「探究心を持ちながら実際に経験を積めば、一人前になれる」

中井 利幸さん(西松・安藤ハザマ・青木あすなろ特定建設工事共同企業体所長)

「5年後、10年後に気づく時が来る」 ダム建設の現場所長が語る”大規模な現場での心得”

2023年3月の完成を目指し、工事も佳境

熊本市内を流れる白川流域の治水対策として、2018年から建設が進む流水型ダム(穴あきダム)の立野ダム(曲線重力式コンクリートダム)。2020年10月には堤体コンクリート打設がスタート。

2023年3月の完成を目指し、工事も佳境を迎えつつある。熊本地震の影響により、工事の着工が遅れ、タイトな工期のもとで工事が行われているが、進捗は順調だろうか。そんな思いをもちながら、現場所長を訪ね、いろいろ話を聞いてきた。

立野ダムコンクリート打設を開始

――工事の進捗はどうですか?

中井さん 2020年10月1日に、本体コンクリート打設開始を開始しました。これは当初予定していたスケジュール通りで、第一段階としてクリアできたと考えています。これまでのところ順調にきています。

――これまでの工事でポイントだったところは?

中井さん 現在進行中ですが、掘削して堤体が乗る基礎岩盤工事ですね。ダム工事全体で見ても、最も大事な部分です。ダムとしては中規模とは言え、高さ87mの構造物が上に乗るわけですので、堅固なものでないと、大変なことになります。掘削する際には、岩盤が緩まないように細心の注意を払い施工します。特に立野ダムは節理が発達した柱状節理がありますので、柱状節理が緩まないよう、いかに掘削するかに主眼を置いて掘削しました。

コンクリートを打つ前に必ず基礎岩盤の検査を受けます。基礎岩盤の上に残る、建設機械で取り去ることができなかった小さな岩塊や汚れを水洗いしながらキレイに除去します。その上で、岩の割れ目の状況や岩質などをしっかり見極めます。この見極める作業はとても大切です。もし計画との相違がある場合は、その部分を取り除く必要があります。そして検査を受けて合格してからコンクリートを打設します。これらを繰り返しながらダムをつくります。ダムが完成すると、当然人目に触れることはない部分ですが、ダムの一番大切な部分です。

堤体の作業状況(12月上旬時点)

――今後の工事のポイントは?

中井さん 今後は堤体部のコンクリートを打設し上げていくことになりますが、それに合わせて、引き続き同じように基礎岩盤面の処理も行っていく作業があります。品質の高いコンクリートを打設していくとともに、堅固な岩盤も確実に出していく。これがこれから一番重要なポイントになってきます。私もいくつかのダム工事を手掛けてきましたが、その中でも、立野ダムは難易度の高いダムだと思っています。

ケーブルクレーン自動化で作業効率向上へ

――コンクリートは現場で製造するのですね。

中井さん はい。コンクリートは、現場に設置したバッチャープラントで製造します。一般の土木工事では街中の生コンプラントよりコンクリートを購入しますが、ダム工事の場合は規模が大きいため街中の生コンプラントでは供給能力に限界があり、通常は現場にて骨材・セメント・水を混ぜ合わせ製造します。

材料の調達は、水以外の材料を購入しています。特に骨材は最大寸法が150㎜のものを使用するため、製造能力と供給能力を兼ね備えているところから購入する必要があります。もちろん、骨材やセメントそのものの品質も規格を満たしている必要があるため、材料の購入先は良く確認し慎重に選ぶことが重要となります。

打設場所までコンクリートを運搬するケーブルクレーン

――コンクリートを運ぶケーブルクレーンの自動運転化も行っているそうですね。

中井さん そうです。正確に話すと、自動運転化は試験段階で運用までは至っていません。現在は自動運転化に向けての様々な動作確認をしている段階で、全ての問題が解決できれば自動運転化を実施したいと考えています。建設業界の問題として作業員の高齢化や熟練工の不足といったことが言われているなかで、その打開策のひとつとして自動運転化をあげることができます。

同じ物を吊って目的場所まで運び降ろすといった繰り返し作業は自動化に向いているのですが、運搬する途中に障害物がある場合や運搬する物がコンクリート以外の多様な資機材の場合は、事前に入力するデータが多くなり、複雑なプログラムを必要とし実用が難しくなります。今は必要最小限の自動運転化を目指して作業をしています。実践を積み重ね、1段ごとの階段を確実に上り、更なる目標を目指して自動運転を進化させたいと思います。

――そのほかにはありますか?

中井さん ダムが載る岩盤を出す作業の基礎掘削では、ICT建設機械を使いました。従来の掘削は、測量して丁張りをかけて、それを目安に重機オペレーターが地山斜面を掘削していくわけですが、3Dモデルの掘削図面を作成し、そのデータをICT建設機械のシステムに入れることにより、オペレーターは丁張なしで掘削することができます。

丁張を設置する作業がないことにより掘削作業中の待ち時間がなくなるので、作業効率が上がりました。ただ、今現在はICT建設機械そのものが真新しいかというとそうでもなく一般的に多く活用が図られていますので、特別な作業というわけではなくなりつつあります。

指示を伝えるためには、相手に納得してもらうことが必要

――現場内のコミュニケーションについて、気をつけていることはありますか?

中井さん どんなにICTやCIMといった技術が発達しても、現場で細かな指示を出すのは人です。指示を出す側は、その内容をまず相手にわかってもらわなければなりません。ただ言葉で伝えるだけでは、こちらが考えている通りになかなかなりません。

ちゃんと指示を伝えるためには、相手に納得してもらうまで説明し、場合によっては図面や写真を用意し、それでも理解が不十分である時は、その場でわかり易い”手書きの絵”を作成して、確実に理解納得してもらうことが必要と考えています。JV職員に対しては、相手にわかりやすく伝え、納得していることが確認できるまで”しつこく”説明するよう、常々言っているところです。

――現場には、若い女性職員もいらっしゃいますが、彼女に対するコメントを。

中井さん 女性の場合、男性と比べると、どうしても体力面で同じような仕事ができない場面があります。その辺はしっかり配慮する必要があると思っています。また、エンジニアとして身につけなければならない技術や知識を早く習得できるようにサポートしていきたいと考えています。

技術力は経験に左右される部分が大きいので、実際にモノを見たり、音を聞いたり、肌で感じ取ることが大切になってきます。彼女には、常に現場で起きている事象に対して探究心を持ちながら、そういう経験をたくさんして、成長していってもらいたいと思っています。いくら経験を積んでも、自分で真実や原因を追求する気持ちがないと、どうしてもある一定のところで成長が止まってしまうので、どんなことにでも関心を持って取り組んでもらい、早く一人前のエンジニアになって欲しいと思います。

この現場は規模が大きな現場なので、工種も多く、情報量が非常にあります。そのため、規模の小さな現場と比べて、全体の仕事の流れがつかみにくい面があります。次から次へと発生する多くの情報をいかにうまく吸収できるかで成長のスピードが異なってきます。上司がわかりやすく教えたとしても、それは本人にとって情報のひとつでしかなく、多くの情報に埋もれてしまうこともあるからです。若い職員を育てるのに、規模の大きな現場が良いのか、規模の小さな現場が良いのかは、判断が難しいところです。

ただ、規模の大きな現場に入った若い職員がすべてを吸収しきれなかったとしても、気にすることはないと思っています。5年後、10年後に「あの時のことはこういうことだったんだ」と気づく時が来るものです。それよりも、規模の大きな現場を動かすことができるのは、大きな現場で育ち学んだという経験を培った職員でしか成し得ないということのほうが大事だからです。今は「なんのためにこれをやっているのかわからない」と思っているとしても、まずはそこまで頑張って続けてほしいですね。

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