布板)がないと、最上部のH鋼セットの時に、作業床がない状態になる。
そこで、私の提案した対策が下記の内容です。
- 上部2段(真物+役物)とH鋼をまず床で組み、それをクレーンで吊り上げ、上部ではレバーブロックで引き込む。
- クレーンのフックは、上部H鋼の下に潜り込むようにして、玉掛けをする(ベント最上部のH鋼と、鉄骨下弦材との距離が1m以下であり、揚程を稼ぐため)。
- クレーンのブームの先端は、屋根鉄骨(下弦材)の間に差し込む。
- 偏芯率が500程度なので、レバーブロックでの引き込みが可能に(最後にセットされるベント頂部には、H鋼を乗せて固定してあるため、引き込む際に角度がきつすぎると、バランスが悪くなり危険度も増します)。
なお、クレーンの巻き上げワイヤーが下弦材の亀甲部分と擦れるため、ベント組み立ての作業終了後、ワイヤーを交換することを保証しました。
マルチトラスの1本を吊り天秤として使う
その後、組み立てたベントの骨組みの最上部に、水平ネットを張る作業でも、ちょっとした問題が出てきました。
- 問題5 ベントの頂部は水平に、ミニマルチで2方向に隣のベントとつなぐのだが、ベント間が8.5m離れているため、1本3.6mのミニマルチを3本つなぎで使う。
- 問題6 しかし、3本つなぎのミニマルチをワイヤーで吊ると、ねじれが出てしまい、うまく収められない。
この問題点は、次のように簡単に解決しました。
- マルチトラスの1本を吊り天秤に見立てて、上下をクランプで固定して吊り上げる。
- 地組みしたミニトラスが垂直に安定し、ベントの頂部固定がスムースに。
これは我ながら、「グッドアイデア!」と心の中で叫びました。そして、全体に水平ネットを張り、解体作業に向けてベント組み立て作業は最終段階に入ったのですが、またしても、これまで以上に大きな問題が発生しました。
発注者と元請けから、せっかく組み上げたベントのうち4基を、いったん解体してほしいという依頼が入ったのです。
途中でベント4基を解体する緊急事態
解体する体育館には、ホテルが隣接しており、体育館の地下には、そのホテルに電気と温水を供給するインフラ設備がありました。その変電設備に雨漏りが発生し、ちょうど変電設備の上にあるベント4基を解体しなければ、変電設備を修理できないというのです。
このベント4基は、上部にH鋼、ミニトラス、水平ネットと、とても苦労して組み上げた部分が乗っています。これを一度ばらして、また組み上げる場合、かなり作業日数が増えてしまいます。
そこで、私は次のように対応しました。
- ベントの上部(1~2段)を、解体前の既存鉄骨(屋根鉄骨)から吊り上げる。
- ベントの支柱(4本)について、ジョイントボルトを外し、2段ずつ解体する。
- 上部ベントを10cmほど吊り上げ、下部ベースジャッキごと横に移動。
- 再びセットすることを考慮し、2段ずつのユニットで仮置きしました。
・・・上記のような対応をすることで、必要最小限の解体にとどめ、工期・コストをかなり抑えることができました。
建設現場では、いつも臨機応変のアイディアが求められます。いち職長の経験談ですが、いざというとき、アイディアを創出するためのネタの一つとして、ご活用いただければ幸いです。